【コロナと学校】休校でも学習のチャンス 商店街を活性化

「こんなときこそ学びを止めてはいけない」――。金沢大学附属高校(石川県金沢市)の平和町プロジェクトの生徒たちが呼び掛け、新型コロナウイルス感染症の影響で、閑散とする地元の商店街を活性化させる挑戦が始まった。WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)に指定されている同高校の「総合的な探究の時間」の「地域課題研究」におけるプロジェクトの一環。「家から出られない」「学校に行けない」、悲観的になってもおかしくない毎日の中でも、学習のチャンスを見いだし、学びを深める高校生ら。合同会社楽しい学校コンサルタントSecond代表であり、金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザーの前田健志氏と、平和町プロジェクト担当の金沢大学附属高校の宮崎嵩啓教諭、メンバーの千代航平さん(同高2年生)に聞いた。


オンラインで地域連携学習

Zoomで話を聞いた、金沢大学附属高校2年の千代航平さん

「いままでにないほど、学校現場にいる一人一人が探究している」。学校教育が直面する未曽有の事態について、前田氏はできるだけ前向きに捉えるようにしているという。

新型コロナウイルス感染症拡大で、生徒たちはリアルの場所に集結し、学習を展開することができなくなった。

それでも平和町プロジェクトの生徒たちの学びは続いている。休校直後からビデオ会議ツールの「Zoom」を活用した会議を実施し、オンライン上で活動ができないか話し合った。

そこで生まれたアイデアが、テークアウトサービスを始めた商店街の飲食店を応援する取り組みだ。サービスを始めたもののうまく周知できていない店が多いことに着目し、SNSでの宣伝を生徒が代行することにした。

まず飲食店から調理風景やメニューの素材動画を送ってもらう。生徒らはそれを自宅で加工や編集し、ハッシュタグを付けてツイッターやインスタグラムに投稿する。高校生ならではのSNSを駆使したアイデアは、特にSNSに苦手意識のある高齢の店主から重宝されているという。

プロジェクトに携わる、千代さんは「商店街の方に電話をして概要を説明すると、快く受け入れてもらえます。実はこれまで断られた店はないんです。平和町だけでなく、他の商店街や自治体でも、飲食店のテークアウトを広める活動が加速しているので、コラボレーションして、より多くの飲食店を応援したいです」と意気込む。

「学び方を学ぶ」最大のチャンス

千代さんは今年の4月で高校2年生になった。しかし進級してから登校日以外学校に行くことができず、自宅で過ごす日々が続いている。そんな毎日の中で、平和町プロジェクトの活動は「つながりを感じられるもの」だと話す。

「ネットのおかげで、外の世界とつながれていると感じるし、それは当たり前のようですごいことだと改めて実感します。学校の授業だけでは出会えなかった人と出会えて、協力し合えているので、とてもいい経験になっています」

千代さんの1年時の担任であり、平和町プロジェクトに携わる宮崎教諭は「通常の学校生活になかった、余白の時間が生まれている。考え方を転換すれば、通常の生活ではできなかったことができるチャンスでもある。生徒たちはそのチャンスを存分に活用し、新しいコミュニティーと出合い、授業とはまた違った角度で学びが深まっている」と話す。

前田氏も生徒たちの変容について、「休校期間に入ってから、特に成長が目覚ましい。時間的にゆとりが生まれたことも相まって、やりたくてうずうずしている様子が伝わってくる。この状況の中で自分に何ができるのかを一人一人がしっかり考え、以前よりも歩みが大きくなっているようにさえ感じる」と明るく受け止める。

なぜ平和町プロジェクトの生徒らは、休校中でも戸惑うことなく、自発的に学習に取り組めるのだろうか。前田氏は、こう説明する。

「いま自発的に行動できている生徒は、日常的に『学び方を学ぶ』ことができていたのでしょう。逆に『何をしたらいいのか分からない』生徒たちは、それができていなかった。だからこそいまは『学び方を学ぶ』、最大のチャンス。先生方はできるだけ生徒たちに『この状況で自分にできることは何か』と問いを投げ掛け、探究するきっかけを与えてほしい」

オンライン授業が目的ではない

アドバイザーやコンサルタントとして、全国の学校を駆け巡る前田氏。いま学校現場が直面する非常事態について、「マイナス面だけではないはず」と分析する。

「学校という枠組みが、いい意味で揺らいでいる。意図しないきっかけだが、学校と社会や地域、企業の垣根がなくなってきている。さらに社会全体が学校教育や教師の役割について、改めて考え直している。学校の改革が大きく前進しようとしている」

