概算要求にみる少人数学級への道筋 「財政負担なく可能」

学校現場で大きな期待が寄せられている少人数学級の実現について、文科省は9月29日に公表した来年度予算概算要求で、予算要求額を明示しない「事項要求」として盛り込み、12月末までの予算編成過程で財政当局との折衝を通して具体策を検討する考えを示した。少人数学級が必要な根拠として、文科省が掲げるのは「感染症対策を踏まえた身体的距離の確保」と「GIGAスクール構想による個別最適な学びの実現」の2つ。萩生田光一文科相は同日の閣議後会見で、児童生徒の減少などを理由に「大きな財政負担なく実現が可能だ」と説明した。文科省の概算要求から、少人数学級の実現に向けた道筋と検討状況を読み解いてみる。

論拠は感染症対策とICT活用

少人数学級と概算要求について説明する萩生田光一文科相

少人数学級について、概算要求では、小中学校の教員の人件費となる義務教育費国庫負担金に「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」として新たな項目を立てた。

ここで文科省は、少人数学級の実現を求める理由として、児童生徒と教員の比率(student teacher ratio)の改善による教育効果については、意図的に踏み込んでいない。少人数学級の教育効果は「専門家でも意見が分かれるところ」(萩生田文科相)であり、財政当局との間で教育効果のエビデンスを巡る議論を回避するためとみられる。

代わって、文科省は少人数学級の実現を求める論拠として、「感染症対策としての身体的な距離の確保」と「GIGAスクール構想による個別最適な学びの実現」を挙げた。

身体的な距離の確保は、新型コロナウイルスに限らず、新たな感染症が発生したときにも、学校が再び長期休校に追い込まれる事態を避け、児童生徒の学びを保障することを目的としている。萩生田文科相は「64平方メートルの教室に40人の児童生徒が座り、今の机のスペースで授業を続けていくことは、限界を超えている」と指摘する。

GIGAスクール構想による個別最適な学びの実現を根拠にするのは、1人1台のICT端末を活用するためには「子供たちが個別最適な学びを自分で推進し続ける力が必要。そのためには教員によるきめ細かな支援が不可欠になる」(堀田龍也東北大大学院教授)という専門家の見解が背景にある。

30人学級を前提に試算

少人数学級の実現と必要な教員確保に向けて、大きな壁となるのが財政負担の問題だ。この懸案について、萩生田文科相は9月29日の閣議後会見で、文科省が行っている試算を明らかにした。

その試算は「少子化により今後10年間で公立小中学校の児童生徒数は100万人程度減少する見込みであり、それに伴い教職員定数も5万人程度減少する見込み」というもの。これに加えて、「これまでも地方自治体の少人数学級の取り組みなどで加配を3万人程度、措置している」と述べた。

自民党教育再生実行本部の赤池誠章事務局長(参院議員)によると、9月24日に開かれた同本部の会合で、文科省は「粗い数字だが、今すぐに30人学級を実現するには8万~9万人の教員増が必要」と説明している。

こうした数字を足し合わせると、▽30人学級をすぐに実現するには8万~9万人の教員増が必要▽一方で、少人数学級や少人数指導のため、現在、教員3万人程度の加配を措置している▽その上、10年程度かければ、必要な教職員定数は5万人程度減少する▽従って、時間をかければ、教員増はそれほど必要ではなくなり、財政負担もあまりない――という理屈になる。

萩生田文科相は同日、こうした考え方に沿って「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備にあたり、今後の教職員定数の減少数などを考慮しながら、一定期間かけて段階的に整備を進める場合、文科省としては、毎年度、新たに必要となる教職員定数は小さく、大きな財政負担はなく実現が可能だと思っている」と話した。

一連の説明は、少人数学級の規模として30人学級を前提としている。政府の教育再生実行会議が1クラスの児童生徒数を30人以下とする方向で議論を進めているほか、自民党の教育再生実行本部も9月24日に30人学級の実現を求めていることが背景にある。

