学校再開、子供のメンタルケアを最優先に 和久田学氏

6月に入り、ほとんどの学校が再開に踏み切った。3カ月間にもわたった休校期間は、子供たちの心理面にどれほどの影を落としたのだろうか。学校再開に当たり「子どもの発達科学研究所」は教職員に向けてメッセージを出し、「子供たちのメンタルヘルスのケアを最優先するように」と強調した。学校現場は児童生徒の心とどのように向き合いながら、日常を取り戻していけばいいのか。元教員でもある和久田学主席研究員に話を聞いた。

「子供全員がつらさを抱えている前提で向き合って」と話す和久田氏(オンライン会議システムで取材)

すべての子供がつらさを抱えている
――児童生徒のメンタルヘルスの現状を、どう推察されていますか。

このコロナ禍で、人々はこれまでにない体験をしています。子供たちへの影響はよくも悪くも、誰にも予測できない状況にあります。私たち研究者は、これから正確なデータを集めて検証していかなければなりません。

ただ学校の先生方には、全ての子供がつらさを抱えている前提で向き合ってほしいと思います。

皆さんご存じの通り、子供は自分の心のうちをなかなか表現できません。特に年齢や発達段階が低い子供は、うまく言葉にできないだけでなく、自分の心の揺れや不調に気付いていないことさえあります。一見明るく振る舞っている子であっても、注意深く見てほしいです。

休校前と後では、私たちの生活は大きく変わりました。子供たちは、自由に友達と遊ぶことや外出ができなくなりました。さらにマスクを着けての日常生活や、オンライン授業の増加でIT機器を使う時間も増加しました。このような変化が積み重なり、ストレスを抱えている子は少なくないと推察できます。

また周囲の大人の状況も、子供のメンタルヘルスには大きく影響します。例えば保護者と過ごす時間が圧倒的に増えたことや、家庭の経済状況が悪化したことが、子供の心にどのように影響するのか懸念されます。

職場や友人、ネットなど、大人にはストレスを発散するはけ口がいくつもあります。子供は、基本的に学校と家庭の2つの人間関係しかありません。休校中はその1つを失ったわけですから、心身のバランスが崩れる児童生徒がいてもおかしくないでしょう。

――メッセージでは不安感を抱えた児童生徒のために、教職員ができることをまとめています。

全ての子供が不安定な心理状態にあることを前提に、全ての児童生徒に対しての配慮と、さらに虐待リスクや発達障害など個別の支援が必要な児童生徒に対しての配慮を、それぞれまとめました。

再開後の学校では、学習の遅れの取り戻しや授業数の確保など、課題が山積していることでしょう。しかし何よりまずは児童生徒の心の状態に合わせて、学校生活を進めていってください。

「子供たちのメンタルヘルスを守るために学校再開へのメッセージ」(一部抜粋)
【全ての子供に対する配慮】
  • 子供たちのストレスの軽減を第一の目的にする
  • 子供にストレスのかかる活動の強制は避ける
  • 子供たちの状況に合わせて柔軟に日課、活動を変更する
  • 先生たちは機嫌よく、安定した気持ちで子供に向き合う
  • ストレス解消法を教えるなど、いじめの予防を徹底する

――など

【個別の支援が必要な子供に対する配慮】
  • 一人一人の言動、表情を観察する
  • 子供と個別に話を聞き、家庭訪問など保護者から情報を得る
  • 虐待の有無、子供自身のメンタルヘルス悪化は見られないかの確認
  • 発達障害、特に自閉症スペクトラム症の子供に対しては▽子供の発達特性に合わせて、現状を説明する▽いつもと同じ日課や課題を保つ――などの配慮をする

――など

――児童生徒の心理状態は見えにくいからこそ、きめ細やかな対応が必要なのですね。

そもそも、子供のメンタルヘルスについて興味を持っている学校関係者は限られているように思います。ですからこれを機に、児童生徒の心理状況を把握する手だてを作りたいと考えています。

実はこのコロナ禍以前も、皆さんの想像よりも多くの児童生徒がメンタルヘルスの問題で苦しんでいました。

今年2月20日に開かれた「子どもみんなプロジェクト報告会(千葉)」で、弘前大学が2016年から18年にかけて、小学4年生から中学3年生約4500人を対象に実施した調査結果を報告しています。それによると児童生徒の7%が慢性的な抑うつ、12%が不安定な抑うつ症状を抱えていました。つまり5人に1人の児童生徒が、メンタルヘルスに問題を抱えているのです。彼らにこのコロナ禍の非常事態がどのような影響を与えるのか、大いに懸念されます。

さらに抑うつ状態が悪化すると、不登校や自傷行為、非行などにつながりやすいと言われています。この抑うつ状態の児童生徒を適切に支援できれば、不登校や問題行動を減らせるかもしれないのです。

児童生徒の心の状態の計測を
――どのような手だてを考えているのでしょうか。

児童生徒のメンタルヘルスの状態を測る「こころの健康観察チェック(仮)」を開発しているところです。これまで学校現場で子供たちの心理面がおざなりになっていたのは、調べる手だてがなかったことも一理あるでしょう。

チェックでは現在の気持ちや家庭環境、友人関係などに関した20問ほどの問いに、WEB経由で回答してもらいます。高リスクと判定された児童生徒は、さらにスクリーニングして、必要に応じて適切な支援につなげる運用法を目指しています。

これまでの学校は、身体計測や内科検診など身体の健康についての計測機会はあるにも関わらず、心の状態をチェックするものはほとんどありませんでした。身体と心、両面あってこその健康です。コロナ禍で児童生徒の心理面に特に配慮しなければならない今こそ、子供のメンタルヘルスについて学校現場の一人一人が意識を高く持ち始めるべきでしょう。

――児童生徒と向き合う、現場の教職員にメッセージをお願いします。

休校中、子供たちは日常を失ってしまいました。毎日決まった時間に学校に行って、先生に会って、クラスメートとおしゃべりをする――。まだまだ制限はありますが、毎日同じことが起こる安心を子供たちに感じさせてあげてください。

学校の先生方もプレッシャーを感じて、大変な毎日だと思います。子供たちは、周りの大人の精神状態に大きく影響されます。先生が頑張りすぎず、いつも通り楽しくしているだけで、大きな糧になるでしょう。

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