金沢大学附属高校の宮崎嵩啓教諭

学校現場にいる宮崎教諭も、その変化をひしひしと感じている。

「何が大切かをこれまで以上に考えるようになった。オンラインに代替できない、リアルの学校が提供できる価値が絶対にあるはず。そしてその答えは、この休校期間が終わると、教師一人一人に突き付けられるだろうと感じている」

前田氏は「社会全体がこれほど学校の存在価値を感じることは、初めてではないか」とし、学校の本来の役割についても明確になってきていると指摘する。

「休校が続く中で、『家に居続けるのがしんどい』という子供の声をよく聞く。学校があることで、子供たちは自動的に学校と家庭の2つのコミュニティーに属してきた。属するコミュニティーが1つだけでは、大人でも煮詰まる。学校は生徒が快適に生活するためのコミュニティーとしても機能していたのだと、改めて感じた」

教師についても、本来の役割が見えてきた。

「例えば単に知識を教えるだけであれば、民間が配信する動画授業が山ほどある。では教師には、本来何が求められていたのか。それは生徒の学びを支援する『メンター』としての役割。知識伝達だけでなく、『学び方を学べる』ようにするサポートや環境設計、学校を外の世界や人とつなぎ、生徒たちの成長を後押しする。それは教師にしかできないはず」

さらにこの期間で見直されているのが、学校のICT化だ。全国の学校で、オンライン授業の配信やツールの導入が加速しつつある。

前田氏は「これを契機にICT化が加速することは素晴らしいが、オンライン授業をすることが目的になってはいけない」と警鐘を鳴らす。

「オンライン授業はあくまで手段の1つ。必ずしもオンライン授業が必要なのではなく、ホームルームや特別活動、面談や部活動などの方が、つながりを求めている生徒たちにとって必要なのかもしれない」

所属校でもオンライン授業の導入が始まりつつある宮崎教諭も「慎重に進めならなければいけない」と話す。

「例えばいつもの45分や50分の授業を、そのまま動画にしても意欲をかき立てられる生徒は少ない。これまでの自分の授業を見直し、生徒たちに何を伝えなければいけないのか今一度考えなければならないと感じている」

これまでの学校に戻らないために

ただ事態が収束に向かうに伴い、この改革が元に戻ることだけは避けなければいけないと、前田氏は強調する。

「現状では、地域や学校によって取り組みにばらつきがある。しっかりとそれを記録して、その後どれが有効であったかを検証しなければいけない。そしてオンラインに代替してよかったもの、学校現場でやらなければいけないものを精査して、学校教育のリアルとオンラインのバランスについて考えなければ」

オンラインでの学校活動については、さまざまな懸念点も上がっている。そのひとつが「評価」だ。

金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザーの前田健志氏

前田氏は「そもそもわれわれが客観的と感じていたテストの点数での評価は、適切だったのかを考え直してほしい」と話す。

「今回の事態でよく分かったが、生徒の現状の能力を測ることは学校外の機関でもできる。教師にしかできない評価とは何か。その子がどう変容したのか、成長したのかといったプロセスなのではないか。現場の先生からこの休校中の生徒の評価について、よく相談される。『この状況で自分に何ができるのか』という課題を与えて、一人一人の探究の姿を評価してみてはと提案している。大学入試にしてみても、就職試験にしてみても、『このコロナ禍の中で、社会課題に向き合って自分ができることをし続けてきた生徒』は非常に評価される」

混乱が続く学校現場を巡っても、児童生徒たちの「探究するきっかけ」が散らばっていると、前田氏は話す。「先生が試行錯誤する姿を、堂々と子供たちに見せてほしい。先生たちの学ぶ姿を通して、生徒たちは必ず学び方を学ぶでしょう」

単に知識や正解を教えることだけが、教師の役割ではない。人生の先輩として、困難に立ち向かう姿を見せることが生徒にとっての一番の学びになると前田氏は強調する。

学校再開に向けて宮崎教諭は、新たな授業づくりを模索している。「休校中の生徒に、『コロナ後の日本はどうなっているか、過去の歴史を踏まえて考えてみよう』という課題を出したい。休校明けはその一つ一つを題材にして、歴史の授業を展開していければ面白いだろうなと考えている」

「平和町プロジェクト」に関わる大人も子供も、現状を悲観することなく、「今自分ができること」に集中して、歩みを止めることなく学びに取り組んでいる。

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