データが物語るコロナで疲弊する教員 現職校長の危機感

コロナ禍の学校現場で、いま何が起きているのか――。8月21日、NPO法人「共育の杜」は文科省で記者会見を開き、約1200人の教職員を対象に実施した、学校再開後の勤務状況とストレスへの影響に関する調査結果を公表した。それに先立ち、調査を行った藤川伸治・共育の杜理事長と、記者会見に同席し、学校現場の窮状を訴えた住田昌治・横浜市立日枝小学校長が対談した。

このままでは学校が崩壊する
――今回の調査で改めて、新型コロナウイルスの渦中にある学校の状況がデータとなって浮き彫りになりました。

記者会見に臨む藤川理事長(右)と住田校長

藤川 この調査によって、教職員の長時間労働が新型コロナウイルスの感染拡大、学校再開と共に一層深刻化していることが示されました。教頭の7割、教諭の6割が過労死ラインを超えている状況は本当に異常です。

さらに、学校では今、感染防止対策を講じながら、子供たちの心のケアや学習の遅れを取り戻すための教育活動が行われており、非常に緊張感が高まっている中で仕事をしているので、疲労度が平時の一般の職業と比べて3倍以上になっています。

これらのエビデンスを踏まえると、ぎりぎりの状態で職務を続けている教職員が、2学期以降、過労で倒れるリスクが高まっていると言えます。文科省や教育委員会は、速やかにできうる対策を講じるべきです。

住田 一校長として、いろいろな学校の話や相談を受けている中で感じていることと、今回の調査結果は合致しています。多忙な状況がさらに加速していけば、退職や休職をせざるを得なくなる教員が出てくることは目に見えています。

学校現場では、代替教員が確保できない状況がここ数年続いています。学校はぎりぎりの状態なんです。ここで踏ん張りきれなくなれば、学校が崩壊する危険性があります。何とかしなければいけません。

教員はこれまでも長時間労働をしていたわけですが、それに加えて、新型コロナウイルスで子供の健康チェックやソーシャルディスタンスの指導、消毒作業などの感染防止対策が重くのしかかっています。グループワークや対話的な学びが重視されていたはずなのに、3密を避けるために真逆の対応をしないといけないのです。

さらに、昨年度末までに作っていた今年度のプランは一からやり直しとなり、感染状況とともにガイドラインも変わっていくので、その都度変えていかなければいけません。

常に不安を抱え、どこまでやらなければいけないかが分からない。それがかなりのストレスになっています。短い夏休みを挟んで、子供たちの心は不安定な状態にあります。暑い中で学校に行かなければいけないイライラもあって、いじめや不登校、荒れの兆候が出ていないか注意しています。

子供の対応を丁寧に見れば見るほど時間を取られ、教員は疲れていく。目に見えない部分で確実に疲労はたまっています。

特に小学校は今年度から新学習指導要領が始まり、2学期以降の授業計画や教材研究を夏休み中に進めなければなりません。子供だけでなく教員も、この夏休みは十分にリフレッシュできなかったのではないでしょうか。

教員の疲労は教育改革を阻害する
――調査では、教員に疲労が蓄積すると「子供の話をしっかり聞けなくなる」などの傾向も示されました。

藤川 一般的に、疲れてくると人の話をじっくり聞けなくなるのは誰もが経験しています。ただ、学校の先生は疲労がたまっていても、子供の話をしっかり聞くべきだというのが建前になっています。

しかし、先生も一人の人間ですから、疲れていれば子供たちの話を聞こうとしても、どうしても聞けなくなります。それが現場の経験則ではなく、エビデンスとして出てきました。小さなNPOのやった調査ではありますが、このことは財政当局を説得する上で、とても重要な知見だと思っています。

教員の長時間労働の実態を調査した藤川理事長

「先生たちはもっと頑張れ」と精神論だけで語るのではなく、科学的な視点から、教員の疲労度が子供たちとの関係にどのように影響しているかを、直視しなければいけません。

ましてや、このコロナ禍で子供たちもストレスを抱えている。今優先してやるべきことは、学習の遅れを取り戻すことよりも、子供たちの話をじっくり聞く心のケアではないでしょうか。

今回の調査結果は、教員が疲労していると、そのケアが十分にできないということを意味しているのです。

住田 「一斉休校中、先生たちは楽だったのではないか」と言われたこともありました。オンライン授業をやっている学校は一生懸命やっているように見えるけれど、それができない学校の様子は外からでは分かりにくかったのです。

