ICTは令和の学校の「マストアイテム」 文科白書公表

文科省は7月9日、2019年度の文部科学白書を公表した。白書は冒頭、昨年、大学入学共通テストでの英語民間試験の導入延期や記述式問題の導入見送りが社会的に大きな影響と混乱を与えた「大学入試改革の現状について」に4ページを、足かけ3カ月にも及ぶ学校の臨時休校という異例の事態を引き起こした「新型コロナウイルス感染症に関する対応」に6ページをそれぞれ割き、経過と現状をまとめた。特集では、全ての小中学生に1人1台端末を整備するGIGAスクール構想による「教育の情報化」を取り上げた。文科白書が教育の情報化を特集するのは今回が初めて。

高大接続改革「重要性は変わるものではない」

「大学入試改革の現状について」では、まず英語民間試験と記述式問題を大学入学共通テストに採用する契機となった高大接続改革を説明。そのうち大学入学者選抜の改革について「高校までに育成した『学力の3要素』を大学入学者選抜で多面的・総合的に評価し、大学教育において高校までに培った力をさらに向上・発展させるためのもの」と位置付け、大学入学共通テストを導入した背景を記述した。

続けて、英語民間試験について、英語の「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を大学入学者選抜で適切に評価するために、英語資格・検定試験の成績を大学入試センターで一元的に管理して各大学に成績提供する「大学入試英語成績提供システム」の導入を決め、準備を進めていたと説明。「しかしながら、受験生が経済的な状況や居住している地域に関わらず、等しく安心して試験を受けられるようにするためにはさらなる時間が必要だと判断」したとして、昨年11月1日、英語民間試験の導入延期を発表した理由を示した。

記述式問題については、「自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述する等の思考力・判断力・表現力を評価する」目的で、共通テストの国語と数学に導入するとしていたと説明。「しかしながら、採点の体制や精度、自己採点と採点結果との不一致の問題について、受験生の不安を払拭(ふっしょく)し、安心して受験できる体制を早急に整えることは困難であると判断」したとして、昨年12月17日に共通テストへの導入を見送った経緯を記述した。

こうした経緯を踏まえ、大学入学者選抜の在り方を検討するため文科大臣の下に「大学入試のあり方に関する検討会議」を設置。英語民間試験と記述式問題が見送りとなった経緯を検証し、議論を進めている現状を説明した。

その上で、文科省の基本的な考え方として、「高大接続改革そのものや、思考力・判断力・表現力や、英語によるコミュニケーション能力を育成・評価することの重要性は変わるものではない」と明記。今年末をめどに検討会議の提言をまとめていく方針を示した。

Withコロナの学校教育 「対面指導」の趣旨を踏まえて

「新型コロナウイルス感染症に関する対応」では、安倍晋三首相が今年2月27日、一斉臨時休校を要請する方針を示し、翌28日に文科省が各学校設置者に春休みまでの臨時休校を要請。多くの学校が異例の一斉休校に踏み切り、各自治体や学校が子供の居場所確保に工夫した経緯を記述した。

新学期からの学校再開に向け、文科省が3月24日に学校再開ガイドラインを公表したものの、4月になって政府の緊急事態宣言が出され、学校にも長期間にわたって新たな感染症とともに生きていくことを前提に「新しい生活様式」の導入が求められた状況を説明。学校における衛生管理の指針として、文科省は5月22日に衛生管理マニュアル「学校の新しい生活様式」を公表し、6月以降、多くの学校が感染症対策を講じながら教育活動を再開している現状を示した。

白書では、こうした「新しい生活様式」に対応した学校教育の在り方として、「学校教育は、教師から児童生徒への対面指導、児童生徒の関わり合い等を通じて行われるものであり、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中においても、その趣旨を踏まえて子供たちを誰一人取り残すことなく、最大限の学びを保障していくことは重要」と明記。感染症の影響が続き、オンライン教育が徐々に広がる中でも、「対面指導」と「児童生徒同士の関わり合い」を学校教育の基本とする考え方を確認した。

具体的な対応として、4月10日に休校期間中の家庭学習について通知を出し、5月15日には分散登校などの工夫で学校における教育活動を充実させるよう求め、次年度以降を見通した教育課程編成や授業における学習活動の重点化を示したことを説明した。

