18歳が見た沖縄のリアル 映画「ちむぐりさ」監督に聞く

沖縄の歴史と現実をどう伝えるか――。沖縄県にある夜間中学が併設されているフリースクール「珊瑚舎スコーレ」に通うため、石川県からやってきた坂本菜の花さんの視点を通じて、米軍基地の辺野古移設問題をはじめとする沖縄のリアルを見つめたドキュメンタリー映画「ちむぐりさ」が3月30日、東京都中野区の「ポレポレ東中野」で公開された。珊瑚舎スコーレの学びを追い続けた沖縄テレビ放送の平良いずみ監督に、沖縄の現状をどう伝え、どう学ぶべきかをインタビューした。


子供からお年寄りまでが一緒に学ぶ珊瑚舎スコーレ
――映画の前半では「珊瑚舎スコーレ」での夜間中学で学ぶお年寄りとフリースクールに通う子供たちの交流が描かれます。どうしてこの「学校」に注目したのでしょうか。
菜の花さんを通じて沖縄の問題に迫った平良監督

沖縄テレビでは、珊瑚舎スコーレをカメラマンが「定点観測」し、追いかけ続けています。2015年の戦後70年を記念したドキュメンタリーで珊瑚舎スコーレの夜間中学で学ぶお年寄りを主人公にした番組も制作しました。

夜間中学で学ぶお年寄りは本当にきらきらしていて、学ぶことは生きることだと教えてくれる存在です。みんな底抜けに明るい人たちばかりなのですが、自分の名前さえも書けず、役所に行くときは子供に一緒に来てもらって名前を書いてもらった恥ずかしさや、商売をしていても、明らかにだまされているのに文字を見せられると分からないから、泣き寝入りするしかなかったといったエピソードを耳にすると、学校に通えなかったことが、彼らの人生に深い傷を残しているのだと痛感させられます。

そのドキュメンタリー番組で取り上げたお年寄りと入れ替わるようにフリースクールに入学してきたのが、菜の花さんだったのです。

菜の花さんは石川県の能登半島にある旅館で生まれ育ち、沖縄では奨学金を得つつアルバイトをしながら珊瑚舎スコーレで学んでいました。沖縄で経験した日々を北陸中日新聞で「菜の花の沖縄日記」というコラムに書き続けていて、その記事を珊瑚舎スコーレで偶然見かけたのが、今回の企画の始まりでした。

県外出身の18歳を通して沖縄のリアルを映し出す
――沖縄出身ではない菜の花さんを通じて沖縄の現状を切り取ろうと考えたのはなぜですか。
現場を訪れ、沖縄の人々の現実に耳を傾ける菜の花さん(左)(太秦提供)

彼女の言葉が、皮膚感覚としてずしんと響くのです。

決め手になったのが、2016年に起きた米軍関係者による女性殺害事件のときでした。その抗議集会には、私自身も参加したのですが、とても暑い日で、集まった6万人はみんな、ただただ悲しくて悔しくて、静かにその思いを共有していました。もう本当に、「これで終わりにしよう」と願いながら生活に戻っていくのです。

しかし、この集会をニュースにしても、1、2分のニュースでは、そこに集まった人々の思いは伝えきれません。それに対し菜の花さんは「『日米首脳会談の最悪なタイミング』や『辺野古の反対運動が大きくなる恐れ』という言葉が、私ののどに刺さって抜けません」と表現していたのです。「これだ!」と直感的に思い、その力を貸してほしいと頼みました。

沖縄の人にとっては、こうした事件があまりにも相次いで、慣らされてしまっている面もあります。外の視点を持った菜の花さんという橋渡し役がいることで、穏やかな日常に、こんなにも命を脅かすことが頻繁に起きているのが鮮明に伝わります。

もう一つ、この作品は本土の若い人たちをターゲットに制作しています。なぜ沖縄の人がこれほどまで米軍普天間飛行場の辺野古移設問題に反対し続けるのか、戦後から続いている歴史的背景を分かってもらいたいのです。

今、インターネット上では、いろんな沖縄ヘイトがあり、辺野古での抗議活動がその象徴となっています。なぜ人が座り込みまでしなければいけないのか。それを突き詰めて考えていくと、私たち県民にとって基地問題は政治の問題であると同時に、暮らしや命の問題でもあるのです。だからみんな怒り悲しみ、行動し続けている。その思いを映像化したかったのです。

沖縄をどう教えるか
――沖縄の歴史や現在の基地問題などを、どうやって教えていけばいいのでしょうか。
他人の心の痛みを自分のこととして受け止めるという意味の方言「ちむぐりさ」(太秦提供)

それは、私たちメディアにとっても命題です。沖縄でも6月23日の「慰霊の日」に合わせて、学校では平和学習が行われるのですが、やっぱり教員はどう教えたらいいか悩んでいます。教える側も学ぶ側も戦争を直接知らない世代で、実感がない。平和学習をしても、子供たちからは「戦争は怖いなと思った」「平和を守っていかないといけない」など、通り一遍の感想しか返ってこないことも多いのです。

取材を通じて、そういう教育現場の悩みを聞いていたこともあり、テレビとして何ができるかと考えたときに、珊瑚舎スコーレのお年寄りの姿が目に浮かびました。戦争が、今を生きている人の人生に暗い影を落とすこと。でも人間は、学びによって、生き生きと輝けることを伝えたら、何か感じてもらえるのではないかと思ったのです。

戦争体験をどう継承していくかという問題に、私も明確な答えを持ち合わせてはいないのですが、戦争体験者が今後いなくなったときのために、今まさに、その思いを必死に拾い集めています。その種によって、行動を起こす人たちがいると思うので、丹念に取材していきたいです。

――この映画を教員にどんな視点で見てほしいですか。

教育現場でも沖縄の問題をどう扱うか、悩んでいる先生も多いと思います。ぜひこの映画を活用してもらえたらと思います。テレビ版は2018年5月に放送したのですが、都立高校の先生から「修学旅行の事前学習で使いたい」という反響も頂きました。沖縄で先行上映されたときは、県立高校の先生が見に来てくれて、「慰霊の日」に合わせて講演の依頼も頂いています。若い人たちが沖縄について考えるきっかけになる作品だと思っています。

【プロフィール】

平良いずみ(たいら・いずみ) 1977年生まれ。99年沖縄テレビ入社。医療・福祉・移民・原発・基地問題などのドキュメンタリーを制作する。主な作品に「沈黙を破る時~米軍機墜落の恐怖、今なお」(ギャラクシー賞奨励賞/報道活動部門奨励賞/FNSドキュメンタリー大賞特別賞)、「まちかんてぃ~明美ばあちゃんの涙と笑いの学園奮闘記」(15年日本民間放送連盟賞優秀賞)など。

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』

石川県出身の坂本菜の花さんは、沖縄県のフリースクール「珊瑚舎スコーレ」で沖縄の文化や言葉を学びながら、併設されている夜間中学に通うお年寄りとの交流を通じて、沖縄では戦争の影響が生き続けていることを肌で感じ取っていく。沖縄で起こる基地問題や米軍による事件、事故に対し、本土との温度差を感じた菜の花さんは現地を訪れ、そこで暮らす人々の声を聞き、故郷の地元紙のコラムで発信し続けた。18歳の視点を通して、沖縄のリアルが浮かび上がる。

監督:平良いずみ(たいら・いずみ)
カメラマン:大城茂昭(おおしろ・しげあき)
プロデューサー:山里孫存(やまざと・まごあり)
配給・宣伝:太秦

ポレポレ東中野ほか全国順次公開

公式ホームページ


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