「令和の日本型学校教育」の姿を描く 中教審が骨子案

ポストコロナ時代の新しい学びなどを検討してきた中教審初等中等教育分科会「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」は8月20日、第12回会合をWEB会議形式で開き、「令和の日本型学校教育」の姿を示す中教審答申の中間まとめ骨子案を示した。骨子案では、献身的な努力で学校現場を支えてきた教師が疲弊しており、このままでは日本型学校教育を維持してくことは困難との認識を明記。今後の方向性として、教員の働き方改革を踏まえた学校外との連携や分担による学校マネジメントの実現や、これまでの実践を支えてきた対面指導とICTのハイブリッド化による学校教育の現代化を打ち出した。

WEB会議形式で行われた中教審特別部会。発言者は貞広斎子・千葉大学教育学部教授。

骨子案は、タイトルとして「誰一人取り残すことのない『令和の日本型学校教育』の構築 を目指して」と題され、サブタイトルを「多様な子供たちの資質・能力を育成するための、個別最適な学びと、社会とつながる協働的な学びの実現」とした。A4判58ページにわたる長文で、総論と各論に分けられている。この日の議論を踏まえて、9月11日に行う特別部会でさらに議論を重ねて修正を加えた上で、同28日に開かれる上部組織の初等中等教育分科会に報告される。

【総論】

総論ではまず、AIやビッグデータなど高度化した先端技術が産業や社会生活に取り入れられるSociety5.0時代が到来する中、新型コロナウイルス感染症によって先行きが一層不透明となったとの認識を表明。このため、変化を前向きに受け止め、人間ならではの感性を働かせるなど、新学習指導要領が目指す子供たちの資質・能力の育成が、さらに強く求められていると指摘した。同時に、感染症の拡大で社会のデジタル化やオンライン化が大きく促進され、学校教育を支える基盤的なツールとしてICTはもはや必要不可欠なものであることを前提として、学校教育の在り方を検討していくことが必要だと明記した。

学校教育が直面している課題

続いて、これまで日本型学校教育が成果を挙げてきたのは「子供のためであればと頑張る、教師の献身的な努力によるもの」と指摘。「将来を担う子供たちの教育は教師にかかっている。しかしながら、学校の役割が過度に拡大していくとともに、直面するさまざまな課題に対応するため、教師は教育に携わる喜びを持ちつつも疲弊しており、国において抜本的な対応を行うことなく日本型学校教育を維持していくことは困難であると言わざるを得ない」と厳しい認識を示した。

さらに、学校現場が抱える課題として、▽特別支援を必要とする児童生徒の増加▽外国人や日本語指導を必要とする児童生徒の増加▽18歳未満の7人に1人が相対的貧困状態となり、経済的な困窮を背景に不利な状況に置かれてしまう子供の増加▽いじめや虐待の増加▽高校生の学習意欲の低下▽教師の長時間勤務による疲弊▽新型コロナ対策の指導上の工夫や消毒などで、教師の多忙化に拍車が掛かっているとの懸念▽情報化の加速度的な進展への対応の遅れ▽少子高齢化、人口減少の影響――など、多くの項目を挙げた。

令和の日本型学校教育

こうしたSociety5.0時代や学校現場の課題に対応する基本姿勢として、骨子案では、学校教育の在り方を根本的に見直すとの考え方を退け、「『日本型学校教育』の良さを受け継ぎながらさらに発展させ、学校における働き方改革とGIGAスクール構想を強力に推進しながら、新学習指導要領を着実に実施することが必要である」と見解を示した。

その上で、「誰一人取り残すことのない持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け、(中略)日本型学校教育を発展させ、2020年代を通じて実現を目指す学校教育を『令和の日本型学校教育』と名付け」る考えを打ち出した。

「令和の日本型学校教育」では、「指導の個別化」と「学習の個性化」が重要になることを強調。その両者を教師の視点から整理した概念が「個に応じた指導」で、学習者の視点から整理した概念が「個別最適な学び」だと定義付けた。

