学校のトランスジェンダー(上)男女分け文化に悩む生徒

制服(標準服)がつらい、学校が苦しい。ここ数年、身体の性別と心の性別が一致しないトランスジェンダーの生徒の苦悩が知られるようになり、性別に関係なく選べる制服を導入する学校が増えている。ただし、当事者に話を聞くと、つらいのは制服だけではないという。「男女分け」の文化や、教員の中に理解者が少ないことなど、形だけでなく意識面の見直しも必須であることが浮かんできた。

「手を差し伸べてくれる先生がいたら、ここまで傷つかなかった」と話すくろまるくん

多様な子供たちが嫌な思いをせず学校に通えるようにするためには、どんな環境が必要なのか。今年6月、東京都江戸川区で制服を選択制にすることを求めて署名活動を始めた高校生の「くろまるくん」と、キャンペーンを応援する「LGBTコミュニティ江戸川」代表の七崎良輔さんにインタビューした。

気持ちを押し殺して学校に通った
――くろまるくんが今通っている高校は、制服はないんですか?

はい、制服がない定時制の高校に通っています。トランスジェンダーの子は高校を選択するとき、制服の有無が決め手になる人は多いと思います。

――中学時代、どんなふうに制服がつらかったのですか?

自分にとって、スカートをはいて学校に行くことは「恥さらし」でした。鏡に映るスカート姿を見るたびに、「自分はこういう服を着るはずじゃなかったのに」と受け入れられなくて、すごく気持ちが悪くて。通学しているときも、学校にいる時間も苦痛でしかなくて、一日一日、自分の気持ちを押し殺して学校に通っていました。

――女性がズボンをはくことはよくありますが、男性がスカートをはくのはタブー視される中、スカートを強いられるのはつらかったですね。着替えのときも困ったのでは。

はい、更衣室などで異性(女子)の身体が目に入ってしまうのがつらかったですし、何より、自分のこの気持ちの悪い身体を異性に見られることが、僕にとってはどうしようもないほどのダメージでした。

――先生に相談したことは?

残念ながら、僕の身の回りには無理解な先生しかいませんでした。一度ジャージー(体操服)で登校したときは家に帰らされましたし、男子のジャージーを借りて着たときは、みんなの前で怒鳴られて、その場で『脱げ』と言われました。

修学旅行の前、担任の先生にカミングアウトしたときも『辛抱しよう』と片付けられてしまって。保健室で『僕は女の子と一緒にお風呂に入れない』と泣きながら話したら、担任の先生は『あと半年なんだから、我慢しよう』と。

――その場に、保健室の先生は?

ずっと「うんうん」と、担任の先生の話を聞いているだけでした。ひと言でも何か言ってくれたら良かったのにと思います。もし中学のとき、たった1人でも僕に手を差し伸べてくれる先生がいたら、僕の心はここまで傷つかなかったという悔しさはあります。

署名活動をする理由
――以前、やっとの思いでスクールカウンセラーにカミングアウトしたら、「勘違いじゃないの」と言われてしまった男性を取材しました。チャイルドライン(18歳までの電話相談窓口)に救われて、かろうじて死なずに済んだと話していました。署名活動を始めたのには、何かきっかけがあったんですか?

新型コロナの影響による臨時休校が終わって、6月から「男女別の分散登校」が始まったことがきっかけでした。自分がもし同じ立場だったら、かなり苦しかったと思いますし、いま中学校に通っている知り合いの子たちからもSOSがあったりして、この状況は良くないと思いました。

――男女別の登校だと、異性の中に1人で放り込まれる感じなのですね。分散登校のほかにも、男女別で困ったことはありましたか?

はい、中学に入ったら、男女ではっきり分かれるものが急に増えました。トイレや更衣室は小学校のときから男女別ですけれど、江戸川区の中学校は名簿も男女で分かれるので(小学校までは混合名簿)、入学式や卒業式で入場するときも、男女で並んで入って、途中で席が分かれる形になりました。

授業も体育は男女で分かれましたし、他の科目でも、グループワークを出席番号順で分ける先生はけっこういました。そうすると、僕は男の子と一緒にワークがしたかったのに、なじめない女の子のグループでワークしなければいけないことなどがあったりして…。

――あまり意識したことがなかったですが、言われてみると学校は男女分けの場面が多いですね。

そうなんです。高校で先生から言われたんですが、そういうのは先生たちからしたら何気ないことというか、深い意味はないんですね。分けやすいから分けました、みたいな。でも実はそこに、当事者にしか気付けない苦痛やつらさがあったりするんです。

そもそも無意味な男女分けに苦しむのは、当事者だけでなく、どんな人にもあり得ると思うんです。女の子だけど男の子の友達のほうが多いとか、男の子だけど女の子の友達のほうが多いという人もいますし。

――行儀や言葉遣いなど、女子だけが注意される場面もありますね。

ありました。僕が自分のことを「俺」と言っていると、毎日10回以上「『わたし』と言いなさい」と訂正してくる先生もいて。掃除のとき、「先生、便所掃除終わった!」と僕が言うと、「女の子なんだから『おトイレ』か『お手洗い』と言いなさい」と必ず言ってくる。「女の子だから」「男の子だから」はそこに必要かな、と疑問でした。


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