【学校再開に備える】感染防止へ 養護教諭の役割を聞く

新型コロナウイルス感染症による臨時休校は、東京都などが5月6日まで延長する一方で、感染者数が少ない地域では、4月6日から再開するケースも少なくない。学校再開にあたって、感染防止対策の中心的な役割を担うのが養護教諭だ。今回の臨時休校の対応に関して養護教諭を対象にしたアンケートを実施した戸部秀之・埼玉大学教授に、学校再開に向けて、養護教諭を中心に、学校と家庭がどんな感染防止対策を展開すべきかを聞いた。

突然の休校による副作用に注意
――全国一斉の臨時休校から1カ月が過ぎました。どのような点を課題として感じていますか。

臨時休校は、子供が集まる学校での感染を防ぐという意味では一定の効果があったと思います。しかし、副作用も大きかった。特に学校保健の観点では、2月末の安倍晋三首相の要請から一斉休校に入るまでにわずかな日数しかなかったため、新型コロナウイルス感染症に対する理解や、どういう行動を避けるべきかなどの保健指導を行う時間が十分に取れませんでした。

取材に応じた戸部秀之教授(戸部教授提供)

また、私が行ったアンケートによれば、臨時休校中の子供の状況について、養護教諭の間で最も懸念されているのは、ネットゲームのやり過ぎをはじめ、睡眠不足や運動不足などによる生活習慣の悪化でした。

突然の休校で保護者のメンタルが不安定になり、その影響を子供が受けてしまっている状況もあります。虐待傾向にある家庭や貧困家庭の子供の様子が把握しにくいことも気がかりです。

さらに、普段から保健室登校をしていた子供や学校に行きたがらない子供にとって、長期間の休校が与えた影響は大きいと言えます。学校が再開したときに、そうした子供が不登校になる可能性もあるので、注意が必要です。

養護教諭に大きなプレッシャー
――国内での感染が続いている状況で、学校を再開することをどう思いますか。

学校再開は、感染リスクと、学習の遅れや子供のストレスなど、副作用とのバランスをどう取るかという問題ですが、現状では、感染拡大を防止することがメインであることは言うまでもありません。特に、感染者が急増している大都市圏で、今、学校を再開することは非常にリスクが高いと言わざるを得ません。密閉空間、密集場所、密接場面の「3密」を学校で防ぐのは至難の業です。学校が再開した後に、もしも校内で感染者が見つかったら、さらなる感染拡大は防げないと思います。

――学校再開で養護教諭の負担の増加が懸念されます。

学校で感染症に対する専門的知識を一番持っているのは養護教諭になるので、プレッシャーは大きいです。例年、ただでさえ年度初めから6月にかけては、養護教諭は子供の健康診断に追われ、1年で最も忙しい時期に当たります。新型コロナウイルスの感染防止対策を進めながら、健康診断の日程調整をしなければならなくなるのはかなり負担です。

さらに、家庭で発熱や咳(せき)の症状があれば出席停止扱いで対応することになりますが、学校内で子供にそれらの症状がみられたとき、学校としてどう対応すべきかが難しい。保護者が引き取りに来るまで保健室で休ませれば、保健室を利用する他の子供や養護教諭自身への感染リスクが高まります。感染の疑いが出た子供をどう隔離すればいいか。別室を設けることができれば理想ですが、多くの学校は無理でしょう。

――学校での感染防止対策はどう進めていけばよいでしょうか。

消毒は、道具や手すり、机の上など、子供が手に触れることの多い物や場所を中心に徹底することになると思います。各教室の消毒作業は担任が行うなど、教職員で分担して行う必要があります。養護教諭へのアンケートでは、消毒液やマスクの不足を心配する声が多く挙がっていました。頻繁に消毒できればいいのですが、それが難しい状況で、どうやって工夫していくかを考えなければなりません。

養護教諭のみならず、今や大半の教員が感染拡大防止を最優先に考えているはずです。校長のリーダーシップの下、養護教諭が専門性を発揮して感染防止対策のポイントを発信し、教職員とコミュニケーションを取りながら組織全体で意識を高めていってほしいと思います。

校内での感染対応策の構築を
――学校再開に向けて、家庭や学校が準備しておくべきことは何ですか。

まず家庭では、大人がウイルスを家庭内に持ち込まないように徹底してもらいたい。もしも子供に感染していて、症状が出ない状態で登校してしまうと、爆発的に広がってしまいます。子供の命を守るため、爆発的感染を防ぐため、大人には一層、感染リスクの高い場所を避けたり、手洗いをしたりすることを心掛けてほしいです。

また、学校が再開されるまでに、子供の心と体のバランスを普段通りに戻すため、子供の起床時間や食事、運動といった生活リズムを整えることも必要です。

学校は、子供たちの体調を把握しつつ、感染の疑いのある症状が出た場合にどう対応するかを、システムとして構築しておく必要があります。例えば、保護者から相談を受けたときに、学校としてどのように答え、適切に指示するかといったマニュアルを用意しておくことや、校内で体調が悪化した子供が出たときにどう対処するかをフローチャートで示すなどが考えられます。

一斉休校に入る前に十分できなかった保健指導も徹底してほしいです。子供自身は、新型コロナウイルスの恐ろしさを頭では分かっていても、まさか自分自身が感染するとは思っていないものです。手洗いや咳(せき)エチケットを徹底させる際は、なぜそれらの効果が高いのかや、新型コロナウイルスがどんな病気なのかなどをしっかり理解させなければ、子供は「やったつもり」で済ませてしまうこともあります。子供たちの行動変容につなげていく保健指導が重要です。

――今回の新型コロナウイルス感染症の世界的広まりによって、学校保健の重要性は見直されたと思います。

感染はあっという間に世界中に広まりました。海の向こうで起きたことは、決して他人事ではないということです。手洗いや咳(せき)エチケットなど、子供でもできる一人一人の行動が、感染拡大を防ぐ最後の砦であることを改めて痛感させられました。こうした取り組みをどれだけ徹底できるか。そのための保健指導の重要性が再認識されたと思います。手洗いや咳(せき)エチケットが、自分自身や身近な人たちを守る行動になるということを、子供たちが納得し、実践できるようにする教育が求められています。

戸部秀之(とべ・ひでゆき)
埼玉大学教育学部教授。専門は学校保健学、健康教育学、発育発達学。著書に『行動科学を生かした保健の授業づくり』(少年写真新聞社、共著)『ほけんイラストブック 小学校編』(少年写真新聞社、監修)など。
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