さらに「令和の日本型学校教育」の構築に向けた今後の方向性として、次の6項目を挙げた。

    1. 学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現する
    2. 連携・分担による学校マネジメントを実現する
    3. これまでの実践とICTとの最適な組み合わせを実現する
    4. 履修主義・修得主義等を適切に組み合わせる
    5. 感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障する
    6. 社会構造の変化の中で、持続的で魅力ある学校教育を実現する

【各論】

各論では、▽幼児教育の質の向上▽小学校高学年の教科担任制導入など9年間を見通した義務教育▽高校教育▽特別支援教育▽外国人児童生徒などへの教育▽オンライン教育を含むICTを活用した学び▽教室など新時代の学びを支える環境整備▽人口動態などを踏まえた学校運営や学校施設▽教員免許更新制など教師および教員組織――の9項目でそれぞれ方向性を示した。

高校の普通科改革

高校改革については、高校生の現状として、学校生活の満足度、学習意欲の低下が起きていることを改めて指摘。同時に、誰一人取り残すことのないようにする観点から「個別最適な学びと、社会とつながる協働的な学びが実現されるよう検討を進める必要がある」と課題意識を示した。

これらの課題に対処するため、高校の特色化や魅力化を図ることが急務だとして、▽スクールミッションの再定義▽3つのスクールポリシーの策定▽普通科改革▽専門学科改革――などを挙げた。

スクールミッションの再定義は「在籍する生徒の状況や意向、期待に加え、学校の歴史、現在の社会や地域の実情を踏まえて、また、20年後30年後の社会像・地域像を見据えて、各学校の存在意義や各学校に期待されている社会的役割、目指すべき学校像」を描くもので、各高校の存在意義を明確化する。

このスクールミッションを実現するために、教育活動の指針として3つのスクールポリシーの策定も求めた。3つのポリシーは、▽卒業の認定に関する方針(グラデュエーション・ポリシー)▽教育課程の編成及び実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)▽入学者の受け入れに関する方針(アドミッション・ポリシー)――を指す。

さらに、高校の特色化や魅力化を図るために、約7割の高校生が通う普通科の改革を鮮明にした。具体的には、普通教育を主とする学科として、普通科に加え、▽SDGsの実現や 、Society5.0における諸課題への対応を図るために学際科学的な学びに重点的に取り組む学科▽地域や社会の将来を担う人材の育成を図るために地域社会が抱える課題の解決に向けた学びに重点的に取り組む学科▽その他普通教育として求められる教育内容であって特色・魅力ある教育を実現すると認められる学科――を挙げ、各設置者の判断で設置できるように求めた。

また、履修主義と修得主義の適切な組み合わせを求める中で、高校については義務教育よりも「修得主義・課程主義の要素がより多く取り入れられている」として、「高等学校教育の特質を踏まえて教育課程の在り方を検討していく必要がある」と指摘。これまでよりも修得主義を重視していく方向性をにじませた。

ICT活用と学校教育の現代化

学校教育におけるICT活用について、基本的な考え方を示したことも骨子案の特徴となっている。まず、授業改善にどのように生かされるのか、「実践を深めていくことが重要である」と提起。学校のICT環境整備が社会的に遅れている実情を踏まえ、現実と社会で行われているようなやり方で子供たちが学ぶことができるよう、「学校教育を現代化することが必要である」と明記した。

その上で、これまでの対面指導とオンライン授業などのICT活用の関係について、「今後は、対面指導の重要性、遠隔・オンライン教育などの実践で明らかになる成果や課題を踏まえ、発達の段階に応じて、ICTを活用しつつ、教師が対面指導と家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで、個別最適な学びと、社会とつながる協働的な学びを展開することが必要である」と指摘。対面指導とオンライン授業のハイブリッド化が、今後の学校教育の基本的な姿になるとの考え方を鮮明にした。

