マスク越しでも伝わる感情 コロナ時代の「対話」を体験

教室でもマスクを着けて会話を控えることを求められるなど、コロナ禍によるコミュニケーション阻害は学校にも影を落としている。「対話的な学び」の実践にも、さまざまな工夫が必要に。言葉を抜きに「対話」はできないのか。聴覚障害者に案内されながら無音の世界で対話を楽しむエンターテインメント「ダイアログ・イン・サイレンス(DIS)」を体験。無音のコミュニケーションの達人に、Withコロナ時代に活用できる「対話」のノウハウを聞いた。

「気持ちを伝える方法はいろいろある」と長井利美さん

東京都港区のダイアログ・ミュージアム「対話の森」は、ハンディキャップや世代、文化の違いなどを超えて、多様性を学べるソーシャル・エンターテインメント施設だ。(一社)ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが8月23日にオープンさせたばかり。取材したのは開業前の関係者や支援者向けの体験会で、ちょうど萩生田光一文科相が視察に訪れた翌日だった。

当日の参加者は記者を含めて男女3人ずつの6人。荷物などは全て預けて、身ひとつで最初の部屋へ入る。何も置かれていない白い壁に囲まれた第一室には「ようこそ静寂の世界へ」と記されている。全員に音を遮るヘッドセットが配られる。装着すると静かな空間がさらに静まり返って、そのギャップでじつは雑音に包まれていたことに気づく。

ほぼ完全な静寂のなか、案内人(アテンドスタッフ)の長井利美さんが登場し、身振り手振りによる対話がいよいよスタート。声を出さない、手話も使わない、ヘッドホンを外さない、といった注意事項をチーム全員が理解すると、次の部屋へ移動する。

扉を通り抜けた第二室は「手のダンス」のコーナー。照明が当てられた円形のテーブルをみんなで囲んで、隣の人のハンドサインを真似したり、指で点呼を取ったり、影絵で三角形やハート、太陽など指示された形を作ったりして楽しむ。

そこから部屋を移っていくのだが、求められる所作は次第に複雑になっていく。顔の表情を変える、喜怒哀楽を表現する、アイデアを共有する、指定されたビジュアルを正確に伝える……。頭を使うチームプレーで、やっているときは夢中だったが、振り返ってみて、その仕掛けに納得。「真似をする」に始まって「意思表明」「フィードバック」など、人と人がコミュニケーションを深めるプロセスを丁寧に辿っていたのだ。

仕上げは、ヘッドセットを外してのディスカッション。手話のできるスタッフも加わって、車座に座った全員で感想を話し合う。「集中力が高まっていた」「見ることをすごく意識した」「難しかった」「ヘッドホンを外した時にうるさいと思った」……。長井さんは、それぞれの意見をしっかりと受け止めて、どんどん対話を促していく。

個人的に印象深かったのは、ヘッドセットを外した瞬間の感覚。聴覚が戻ったら解放感があると思っていたが、逆に少し残念な気持ちに。集中力が一気に失われて、いつもの日常を味気なく感じてしまった。無音の世界でコミュニケーションにトライする体験には、身体機能や感覚をぐいっと押し広げるような新鮮な魅力があった。

長井さんは難聴障害を持つ手話パフォーマー。2017年にDISが日本で初開催されたとき以来のスタッフだ。案内人を務めるときは「目で見る『ことば』を大切にしている」と話す。

「例えば『ありがとう』でも、表情や動き、声のトーンによって、心がこもっていないか、本当に感謝しているかはわかるもの。参加者がその意味を理解して、積極的に『気持ちを伝えたい』という姿勢をみせてくれると、うれしくなります。うまいとか下手とかは関係なくて、その姿勢が安心感を与え、対話につながっていく」

さまざまな参加者と接しているが、世代による差はそれほどないそうだ。日本人はもともとジャスチャーが控えめで、なかなか相手の目を見て話さなかったりする。「でもこの空間では、初めて会う人同士がしっかりコミュニケーションを取ろうとしてくれる」

無音の世界でコミュニケーションを楽しむ(ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)

目と目をしっかり合わせるように! 両手の指2本を向かい合わせにするサインを使って、長井さんが最初に指示してくれたことが、それだった。音に頼れない分、相手のことをよく見るようになる。ちょっとした身振りや顔の表情に敏感になる。でもそれは実は、ハンディキャップに関係なく、コミュニケーションの基本中の基本。言葉の便利さにあぐらをかいて、なおざりにしていたような気もする。

コロナ禍の中、大分では給食タイムに手話を取り入れた学校も。言語によるコミュニケーションが難しくなっていることについて、長井さんは「マスクを外せない世界でも、気持ちを伝える方法はきっとある」とアドバイスする。

たとえば、目だけで「笑う」「怒る」「悲しむ」を相手に伝える練習をする。あるいは、2冊の本を持ってきて、片方がつまらない本でもう一方が面白い本だ、ということをジャスチャーで伝える。ゲーム感覚でどんどんチャレンジしてみてほしいという。

「こういう状況だからこそ、友達に対して、大好きだよとか、嫌なことを言われると悲しいよとか、そういうことをしっかり伝えることが一層大切になっている。いまだからできるやり方があるし、いまだからこその楽しみ方もある。いろいろ試してみることが、未来のための素敵な練習になると思います」

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