【一斉休校】自ら学ぶ姿勢 「けテぶれ」の葛原教諭に聞く

「一斉休校」で懸念されているのが、子供の家庭学習。学校から多くの課題が出されたり、保護者が市販のドリル教材を買い与えたりしているが、子供が自ら学習する習慣を身に付けさせる視点も重要だ。宿題を通じて、子供が自ら「計画」「テスト」「分析」「練習」の学びのサイクルを回す「けテぶれ」を編み出した葛原祥太・兵庫県西宮市立夙川小学校教諭に聞いた。


「けテぶれ」を回せるような勉強を積み重ねよう
――突然の一斉休校に、葛原先生はどのような対応をしたのですか。
「けテぶれ」の実践で知られる葛原教諭

学校は3月3日から休校となり、終業式はその日に放送で行いました。卒業式は短縮して19日に開催する予定です。私は6年生の担任なので、一斉休校の決定後は、卒業式を短縮した場合にどうするかという会議とリハーサルで忙殺されました。

担任するクラスでは、3月は、漢字の3学期まとめテストと、歴史の1年間総まとめテストを予定していました。子供たちには前もって予定表を配っていたので、テストの問題と答えを配って「学校が休みになっても、予定表通りにテストをしてみて」と言いました。それから「それまでに1人で『けテぶれ』を回せるような勉強を積み重ねよう」とも伝えました。

子供たちは、予定された日、時間にそれぞれの家で一斉にテストを開始するはずです。やはり、「人に決められ、やらされている」と思っていたら、いつまでも自分で学ぶ姿勢は身に付きません。そうではなく「自分で決めて自分でやる」ようになれば、何でも楽しくなります。テストの本番に向けて、それぞれの家庭で頑張る。会えなくても頑張っているクラスの友達を想像しながらテストを受ける。その姿を思い起こすと、実に楽しそうです。

必要なことを必要なだけやっていると思います。私のクラスでは、休校になる前から「中学校の勉強を先取りする」と言って、問題集に取り組んでいる子供や、反対に、算数が苦手だからと、小学校の総復習的な問題集に取り組んでいる子供もいました。そういう子供たちは、その勉強に引き続き取り組んでいるのではないでしょうか。

勉強に対する認識が変わらないと「自ら学ぶ」姿勢は生まれない
――急な休校に対して「けテぶれ」を身に付けておくと、どんなメリットがあるのでしょうか。

まず、教員の側からすれば、1~10まで、課題とその取り組み方を説明して与えなくてもよくなることは、大きいと思います。むしろ、1年間積み上げてきた自己学習のスキルを使うチャンスと捉えることもできるでしょう。そういう構造は、夏休みや冬休みの長期休暇でも見ることができます。

実際に私の学年では、夏休みの宿題で学習内容を細かく規定するのをやめました。その上で、休み明けに国語と算数で前の学期の総復習テストをやるようにして、「その勉強をしてきなさい」と伝えただけです。普段からこういうことに慣れていれば「学校がなくなった。勉強はどうしよう」と右往左往することはありません。

子供の側からすれば、やはり、勉強面で過度に不安にならずに済む効果があります。「けテぶれ」によって「勉強とは先生から与えてもらうもの」という認識は薄れ、「勉強は自分の力で積み上げるもの」という意識が育ちます。

この「自分の力で」の中には、分からないところは自分で試行錯誤をしたり、友達や保護者、先生に聞いたり、インターネットで調べたり、さらには、SNSで広くアイデアを求めたりするという選択肢もあるでしょう。

今回の一斉休校では、単にその中の「先生に聞く」という選択肢が消えただけのことです。また、子供の意識の変化として「勉強はできるだけやらずに逃げられると得」という感覚から「勉強はできるだけ必要なことを見いだして向き合う方が得」という感覚に変わるのも「けテぶれ」の強みです。その先には「勉強は楽しい」という世界が待っています。

このように「けテぶれ」という「方法」は、その中で学習に必要な「マインドセット」を構築することです。「方法」を知っているだけでは動けません。自分の中で勉強に対する認識が変わらないと「自ら学ぶ」姿勢は生まれないのです。そして、そうしたマインドセットさえできあがれば、勉強の方法が「けテぶれ」であろうがなかろうが、問題はありません。「けテぶれ」を学んだ子供たちには、この休校で、自分たちは学校に頼らなくても勉強ができるということを実感してほしいです。

子供たちに自ら学ぶマインドセットは育っているか
――今回の一斉休校で、子供の学びについて、どのようなことを課題に感じていますか。

今回の一斉休校を受けて、ツイッターのタイムラインには「けテぶれ」というワードが明らかに増えました。しかし、こういう緊急事態が起こらなくても、いずれ子供たちは学校に行かなくなります。