少人数学級について、概算要求で予算要求額を明示しない「事項要求」として盛り込んだ文科省は、こうした試算を踏まえ、財政負担をかけないかたちで財政当局との折衝に臨み、実現に向けた道筋を切り開こうとしている。

義務標準法改正 明言避ける

今後の焦点の一つは、学級編制の標準を示す「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)の改正になる。例えば、教員の定数では、発達障害など障害のある児童生徒への通級指導の充実を図るため、2017年度から10年がかりで段階的に基礎定数として増やしている。こうした計画的な定数増は予算関連法案として、17年3月に成立した義務標準法の改正で定められている。恒久的な教員の増員は義務標準法の改正で定めるのが、一般的な正攻法と言っていい。

また、学級編制の見直しには、10年単位の時間をかけてきた経緯もある。現在の40人学級は1980年度に、それまでの45人学級から引き下げられたもの。文科省によると、学年進行で45人学級から40人学級に移行したため、全ての学年が移行するまでに12年間かけた。

こうした状況を踏まえ、自民党の教育再生実行本部が9月24日に文科省に出した提言では、少人数学級を恒久的な措置とするために、義務標準法の改正を重視している。

ただ、萩生田文科相はこれまで予算編成に向けて「財政当局にも必要性を真正面から訴え、実現に向けて努力したい」(9月18日の閣議後会見)と踏み込んだ発言をしてきているが、義務標準法の改正については明言を避けている。

学級編制については、イレギュラーな例もある。現在の小学2年生は義務標準法上は40人学級となっているが、予算上は教員加配が毎年度措置されて実質的に35人学級として運営されている。これは2011年度に民主党政権下で小学1年生が35人学級に引き下げられ、翌12年度には小学2年生についても35人学級に必要な教員加配の予算が措置されたが、政権交代を経て義務標準法の改正は行われなかったためだ。法律上は義務教育課程のうち小学1年生だけが35人学級で、実態としては小学1年生と2年生が全国で35人学級として運営されている。

こうした状況もあり、自民党教育再生実行本部の赤池事務局長によると、9月24日の同本部会合で、文科省の担当官は「法改正を行わずとも、計画的に進めれば30人学級を実現する見通しが立つのではないか」との説明もしたという。

萩生田文科相は、9月29日の閣議後会見では、「学級編成の標準の引き下げも含めて、少人数学級のきめ細かな指導体制の計画的な整備を進めていきたい。目指すべき方向はほぼ固まりつつあるけれども、どういうアプローチで行くかは、財政当局とのやり取りもある。現段階では、ぜひそういう思いだけ受け止めてもらえればありがたい」と述べるにとどめた。

少人数学級を巡っては、政府の教育再生実行会議が9月8日に、来年度からできるところから少人数学級に取り組むため、来年度予算編成の過程で「丁寧に検討すること」を求めた合意文書をまとめている。さらに12月末に政府予算案が仕上がる前に、少人数学級の実現を促す報告書をまとめる見通しだ。教育再生実行会議は安倍政権下では安倍晋三首相が議長を務めた首相直轄の会議体で、萩生田文科相は教育再生担当相として運営に深く関わっている。

今後は、財務当局と文科省の折衝に、政府の教育再生実行会議の動きが政治的な力学として加わりながら、必要な教員確保を恒久的に裏付ける義務標準法の改正をにらみつつ、少人数学級の実現に向けた道筋が固まっていくことになりそうだ。

文科省の来年度予算概算要求から
○少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備

これまでの新型コロナウイルス感染症対応を踏まえ、子供たちの学びを保障するとともに、「GIGAスクール構想」のもと個別最適な学びを実現することができるよう、1人1台端末の下での効果的なICTの活用や身体的距離の確保など、新しい時代の学びを支える環境を整備することが必要である。

そのため、学級編制の標準の引き下げを含め、少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備について、経済財政運営と改革の基本方針を踏まえ、予算編成過程において検討することとする。

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