しかし、子供が来ないからといって、学校や教員は決して休んでいたわけではありません。みんな子供たちのために頑張っていて、目に見えない疲労を蓄積させていたのです。

これからの教育では、教員は一方的に教えるのではなく、ファシリテーターとなって子供の考えを引き出す、子供を主体とした授業が求められています。しかし、教員が疲れていて、子供たちの声やサインを見逃すようになれば、そうした授業はできません。

さらに、教師がそんな状況では、子供たちは自分のやりたいことができないし、認めてもらえないと思うようになり、自己肯定感が下がり、荒れにつながりかねません。

そう考えると、教員の疲労の蓄積は教育の根本的な問題であり、教育改革を阻害する恐れがあると考えないといけない。

このコロナによる状況で、これまで教育について考えてきた仲間たちから悲痛な声が届いています。今のまま行けば、私たちが願っているような教育ができない状況が生まれてしまう。この現状を発信する必要があると考え、記者会見に臨むことにしました。

今、日本の教育の土台がぐらついているのです。いくらGIGAスクールをやっても、土台が揺れた状態ではうまくいくはずがありません。学校の元気は教職員がつくっているんです。教職員が元気だから、子供が元気になるんです。教員をもっと大事にして、学校の現状を変えていかないといけません。

エージェンシーを育てていくための学校
――改めて、コロナ禍の学校と教員を巡って、これからどんな議論が必要なのでしょうか。

藤川 生身の人間同士が語り合って、人間的な絆をつくることから、あらゆる教育活動がスタートするのです。しかしながら、その根本を、このコロナの目まぐるしい環境変化の中で、文科省や教育委員会などがついつい忘れてしまうんです。同じことが、私や学校現場にも言えます。

今回の一斉休校で、学校教育がいかに社会に大きな影響を与えているかを痛感させられました。社会は学校に対して多様で複雑な願いを持っていて、教育関係者はそれに応えようと必死になっている。それはそれでいいのですが、教育の本質的な部分を忘れてはいけないと思います。それが今回の調査で、振り返るための視点が生まれました。

教育は何を大事するのか、これだけは譲れないというのは何かを、今こそ明確にすべきです。それで文科省、教育委員会、管理職と一本の筋が通れば、そこから先は、日本の先生たちは使命感もあるし、やる気も高いので、現場に任せてくれたら、相当なことができます。だから、現場の教職員が安心して働けるにはどういう条件が必要なのかを、しっかり考えてほしいのです。

今回の調査を通じて、未来への展望を強く感じた部分があります。多くの教職員から寄せられた自由記述で「教育は人と人とが出会う場だと確認した」「教室に子供がいる光景を担任として目にしたとき、学校は子供の居場所であると再認識した」「子供の方が環境に順応できていることに希望を感じた」など、コロナ対策で大変な中にあっても、教職の魅力を見いだして、子供たちの姿から学ぼうとしている先生が、日本の学校現場にはたくさんいると気付かされました。

教員がその誇りを持ち続けられるように、支援する輪を社会全体に広げていく必要があります。

住田 一斉休校によって学校の役割として改めてクローズアップされたのは、子供たちの生活のリズムを作っている場所だということです。時間によるリズムだけではなく、1日を過ごすリズムを作っていた場所が学校なのです。そういう意味では、学校は家庭にも影響を与えていたし、地域社会の核だったのです。

コロナ禍による学校現場の危機を訴える住田校長

学校にとって、今後どんな子供を育てていくかが重要です。学校が育てたい子供の姿を明確に持ち、そのための教育活動をするために何が必要なのかを考えないといけません。経済協力開発機構(OECD)では、それをエージェンシー(編集部注 生徒の主体性・自立・自律などを指す)と呼んでいます。

エージェンシーを育てていくための学校、持続可能な社会にしていくための学校づくりをどうするかを考えて、全ての施策や人的配置、教育活動を考えていく必要があります。

しかし、今の教育がそうなっているかといえば、必ずしもそうではありません。そこを改善しない限り、学校は変われません。

【プロフィール】

住田昌治(すみた・まさはる) 横浜市立日枝小学校校長。2015年度に「もみじアプローチ」の実践でESD大賞小学校賞を受賞。学校組織マネジメントやサーバントリーダーシップに基づく働き方改革を実践し、「元気な学校づくり」で注目されている。著書に『カラフルな学校づくり』(学文社)、『校長の覚悟』(教育開発研究所、共著)、『「任せる」マネジメント』(学陽書房)。

藤川伸治(ふじかわ・しんじ) NPO法人「共育の杜」理事長。日本教職員組合役員、連合総合生活開発研究所主任研究員を経て、現職。教員が相談事を話せるオンラインコミュニティー「心の職員室」を運営する。著書に『みらいの教育 学校現場をブラックからワクワクへ変える』(共著、武久出版)など。

次のニュースを読む >

関連
関連記事