Withコロナの中でのスポーツ 柔道家の井上康生氏に聞く

新型コロナウイルスにより、東京オリンピック・パラリンピックが延期となり、さまざまなスポーツ競技で、Withコロナの中での大会や練習の在り方が模索されている。選手同士の接触が避けられない柔道もその一つだ。シドニーオリンピック金メダリストの井上康生氏がこのほど、日本財団主催のオンラインスクール「HEROs LAB」への出演後、教育新聞の単独インタビューに応じた。柔道日本代表監督でもある井上さんは、部活動の夏の大会も中止が相次いだ中で、教師やスポーツ指導者の子供たちへの声掛けやサポートが重要になると話す。


安全安心に柔道ができる環境に向けて一歩ずつ
――「HEROs LAB」で参加した中高生とさまざまなやり取りをされていましたが、彼らからどんなことを感じましたか。

参加してくれた中高生に元気や勇気を与えられたらと思って臨んだんですが、実際には、逆に彼らからエネルギーをもらいました。

子供たちと一緒に考えることの大切さを語る井上さん

本当にいろいろな考え方を持った子供たちがたくさんいる。それがすごく面白かったです。こんなに若いのに、そんな深いことを考えているのかと感心したし、さまざまな環境の中で、いろいろなものにチャレンジしている子供たちもいて、個性を持っていろんなことに取り組んでいることがすごく頼もしく、またうれしく感じました。自分自身の強さをしっかりと認識した上で、しかしそれに満足することなく、より一層成長してもらいたいですね。私も負けてはいられません。

――新型コロナウイルスの影響で、さまざまなスポーツで大会や練習が今まで通りにできなくなっています。特に相手と組む柔道は、対策の難しさがあるのではないでしょうか。

Withコロナを考えた上では、やはりいろいろなものを変えていかなければいけません。柔道はフルコンタクト競技なので、この影響を最も受けやすいですが、だからと言って、何もできずにただ待っているのではなく、完全に元に戻るわけではない中で、どうしたらまた正常に近い状態の活動ができるかを考えていく必要があります。

これまでの歴史を振り返っても、変化を繰り返してきた上で今の柔道がある。それはどの競技でも同じだと思います。時代が変化している中で、われわれが変えていかなければいけないことをしっかり取り入れていきながら、一歩ずつ前に進む必要がある。

今、全日本柔道連盟の医科学委員会で、柔道経験のあるドクターがいろいろな意見を交換しながら、選手たちが安全かつ安心に柔道に取り組める環境をどうやって作っていけるかを考えています。いろいろな力を借りながら、柔道の再開に向けて取り組んでいます。地域によって感染状況も違う中で、一概に全国一斉とはいかないまでも、徐々に徐々に再開していきたいと思っています。

12月の開催が決まった全日本選手権・全日本女子選手権では、柔道を安全安心の中で披露できるように努力していきますし、その先にあるオリンピックを見据えた上で、われわれが目標としているものを信じて突き進むだけです。

次へのエネルギーに
――夏の部活動の大会も中止が相次ぎ、選手たちのケアが課題になっています。

今、日本代表監督をしているのですが、部活動を引退する中学3年生や高校3年生の子供たちと、われわれの置かれている状況は違います。われわれには、1年後のオリンピックという目標があり、それに向けて今できることを一つ一つ取り組んでいくだけです。これは、学校の勉強でも同じことが言えると思うのですが、焦りすぎても仕方ない部分もあって、できることを余裕を持って一つずつ積み上げていくことが大切です。選手たちともじっくりコミュニケーションをとりながら、前に進んでいます。

しかし、中学3年生や高校3年生は違います。卒業した後に、高校や大学で続ければいいという問題ではない。やっぱり、3年間苦楽を共にした仲間と戦える、何物にも代えられない喜びが奪われてしまった。すごく心が痛みます。でも、この現状を変えることはできない。この出来事を乗り越えられたということを、次へのエネルギーにしてもらいたいです。

もう一つは、子供たちを導いていく立場にある大人や教師の力が、今、すごく重要になっているということです。先生が子供たちに掛ける声が、きっと彼らの今後の人生に大きく影響するでしょう。別に甘い言葉を掛けてほしいというわけではなくて、彼らを大事に思った上でのサポートを考えてもらいたいです。

子供たちと共有の時間をつくる
――子供たちはスポーツも思うようにできず、ストレスをためています、子供たちのために大人ができることは何でしょうか。

「コロナだから全部やっちゃいけない」という意識が社会全体にあるような気がするのですが、そうではないと思うんです。工夫すれば、やれることは結構あります。私は最近、自宅で料理を作るようになったのですが、それを子供と一緒にやることで、見えている世界が変わってくるし、子供は意外とできるんですよ。

息子がすごく海に関することが好きで、あるとき、浜辺に打ち上げられていたタコを捕まえて、どうしてもみんなに食べさせたいと言い出したことがありました。特に何も言わずにやらせてみたのですが、今はテクノロジーが発達していて、YouTubeの動画を見ながらタコのさばき方を学べるんですよね。実際にそれで刺身を出してくれました。もちろん安全面には気を付けないといけないですけど、「包丁は危ないからだめだ」と全て禁止にするのではなくて、こういうときだからこそ、いろいろなことにチャレンジさせたいのです。

われわれが子供たちの全てを縛るのではなくて、こんな状況の中でも生きていける道をどう見つけ出していくかを一緒に考える。これはすごく大事なことだと思います。子供たちと共有の時間を作り出すことが、われわれ大人の使命なのではないでしょうか。とはいえ、正直言って、私もこれまでは家にいる時間もあまりなく、それができていませんでした。コロナによって仕事の仕方が変わり、気付かされたことがたくさんあります。

【プロフィール】

井上康生(いのうえ・こうせい) 1978年、宮崎県生まれ。2000年シドニーオリンピック男子柔道100キロ級で金メダルを獲得。現在は、柔道の日本代表監督を務め、東京オリンピックに向けて選手の成長を支えている。

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