【コロナと学校】高まる虐待リスク 教師に何ができるか

新型コロナウイルスの影響による休校長期化で、子供への虐待リスクが高まると懸念されている。感染防止のために直接会うことも難しい現状で、ストレスにさらされる子供たちのサインを見過ごさず、支援につなげるために、学校現場は何ができるのだろうか。スクールソーシャルワークが専門の山野則子大阪府立大学教授に聞いた。


子供の状況を把握できるのは教師だけ
――休校が長引き、家庭での虐待リスクが高まるのではないかと懸念されています。

山野則子教授(山野教授提供)

私のところにも、全国の教育委員会や学校、教師から、問い合わせやお話が聞こえてきます。新型コロナウイルスによる休校で、子供も保護者も不安を抱えている今だからこそ、ソーシャルワークの実践が必要なのですが、学校はまずは学習への対応や感染防止策に目が行きます。

それも当然ですが、その陰で埋もれる子供たちがいます。リスクの高い家庭や新たにリスク状況に置かれた子供の発見と支援は、学校や教師によって温度差があると感じています。

一般的に、学校が普段、児童相談所や要保護児童対策地域協議会(要対協)と情報を共有して対応している家庭は全体の1%程度にすぎず、何かのきっかけで虐待のリスクが高まるグレーゾーンの家庭は3割程度あると考えられます。もともと虐待リスクが高い家庭は学校も注意していると思いますが、そうでない家庭も先の見えない不安を抱え、虐待リスクは高まっていると捉えるべきです。

感染拡大を防止するために、ソーシャルワーカーが家庭に出向くことも難しい状況があります。そこで、学習課題を届けたり、子供の健康状態を電話で聞いたりしている教師に、できるだけこの問題へのアンテナを高く持ってほしいのです。今、家族以外で子供と接する機会のある大人は教師だけといっても過言ではありません。

ある保護者から「学校からは何の連絡もなく、課題がポストに入れられているだけ。見捨てられたような気持ちになる」とメールをいただきました。子供であればなおさら、自分の気持ちを発信する術を持っていません。新学期、顔を見ないまま担任になっている教師も多いので、難しいとは思いますが、週に1回など、定期的に可能な限り、電話などを使って教員が保護者や子供と直接話せるようにしていただけたらと思います。

マニュアルだけでなく理念を示せ
――具体的に、家庭訪問や電話などで話を聞くときには、どんなサインに気を付ける必要があるでしょうか。

例えば、子供が攻撃的になったり、急に「ごっこ遊び」を始めるなど、幼く振る舞おうとしていたり、あるいは、今までできていたことができなくなるといった行動が出ていたら、気を付けなければいけません。ストレスを抱えているのは子供だけではありません。保護者と話をすると、罵声を浴びせられたり、理不尽な思いをしたりすることもあります。

今回のコロナ危機が人に与える心理的な影響は、地震などの大きな災害が起きたときに感じる不安や集団食中毒事件のときのパニック、トラウマなどと共通したものがあります。災害時と同じような状況で、怒りの矛先は接触のあった学校、開校していない学校に向く可能性もあります。

災害時の反応に関する知識を持つことで対応や姿勢を変えることができます。自治体などがまとめている災害時のハンドブックでも、被災者の心理的な不安を示す具体例や適切な対処方法、チェックリストなどをまとめたものがあります。

それらを参考にして、行政で、1枚ものの簡単なペーパーでもいいので、保護者にも児童生徒にも接するときの注意点、訪問時や電話対応時のリスクチェック事項などをまとめたマニュアルを作り、早急に手を打つべきでしょう。スクールソーシャルワーカーにも配布、周知徹底し、教師を支援することも重要な役割であると示していただきたいです。

その際に重要なのは、マニュアルと一緒にこの問題への基本的な考え方や理念を示す必要があるということです。ソーシャルワークの現場では、家庭訪問をした際に「感染防止のためにできるだけ人と接触してはならないのに、なぜ家に来るのか」と強く非難されることもあるようです。

そうした状況でも、支援する立場にある人たちが自分のやっていることの価値をしっかりと認識し、揺るがないようにするためにも、国や行政には、しっかりメッセージを出してもらいたいのです。

