【コロナと学校】9月入学「効果見込めず」 日本教育学会

政府が検討を本格化させている9月入学への移行について、日本教育学会は5月22日、現時点での9月入学への移行は「十分な効果が見込めず、多額の財政負担・家計負担が必要になる」として提言を発表した。学校の休校長期化に伴い、児童生徒の指導やケアを充実させる体制作りを急ぐ必要があると指摘。「政府と家計から多額の支出が必要な9月入学の導入よりも、もっと効率的で効果的な財政支出で、実効的・持続的な学力保障を進めることができる」と訴えている。

記者会見する日本教育学会のメンバーら

文科省内で記者会見した広田照幸・日本教育学会会長(日本大学文理学部教授)は「目の前で子供たちが大変な状態になっている。長期的にみれば、学校教育の質を高度化していく必要もある。そのために、しっかりとした体制を作らなければならない。いまは9月入学の議論をしている場合ではない」と、提言をまとめた狙いを説明した。

提言では、休校の長期化や外出自粛により、子供たちに起きている問題として、孤立やストレス、学習の遅れや学力格差拡大への懸念、困難な生活状態に置かれたり、退学を検討したりしている学生の増加などを挙げ、「9月入学・始業は困難の解決に寄与するのか」と問題を提起。その上で、もしも9月入学を実施しない場合には、何をするべきなのか考察を進めている。

まず、9月入学のメリットとデメリットを検証。メリットとして挙げられる「国際化」について、語学研修の必要性などを理由に「効果はごく限定的」と断じた。その一方で、デメリットとして切り替え作業による混乱や人員と財政のコスト、移行方式によっては義務教育開始年齢が上がってしまうことを挙げた。

続いて、実施に伴って必要とされる措置と予想される諸問題を列記。年長児の保育が5カ月延長され、大量の待機児童が生まれるほか、児童生徒数が急増する年度が生まれ、発達差への配慮やカリキュラム上の問題が多いとした。児童生徒数が急増する年度の子供たちは、進学や就職で競争が厳しくなり、受験や就職の浪人が大量に生まれる可能性も指摘した。私立大学では空白期の減収のため、経営危機や大量の中退者が生まれるという。

さらに、9月入学によって、必要となる人員や財政支出の試算も示した。それによると、小学1年生が5カ月分増えて1.4倍になる事態に対応する措置として、教職員や指導員の人件費、施設や設備に必要な費用として1兆8160億円以上かかると指摘。また、私立学校が失う学費の穴埋めとして1兆6300億円から2兆5700億円が必要とした。さらに家庭の教育費の負担も増え、小中高だけで2兆5000億円がプラスされるという。これらの総額で6兆5000億円から7兆円のコストがかかると、はじき出した。

提言の骨格を説明する広田照幸・日本教育学会会長

次に、問題点が多い9月入学への移行論よりも、優先順位が高い課題として、いま教育のために必要な取り組みをまとめた。

急いでやるべきこととして、▽ICT環境整備による対面授業とオンライン授業の併用体制の構築▽低所得世帯への支援拡充▽安心と学習をサポートする学習支援員、スクールカウンセラー、ボランティアなどの配置――を挙げた。

学びの遅れへの心配に応えるためには、▽学習指導要領の柔軟な運用と教科の横断的な精選▽最終学年の児童生徒への特別な配慮–などを求めた。また、学力格差拡大の心配に対して、「下に手厚い学力保障」の仕組みを急いで作ることや、子供たちをケアするために教職員やスタッフの増員によって子供たちのストレスや悩みに丁寧に対応する体制を構築する必要性などを指摘した。

こうした効果的で持続的な「学びの保障」のために必要となる人員として、▽1校あたり、小学校3人、中学校3人、高校2人で合計10万人の教員増▽スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの増員–が必要だと指摘。人員の確保に必要な資金は、当初年度で1兆3000億円、次年度以降は各年度1兆円と試算した。

こうした説明を踏まえ、提言では、9月入学よりも、ずっと効率的で効果的な財政支出によって、実効的・持続的な学力保障を進めることができると総括している。

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