デジタル教科書の定義「見直しが必要」 文科省検討会議

1人1台端末の整備を目指すGIGAスクール構想を受け、ICTを活用した学校の授業でソフト面の柱となる学習者用デジタル教科書について、文科省は7月28日、検討会議の第2回会合を開き、授業実践の事例をヒアリングした。主要な委員からは「これまでに考えられてきたデジタル教科書は、児童生徒が1人1台の端末を持ち歩くことが前提になっていない」として、デジタル教材との連携を含め、学校教育でのデジタル教科書に対する定義や考え方を抜本的に見直す必要性が指摘された。また、学習指導要領をコード化して教材や外部のデジタルアーカイブとの連携を図るとする文科省の方針に対しても、「粒度が荒い」などと実効性に疑問を投げ掛ける意見が複数の委員から出た。

オンラインで行われた検討会議の様子。YouTube上で公開された

検討会議の正式名称は「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」。この日の会合では、中川一史・放送大学教授が学習者用デジタル教科書と紙の教科書を使用する場合の比較について、全国の小中高6校で行った実証研究の結果を報告。個別学習、グループ学習、一斉学習などさまざまな場面で想定した11項目の設問について、「全ての項目でデジタル教科書を使用した授業が紙の教科書を使用した授業を上回り、肯定的に評価されていることを確認することができた」と説明した。特に、デジタル教科書ならではの特徴として、音声の再生や書き込みの試行錯誤を挙げ、「それらが学習内容の理解に役立ったと評価した結果を得ることができた」と述べた。

また、児童生徒と教員に対する事後の意識調査では、「多くの児童生徒および教師が、『主体的・対話的で深い学び』に対して学習者用デジタル教科書の有用性を感じていること、および『個別学習・グループ学習・一斉学習等の場面で効果的と考えられる活用方法』に対して、学習者用デジタル教科書の有用性を感じていることを明らかにできた」と報告。調査結果を基に、学習者用デジタル教科書の有用性を高く評価した。

青山由紀・筑波大学附属小学校教諭は、学習者用デジタル教科書を使った小学校国語の授業事例を報告。デジタル教科書の長所として、「読むこと」については、テキストの拡大と切り取りによる課題の焦点化、明確化、共有化や、テキストの色分けで論理の見える化ができること、「話すこと・聞くこと」「書くこと」については、フィードバックや一時停止、書き込み自在などによるモデル提示と、記録、加工、保存、再現が容易といった特徴によって多様なコンテンツに対応可能といった項目を挙げた。

青山教諭は「紙の教科書を使う時、教員はいかに子供たちに主体的にアクションを起こさせるかを考える。ところが、デジタル教科書を使うと、子供たちはすぐに動的になる」と説明。「動的になった子供たちは、すぐに『分かったつもり』になる。これを本当に『分かった』にしていくためには、思考の言語化が必要になる。情報の共有や比較の思考を通して、子供たちが静的思考をするようにしていくことが、デジタル教科書を使っていく上で大切だ」などと説明した。

その上で、デジタル教科書と学習支援システムを連動させ、教師側の画面で児童生徒一人一人の学習状況をリアルタイムで把握し、教員が即時に評価や支援をできるインフラが整備されることを理想像として挙げた。実際のところ、民間企業が開発しているEdTech教材では、教員が手元のモニター画面を通じて児童生徒の学習状況を即時に把握できる仕組みが広がっており、個別最適化された学習指導を可能にするツールとして評価する現場教員も多い。

また、青山教諭は「いま児童生徒は学校のパソコンで学んだ内容をノートに写して、自宅に持ち帰り、復習などの自宅学習をしている。児童生徒が学校で使うパソコンをそのまま家に持ち帰り、学校で習った内容の続きをできるかどうかで、デジタル教科書による学びは大きく変わる」と述べた。

この報告を受け、副座長の東原義訓・信州大学特任教授・教育情報化推進機構理事長は「デジタル教科書の可能性を強く感じた。だが、この可能性を実現できるのは、いま定義されているデジタル教科書ではない。いまのデジタル教科書の定義は、GIGAスクール構想で1人1台端末の実現が前提となる前に考えられたもので、学校に置かれたコンピューターを児童生徒が共有することを想定している。だから、デジタルノートを使ってワークシートに書き込み、それを子供たちが持ち歩くという発想がない」と指摘。

「全ての児童生徒に1人1台のコンピューターが整備されて、自宅に持ち帰って使えるようになれば、デジタルノートを子供が持ち歩き、そのパソコンのビューワーからデジタル教科書やデジタル教材が見えるほうがいい。こうした内容を整理して考えるべきだ」と述べ、学校教育でのデジタル教科書に対する定義や考え方を抜本的に見直す必要があると強調した。

座長の堀田龍也・東北大大学院情報科学研究科教授は「学習者用デジタル教科書の内容は紙の教科書と同じ、という考え方を変えないといけないときがいずれ来る。デジタル教材との連携が大事で、教科書検定の対象をどうするかという問題も出てくる」と指摘した。

会合では、学習指導要領をコード化して教材や外部のデジタルアーカイブとの連携を図るとする文科省の方針に対して、加藤直樹・東京学芸大ICTセンター准教授が「共通コードでどこまで細かく表現しきれるのか。使い勝手を考えた仕組みがほしい」と指摘。児童生徒が共通コードを使って調べ学習をする場合、必要なコンテンツにきちんとたどり着けるのか分からないとの見方を示した。また、黒川弘一・教科書協会デジタル教科書政策特別委員会座長は「学習指導要領のコードは、粒度が荒いと言わざるを得ない。慎重に進めるのがいい」と述べた。

文科省では、今年夏ごろに学習指導要領のコード化を行う。検討会議が今年度末にまとまる方向性を踏まえ、21年度に教科書会社が学習指導要領のコードに対応したデジタル教科書の編集に着手。22年度に検定作業を行い、23年度に各自治体が使用するデジタル教科書を採択。実際に学校現場で児童生徒がデジタル教科書で学習し始めるのは24年4月になると想定している。

デジタル教科書は、小学校教科書が昨年度発行分の94%、中学校教科書は今年度発行分の95%が、すでにデジタル教科書として発行されている。しかし、ハード面での端末や通信ネットワークが未整備だったことから、昨年10月時点の調査で、今年度に「1校でも導入することを検討している」と答えた市町村は257と全国の14.7%だけで、学校現場にはほとんど普及していない状態となっている。

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