一斉の臨時休校など、なぜこのような対応をする必要があるのか、そこにはどんな懸念があるのか、子供たちを含め、国民への説明が十分ではないと感じています。日本はもともと同調性の強い社会で、集団で同じ行動をとることが求められます。

しかし、それによって多くの保護者や子供が心理的に抑え込まれ、イライラを募らせています。新型コロナウイルスへの具体的な対策だけでなく、どういう考えに基づいて行動しなければならないのかという理念を、国は示さなければいけないと感じています。

スクリーニングでグレーゾーンの子供に支援を
――学校が再開しても、子供や家庭は不安を抱えていると思います。学校は今、何をすべきなのでしょうか。

まず、学校が再開しても、子供たちは久しぶりの学校生活でクラス替えもしているので、再開直後の1週間くらいは本格的に授業をせず、この間にどんなことがあったのか話せる「デブリーフィング」の場を作ったり、人間関係作りや学校生活に徐々に慣れさせたりする期間とすべきでしょう。

デブリーフィングとは、身に起こった出来事や経験を振り返りながら克服を促すもので、ささいなことを話す場を作り、受容的に聞いてもらうようにすることです。阪神淡路大震災や集団食中毒の際に、注目が集まりました。

その上で、今回の休校が子供たちに与えた影響については、中長期的に学校で見ていく必要があります。その際、私が大阪府能勢町や和歌山県橋本市などと連携して取り組んでいる「スクリーニング研究」の成果が役立つのではないかと考えています。

学校におけるスクリーニングの進め方(山野研究室・能勢町(2019)「スクリーニング活用ガイド~支援の見える化・児童生徒理解のために~」より)

スクリーニングとは、学校や学級の中から客観的なデータと複数の人の見方を踏まえて、気になる子供をピックアップし、適切な対応や支援策を決定することです。

具体的には、まず、学級担任や養護教諭などが専用のスクリーニングシートに子供の状態を記入していきます。シートには、例えば遅刻の回数や服装、保健室への来室、いじめアンケートへの回答などの項目ごとに、気になった頻度に応じて数値を入力していくのですが、全体の数値が高かったり、いじめアンケートへの回答など、重点項目に数値が付いたりした子供を、スクリーニング会議で見つけ出すのです。スクリーニング会議はおおむね職員会議の場や学年会議で行われていますが、1学期に1回、30分程度で行うようにします。

スクリーニング会議で、「さらに校内チーム会議で検討する必要がある」と判断された子供については、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーも交えた校内チーム会議で▽A 教職員の関与▽B 地域資源の活用▽C 専門機関の活用――の3段階の支援のうち、どれを行うかを決めます。例えば、1学期の時点でAをすでにやっていて、2学期のスクリーニング会議で数値が悪化していた場合などは、Bに移行して、子供食堂や学習支援、家庭教育支援などとの連携を検討することになります。

こうすることで、明らかに虐待を受けている子供だけでなく、グレーゾーンにいる3割の子供にも適切な支援をすることができるのです。

また、担任が一人で抱え込んでしまったり、本来は外部の支援が必要な状況であるにもかかわらず、子供に生活指導するだけで終わってしまったりすることを防ぎ、気を付けなければいけない子供の情報を学校全体で共有し、「チーム学校」として対応することができます。

スクリーニングの詳しい内容については、私の研究室のウェブサイトに「スクリーニング活用ガイド」などを公開しています。また、今年3月末に文科省のウェブサイトにもスクリーニングに関する資料が公開されており、虐待やいじめ、経済的問題の早期発見につなげる方策として教育委員会にも推奨しています。

学校が再開しても、このコロナ危機の影響は尾を引くことになるでしょう。だからこそ、今の段階から、これまでに述べてきたような、校内の発見から支援につなぐ仕組み作りを整理する必要があります。支援が必要な子供を一人でも多く見つけ出し、適切な支援ができる体制を学校として整えておかなければなりません。

【プロフィール】

山野則子(やまの・のりこ) 大阪府立大学人間社会システム科学研究科/地域保健学域教育福祉学類教授。文科省の第9期中教審委員や内閣府の「子どもの貧困対策に関する有識者会議」の構成員を務める。主な著書に『子どもの貧困調査』(明石書店)『学校プラットフォーム』(有斐閣)など多数。

次のニュースを読む >

関連
関連記事