学校に巨大壁画や美術館 コロナを逆手に新しい文化祭

新型コロナウイルスの影響で来校者や子供たちが密集する文化祭が開けない中、特別支援学校の東京都立光明学園(田村康二朗校長、児童生徒225人)では、子供たちが協力して1つのアート作品を創ったり、校内の一部を「美術館」にしたりして、保護者や地域住民が子供たちのアートを観賞できるようにする取り組み「光明アートプロジェクト」を始めた。新校舎の建設により1年後に取り壊される体育館の壁に、在宅訪問や病院訪問、分教室で学ぶ子供たちも含めた、全員が制作に参加する巨大壁画がつくられている。

思い出の校舎をキャンバスに

校舎の壁に絵を描いていく

肢体不自由教育部門と病弱教育部門からなる同校では、子供たちが学校に通うだけでなく、教員が子供たちのもとに出向いて指導する病院訪問や在宅訪問を行ったり、入院中の子供を対象とした分教室も設置されていたりする。そんな同校では、毎年秋に「光明祭」と呼ばれる文化祭を実施していたが、新型コロナウイルスの感染防止対策上の問題から、今年は集まる形での開催が困難となった。

そこで、田村校長はPTAと連携し、イラストレーターの小池アミイゴさんを総合プロデューサーに招いて、子供たち全員が参加するアート作品の制作を企画。同校は新校舎の建築が進行中だったこともあり、子供たちが過ごした思い出になればと、来年の12月に取り壊される予定の現校舎の体育館の壁をキャンバスとして利用することにした。

子供たち全員が参加する巨大壁画

「いきなり自由に描いていいよと言われても難しいよね。だから今日は、とにかく楽しく描こう」

晴天に恵まれた10月のある日、小池アミイゴさんが集まった病弱教育部門の子供たちにアドバイスを伝えると、壁画づくりがスタートした。

小池さんが実際にアート活動で使用している画材を借りて、子供たちは思い思いにペンや筆を壁に走らせていく。「絵具はたっぷり使おう。自分が『食べたいな』って思える色がいいよ」「とにかく手を動かそう。悩んでいると先生に褒めてもらえるように描こうとか、つい余計なことを考えてしまうから、いいことはないぞ」などと、小池さんは子供たち一人一人にユニークな声掛けをしていく。道行く人たちも思わず足を止めて見守る中、交差点に面した白い壁の下半分にほんの1時間ほどで、カラフルで個性的な絵があらわれた。高等部1年生の生徒は「自由にアイデアが湧き出てきて、今まで感じたことのない新しい発見があった」と興奮を隠しきれない様子だった。

子供の表現を引き出そうとする小池さん(左)

しかし、作品づくりはこれで終わりではない。並行して校内では、肢体不自由教育部門の子供たちが、縦1.5メートル、横10メートルと、縦1.5メートル、横5メートルの2枚の細長い巨大な白い布に、自由に色を乗せていく活動に取り組んでいた。ときには手に絵の具を付けたり、いろんな絵具を混ぜたりしながら、その子にしか出せない表現を重ねていく。そこでも子供たちと同じ視点に立って、その子が表現しようとしているものを引き出そうとする小池さんの姿があった。

さらにこの後には、病院や自宅で学ぶ子供たちも作品づくりに参加する。小池さんは、自身が描いた不思議な「線」の絵を用意。「ラブレターを贈ったから、そのやり取りをしよう」とビデオメッセージを送る。小池さんからのメッセージを聞いた子供たちは、小池さんの描いた線の先に続く線を考え、1枚の紙に表現していく。最終的に線は一本につながり、1つの作品になる。

巨大壁画は、これらの子供たち全員が関わった作品群を組み合わせながら、最後に小池さんが全体の調和をとるためのイラストを添えて、ようやく完成を迎えることになる。

スロープが本格的な美術館に

壁画がその姿をあらわすのは11月末。そこから約1カ月に及ぶ新しい光明祭が幕を開ける。

「子供たちはみんなアーティスト」、そう言って田村校長が案内してくれたのは、新校舎の各階を車椅子で移動できるようにした緩やかなスロープだ。中庭からの自然光が降り注ぐ壁には、子供たちが1学期に描いた87枚に及ぶ個性あふれる絵が額縁に収められていた。

何も飾られていない無機質な空間だったスロープを何かに活用できないかと考えた田村校長は、美術館のアイデアがひらめくと、自ら館長に就任し、美術の教員らを副館長に任命。夏休みを皮切りに教職員総出で美術館づくりを進めた。

新校舎のスロープに出現した「美術館」

子供たちの作品は、車椅子に乗った人も歩いている人も見やすいように、通常の高さよりも少し低い位置に飾るようにしたり、壁に固定した状態のまま作品の交換ができる額縁を採用したりして、ユニバーサルデザインやメンテナンスのしやすさも考慮。作品名のプレートは本物の美術館にあるようなものにできるだけ近づけ、作品以外の余計な掲示物は一切排除するなど、美術の教員を中心に細部にまで徹底的に見せ方をこだわった。それだけに、まるで本物の美術館でアート観賞をしているかのように、一つ一つの作品をじっくり味わうことができる。

この美術館「光明アートギャラリー」は、新しい光明祭の目玉でもある。

人がどうしても密集してしまうこれまでの土日開催に代わって、今年の光明祭は約1カ月間、毎日1組ずつの家族を招き、授業参観をする形に変更した。保護者からの訪問希望日を学校で調整した上で、招待状を送る。来校した家族らは子供の授業の様子を見るだけでなく、完成した壁画や美術館に飾られた子供の作品を目にすることで、子供の成長をさまざまな形で実感してもらうのが狙いだ。

「特別支援学校には医療的ケアが必要な子供もいるので、感染防止には細心の注意を払わなければならない。どうしたら人が集まらない形で、子供たちの一体感を生み出す活動ができるか。それを考えた結果、この形にたどり着いた。恒例だった演劇などができない今年は、アートの力で子供たちを一つにつなぎたい」と田村校長は語る。

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