学校のトランスジェンダー(下)全国で見直す動き

「実はいる」ことを先生は知ってほしい
――署名活動を始めて、その後どうですか?

ありがたいことに、最初の目標の1万筆は達成しました。もうすぐ区長や教育長に、署名を届けに行く予定です(編集部注 今日8月14日に提出)。でも、これからも署名は集め続けたいと思っています。こういった現状があることを、より多くの人に知ってほしいので。

くろまるくんは「こういった現状を多くの人に知ってほしい」と語る

賛同してくれる方からは、あたたかいコメントもたくさんもらっていて、うれしいです。僕は中学生のときから「くろまる」という通称を使っているので、知り合いの中学生の子から連絡が来たり、友達から声を掛けてもらったりして。

中には心無い声もあったりして、ちょっと落ち込みますけれど、でも1万人の方が賛同してくださっているので、気にしていられないです。

――制服を無しにすることは考えませんでしたか?

「私服でOKにすればいいじゃないか」という意見をくださる方も多くて、それはごもっともだと思います。けれどやっぱり、制服のメリットもありますし、現状の制服から急に私服にするのは難しく、時間もかかると思うので、今すぐできることから順番にできたらな、と思っています。選べる幅を、これから広げていけたらいいなと。

――男性がスカートをはかされるのはつらいですが、MtF(身体が男性で、性的自認が女性)の女の子が、制服のズボンをはかされるのはどうなんでしょう?

女性でズボンをはく方はもともと多いので、気にしないだろうと思われていますけれど、僕の知り合いは、制服の採寸で学ランを着ることになったとき、セーラー服を着ている女の子を見て、「ああ、自分もあれを着たかったな」と、やっぱり憧れはあったそうです。彼女にとっては、自分は女性なのに「男性として」ズボンをはかされるのはしんどい、と言っていました。

――先生たちに伝えたいことは、ありますか?

やっぱり先生たちには、実は学校にはLGBTの当事者がいるんだよ、裏で困っている子がいるんだよ、ということを、もっと知ってほしい気持ちがあります。カミングアウトを必須としなくても配慮されるというか、その子が学校に通いやすい環境を知っておいてほしいです。

「うちには当事者がいませんから、配慮しません」ではなくて、「カミングアウトしないだけで、実はいるんだよ」ということです。まだ誰かに言う勇気がなかったり、どう言葉にすればいいか分からなかったりする子も、たくさんいるので。

思い詰める子もいる

くろまるくんの署名活動をバックアップする「LGBTコミュニティ江戸川」代表の七崎良輔さんは、「子供は大人の価値観を信じて、そこにはまらない自分を責めてしまっている」と警鐘を鳴らす。

――補足があれば、教えてください。

さっきくろまるくんが、ジャージで登校したら家に帰らされた話や、男子のジャージを着ていたら「脱げ」と言われた、という話をしていました。このことを、くろまるくんは最初なかなか話してくれなかったんです。私がくろまるくんに、「中学でどんなことがあったか、何でも話して」と繰り返し言い続けて、最後の最後に教えてくれました。

なぜかというと、くろまるくんは「あれは自分が悪かった」という認識だったからです。「スカートをはけない自分がいけないんだ」「みんなと違う自分がいけないんだ」と思っていたから、なかなか話してくれなかったのです。

実は子供たちというのは、われわれが思っている以上に、大人たちや先生の価値観を信じて、そこにはまらない自分を責めてしまっている。「自分が悪いんだ」「こんな自分は生きていていいのか」というところまで思い詰める子もいます。そういったことも、今回できるだけ多くの人に知ってもらえたらと思って、署名活動を応援しています。

僕がやっている「LGBTコミュニティ江戸川」には、MtFの小学生の子と、そのお母さんも来ています。その子はやっぱり、自分が中学生になったらスカートの制服を着るんだと思っているので、それがかなうようにしておきたい。そういった子供たちのために、くろまるくんがいま立ち上がってくれたのは、とても大きいことだと思っています。

制服を選択制に変えた例も

栃木県でも昨年、選べる制服を求めて署名活動を行った人たちがいる。LGBT当事者とその家族、友人の支援団体「S-PEC(えすぺっく)」は、トランスジェンダーの息子がいる母親らが、10年以上前に立ち上げた団体だ。

S-PECはインターネットと紙で計3500筆を超える署名を集め、県知事に提出。これを受けて県教育長は今年6月、県立学校に制服選択制の導入を推奨する考えを示した。市によってはすでに、中学の制服に選択制を取り入れたところや、体育の授業を男女混合にしたところもあるという。

同団体の代表者は「署名には教職員なども多数、協力してくれた」と話す。

PTAが動いて制服を選択制に変えた例もある。福岡市立警固中学校の元PTA会長、後藤富和さんは、トランスジェンダー当事者の声に心を動かされ、「制服をどうにかしたい」と校長に相談。共に制服の見直しに取り組んだ結果、昨年度から同校の制服が変わり、さらに今年度からは、市内全中学校の制服が選択制に変わった。

選択制に変わると、スラックスをはいてくる女子生徒が思いのほか多かったという。通学区域が決まっているにもかかわらず、入学者数も増え、この年度はクラスが1つ増えた。制服選択制の恩恵を受けたのは、トランスジェンダーの子供たちだけではなかった。

今後、全国で制服を見直す動きは加速すると思われる。その際は当事者を含む子供たちの声に耳を傾け、学校における「男女分け」の文化も併せて見直していく必要があると、多くの関係者が指摘している。


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