家庭と学校をつなぐICT環境整備の必要性が浮上

今回の文科白書が力を入れたのが、「教育の情報化」の特集だ。まず、Society5.0社会の到来について「この新しい時代を担う子供たちにとって、日常生活の中でICT(情報通信技術)を用いることはもはや当たり前」と言及。「児童生徒一人一人が学びにおいてもICTをフル活用できるよう、学校教育の情報化を早急に進めていくことが不可欠」と、学校のICT環境整備の必要性を強調した。

図1

次に、学校のICT環境整備の現状について、児童生徒3人に1台を整備目標に掲げ、2018年度から22年度の5カ年計画で、毎年1805億円の地方財政措置が講じられてきたにもかかわらず、昨年3月時点の全国平均値は5.4人に1台にとどまっている上、自治体の取り組みによって大きなばらつきが出ていると指摘=図1。「子供たちが通う学校の環境に差が生じてしまっている」と問題点を明らかにした。

国際的にみても、経済協力開発機構(OECD)が18年度に実施した「生徒の学習到達度調査(PISA)」によると、日本はコンピューターを使って宿題をする頻度がOECD加盟国中で最下位。同じくOECDが18年に教員を対象に実施した「国際教員指導環境調査(TALIS)」によると、日本の教員が学校で児童生徒に課題や学級での活動にICTを活用させる割合は、TALIS参加48カ国の中で最下位レベルだったことに触れた=図2。

図2

これらの結果を受けて、日本では「社会全体が学習のためにICTを活用するという認識が極めて低い」「学校における(ICTの)利活用が世界から大きく後塵(こうじん)を拝している」と強い憂慮を示した。

こうした現状を踏まえ、文科省では昨年6月、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を公表。Society5.0時代には「飛躍的な知の発見・創造など新たな社会をけん引する能力や、その前提となる読解力、数学的思考力等の基礎学力が求められ」るとして、「知・徳・体を一体的に育む、日本の学校教育の強みを維持発展させつつ、多様な子供を誰一人取り残さず、一人一人の個性や置かれた状況に最適な学びを可能にする、『公正に個別最適化された学び』を実現することが重要」と指摘し、ICT環境整備を通じた学校教育の方向性を明確にした。

学校のICT環境整備の重要性が強調される一方、地方財政措置に基づく自治体任せの政策では整備がなかなか進まないことから、国が主導する早急な対応が必要との議論が浮上。昨年12月5日に閣議決定された総合経済対策に、23年度までに全ての小中学生に1人1台端末と学校に高速大容量のネットワーク(校内LAN)を整備する方針が盛り込まれた。この施策は「GIGAスクール構想」と名付けられ、19年度補正予算に2318億円が計上された。

ところが、この19年度補正予算によって、各自治体が学校のICT環境整備を始めようとしたところに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一斉休校がスタート。「これまでの学校におけるICT環境整備だけでなく、家庭と学校をつなぐICT環境整備の必要性が強く認識され」たと指摘した。

こうした事態を受けて、4月20日の緊急経済対策ではGIGAスクール構想の加速による学びの保障が打ち出され、必要な経費として今年度第1次補正予算に2292億円が計上された。

今後の方向性については、「学校のみにならず、緊急時には家庭においても、ICTの活用により全ての子供たちの学びを保障できる環境を早急に実現できるよう、『GIGAスクール構想』における自治体の整備への支援を加速」する考えを強調。

その上で、今後のICT技術や先端技術の活用に伴う検討項目として、「教師の在り方や果たすべき役割」「指導体制の在り方」「ICT活用指導力の向上方策」「先端技術の活用等を踏まえた年間授業時数や標準的な授業時間等の在り方」「学年を超えた学び」「デジタル教科書の今後の在り方」を挙げた。一連の検討項目をみると、学校のICT環境整備を契機に、学校教育が大きな転機を迎えようとしていることが分かる。

白書は「1人1台端末環境と高速大容量の通信ネットワークの一体的な整備により、日本の学校教育は大きく変わります。平成の時代、ICT端末は『学校にあったらいいな』というものでしたが、令和の時代には『マストアイテム』であり、『スタンダード』である社会を早期に構築していきます」と変化に向かう姿勢を強調し、この特集を結んでいる。

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