ハイブリッド化された学校教育の方向性として、▽学習履歴(スタディ・ログ)を活用した個別最適な学びの充実▽教師の対面指導と遠隔授業などを融合した授業づくり▽デジタル教科書・教材の普及促進▽ICT人材の確保–などを示した。

対面指導とオンライン授業を融合した授業については、「児童生徒の学習活動の質を高めるため、学校の授業時間内において、教師による対面指導に加え、目的に応じ遠隔授業やオンデマンドの動画教材等を取り入れた授業モデルを展開するべきである」と説明している。

主権者教育の重要性に指摘相次ぐ

この日の特別部会では、骨子案をたたき台として、委員の活発な議論が展開された。

香山真一・岡山県青少年教育センター閑谷学校所長は「子供たちには、よき主権者として育ってもらいたい。そのために、子供たちが属する社会の魅力発見や、それを促す体験的な学びの重要性をもっと強調したい」と指摘。

主権者教育の重要性については、吉田信解・埼玉県本庄市長も「選挙権が18歳に引き下げられたのに、投票率は低い。主権者になっていくための教育が重要で、小学校から一貫して打ち出したほうがいい」と応じた。また、「学校現場の教員から少人数学級を求める声が上がっている」として、「教育の質の向上という観点から、少人数学級をもっとはっきり取り上げてほしい」と求めた。

橋本幸三・京都府教育長は「主権者教育に加えて、社会との接続を果たす意味で、高校段階でのキャリア教育が重要と思う。それなのに、骨子案にはキャリア教育の文字が見当たらない」と述べた。

教員や高校のICT環境整備に課題

ICT環境整備が強く打ち出される中で、児童生徒向けだけでなく、教職員のICT環境の整備が遅れている現状を指摘する声も相次いだ。

堀田龍也・東北大大学院教授は「職員室の教員の机から、インターネットにアクセスできない学校や、印刷室にある印刷機に教員のパソコンがつながっていない学校がある。教師の職場環境として、学校のICT整備をもっと考えるべきではないか」と問題を提起。

田村康二朗・東京都立光明学園統括校長も「教員は職員室で授業の準備などの仕事をする。児童生徒の教室環境を取り上げているのに、教職員の執務環境に触れなくていいのか。教育実習にきた学生たちは、職員室の職場環境をみて、誰も魅力的と思わなくなる」と、体験を交えて苦言を呈した。

また、GIGAスクール構想で小中学生の1人1台端末が整備される中、高校生の1人1台端末の整備を問題視する発言もあった。㈱COMPASSの神野元基ファウンダーは「小中学校では1人1台端末が整備される見通しになったのに、高校ではいまだにBYODで1人1台端末を確保している学校がある。1人1台環境で学んできた中学生がすぐに高校生になるのだから、国が全力で取り組まないと間に合わない」と話した。

格差是正、「学びのロジック」求める声も

教育格差の是正について、骨子案は踏み込み不足だと厳しく指摘したのは、貞広斎子・千葉大学教育学部教授。「学びの格差は生涯にわたって影響が持続してしまう。新型コロナウイルス感染症は、教育が抱える格差問題を可視化した。格差を是正する姿勢をもっと明確に打ち出し、それを可能にするために教育資源の配分を見直していく方策を示すべきだ。格差是正の問題を学校現場の教師に頼るのではなく、社会的なシステムとしてしっかり教育現場を支えなくてはいけない」と強調した。

骨子案の総論について、もっとメッセージ性を明確にすべきだとの指摘もあった。今村久美・認定NPO法人カタリバ代表理事は「子供たちが自律した学習者になっていくのならば、子供たちが管理され、同調圧力に苦しんでいる現状を指摘するだけでなく、自分で未来を切り開いていくという『学びのロジック』をもっと具体的に書いたほうがいい。教師は、そうした子供たちのニーズに応える伴走者となる。そうした教師の役割も、はっきり位置付けるといい」と意見を述べた。

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