厳しい見方かもしれませんが「急に学校がなくなって、どうやって勉強をさせようか」と考えてしまうということは、これまでの教育活動の中で子供たちに「自己学習力」とそれに必要なマインドセットを育むことができていなかったということです。ましてや、今は1年間の学びの終わりです。その延長線上に、子供たちが自ら課題を見つめ、自分で学びを進めるような未来はありません。

何かを変えなければ、子供たちは自ら学ぶ力を学校で得ることができない。それは、今の日本人を見ても分かると思います。大学受験が終われば学びをやめてしまう大人がいかに多いことか。今の学校教育は、子供たちに「自己学習力(方法とマインドセット)」を育てることができていないのです。

そんな中、今回の一斉休校を受けて社会は「学校がなくても学べる環境づくり」に強く意識が向きました。さまざまなウェブコンテンツが公開され、NHKまでも休校中の子供たちに向けて教育番組を制作し始めています。

しかし、いくらコンテンツが増えても、肝心の学び手である子供たちに、学びに向かうマインドセットが育っていなければ、そのコンテンツを受け取ることはできません。自分で学ぼうと思えばいくらでも学べる世界において、最も成長するのは「自分で学ぼうと思える人」です。今回の休校で、そういうマインドセットが子供たちに育っていたかどうかが問われるのではないでしょうか。

――家庭学習で「けテぶれ」をやってみようと考えている教員、子供、保護者にアドバイスを。

「けテぶれ」は単に学習のサイクルを短い言葉で言い表しただけです。キャッチフレーズとして受け取りやすく、自分で勉強することに対するハードルが下がります。その結果、すぐにテストの点が上がったり、勉強が楽しくなったりする子供も多いでしょう。

しかし、その姿はあくまでも、水族館の水槽にいたイルカを海に放すと、勢いよく遠くまで泳ぎ出したのと同じ状態です。そういうイルカを見て誰も「成長したな」とは思いませんよね。それは、単にそのイルカの本当の姿が現れただけにすぎないからです。

「けテぶれ」の本番はその先です。やろうと思えばどこまでもやれる、本当の自分が現れる環境になって初めて「本当に自分が好きな教科、苦手な教科」「本当に自分が持っているエネルギーの量」「自分が最も力を出せる時間」が見えてきます。そういう「自分の本当の姿」に出合えたとき、本当の成長への旅が始まります。自分で決めて自分で進むためには、本当の自分について深く知っていなければなりません。

それは、時にはとても苦しい。サボりたい心に負けたり、言い訳をして勉強に向かい合っていなかったりした事実と自分で向き合わなければならないのです。しかし、その先には今まで感じたことのない充実感があります。自分で決めて自分で進もうとした人にしか味わえない充実感です。この充実感が、苦しいときに次の一歩を踏み出させるエネルギーとなり、自ら勉強をするためのマインドセットが育ち始めます。

「けテぶれ」を始めるのなら、ぜひ、この段階にまで到達してほしいと思います。

子供のサポーターになる大人にも伝えたいことがあります。自分で自分の姿を見るのはとても難しいことです。子供たちは広い学びの海の中を必死でもがきながら進もうとしています。持っているのは「けテぶれ」という最低限の道具のみです。当然進むべき方向が分からなくなることもあれば、進み方が分からずに沈んでいきそうになることもあります。最初からコツをつかんでスムーズに進める子供ばかりではありません。

そういうときは、存分に手を差し伸べてあげてください。学びの海で右も左も分からなくなり、海自体が怖くなってしまえば、元も子もありません。大切なのは、まず型にはめることです。足のつく浅瀬で泳ぎの練習をするようなイメージです。沖に出るタイミングは、型を無理なく、高速で再生できるようになったときです。

学びの海に泳ぎだした子供たちをサポートするときにも注意があります。自由に楽しく泳ぎ回っているように見える子供たちの学びの姿は、大人の私たちからすれば、非効率的、非効果的に見えるときもあります。そのとき、頭ごなしに大人が思う「正しい方法」を押し付けてしまっては、勉強に向かうマインドセットを傷つけてしまいます。

あくまでも、勉強の方法はマインドセットを育むための手段にすぎないと捉えてください。「点数が上がらない」「勉強が面白くない」といった停滞が見られたときに、必要なだけの言葉掛けをしてあげることが必要です。

最終的に、勉強は一人で頑張るものです。だからこそ、同じように頑張っている仲間の取り組みは大変刺激になります。ぜひ、そういう仲間の努力の方法を知る機会をできる限りたくさん作ってあげてください。

【プロフィール】

葛原祥太(くずはら・しょうた) 兵庫県西宮市立夙川小学校教諭。1987年、大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、兵庫教育大学大学院に入学。卒業後、赴任した兵庫県の公立小学校で「けテぶれ」をはじめとするユニークな実践を展開。SNSなどを通じて広まり、話題となる。著書に『「けテぶれ」宿題革命!』(学陽書房)。

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