インクルーシブ教育システムの在り方 東京学芸大・奥住秀之教授に聞く

障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が共に教育を受けられる環境づくりを目指す、インクルーシブ教育システムの構築が進みつつある。共生社会の形成に重要な鍵となるインクルーシブ教育システムの推進に、現場はどう取り組むべきか。東京都教育庁指導部の主任指導主事を兼務した経験もある東京学芸大学教育学部特別支援科学講座の奥住秀之教授に、特別支援教育の観点から見た、これからの学校と教員の役割を聞いた。


連続性のある多様な学びへ
――新学習指導要領では総則を中心に、校種を問わず特別支援教育に関する記述が見られるようになりました。

これまでは「通常の学級で学ぶ児童生徒は障害のない子供を基本とする」という考え方が一般的でした。新学習指導要領ではこの見方を180度改め、「発達障害を含めた障害のある児童生徒が通常の学級に在籍しているのが当然だ」という認識が前提になっているのがポイントです。

奥住秀之・東京学芸大教授

全教科で児童生徒一人一人が抱える困難の度合いに応じて、指導の内容や方法の工夫を計画的かつ組織的に行うことになったのは、その代表例です。

――改正の背景には何が。

2012年の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」で、「個別の教育的ニーズに応えられるよう、多様で柔軟な仕組みの整備が重要だ」と示された影響が大きいと思います。

この報告では、「通常の学級」「通級による指導」「特別支援学級」「特別支援学校」といった多様な場に「学びの連続性」を保障することが必要だとしています。

――新学習指導要領は、学びの連続性を保障しているでしょうか。

その実現に向けて、必要な改正が一定程度なされたと言えるでしょう。

2つの視点で考えると、まず教科の連続性については、通常の教科と、知的障害のある子供のための教科の連続性が明確になりました。特別支援学校における知的障害のある児童生徒のための教育課程でも、必要に応じて通常の学校の教科を参考にした指導が可能となっています。

2つ目の自立活動の連続性については、特別支援学校はもちろん、特別支援学級でもその実施が明記されました。通級による指導は、自立活動を参考にした指導がなされますので、その連続性は明らかでしょう。一方で、通常の学級では自立活動は行われませんので、「自立活動的な内容」をどのように行うかが今後の重要なテーマになります。

――学びの連続性を支える制度・システムは。

3点考えられます。1つ目は「交流および共同学習」です。

その形態は多様です。特別支援学級と通常の学級との校内交流、特別支援学校と小学校などとの学校間交流、そして何より、特別支援学校に在籍する子供の居住地にある小学校などで実施される居住地校交流です。

これらによって多様な学びの場同士に結び目ができ、それぞれの間にある垣根が低くなるきっかけになるでしょう。

――2つ目は。

「特別支援学校のセンター的機能」です。特別支援教育が始まった頃は、「教員不足の中、なぜ特別支援学校が『別の学校』の子供の支援をするのか」と感じた教員も少なくなかったと聞きます。

ですが、「多様な学びの場の連続性」という観点から見れば、支援の対象となる学校は「別の学校」ではありません。特別支援学校の児童生徒、通常の学校の児童生徒、双方にとって連続している身近な学校ではないでしょうか。

――3つ目は。

「個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成と活用」です。特別支援学校だけでなく、特別支援学級に在籍する児童生徒と、通級による指導を受ける児童生徒についても作成することとなりました。

教育・家庭・福祉などの専門機関の切れ目ない連携により、障害のある子供の自立を地域や社会が支援できるシステムの構築が目指されていますが、その実現のためには、就学前から卒業後まで継続される一貫した教育支援が必要となります。

2013年9月の学校教育法施行令改正により、障害のある子供の就学先決定の仕組みは大きく変わりました。子供の障害の状態だけでなく、地域や学校の実情に応じて、子供一人一人の最も適切な「学びの場」が決められるのです。

また、この学びの場は固定されるものではなく、地域・学校の実情の変化や子供の成長発達などに応じて柔軟に変更できます。そして、学びの場の変更があった際も、個別の教育支援計画などの作成・活用は支援の引き継ぎに重要となるのです。

子供と家族の願いや希望を実現させるために必要となる具体的な手だて、関係機関との連携。それらの貴重な情報を連続する学びの場で円滑につなげる、最も基本的かつ重要なツールと言ってよいでしょう。

現場がやるべきは
――今後、学校現場に求められることとは。

まず、管理職を含めた全ての教職員が、学びの連続性を理解する必要があります。「通常の学級」「通級による指導」「特別支援学級」「特別支援学校」のそれぞれにどのような特色があり、どのような教育を行っているのか、理解する必要があるでしょう。

通常の学級を取り上げてみても、通級による指導を受けに行く子供、特別支援学校や特別支援学級から「交流および共同学習」で学びに来る子供など、特別支援教育の「多様な場」と関係している子供がいるのです。

――連携し合えるよう支援する制度は。

東京都の施策で該当するものがいくつかあります。まず、「副籍交流」。これは居住地校交流の発展型と言えるもので、特別支援学校に在籍する子供は居住地にある小学校などにも副次的な学籍を有するという制度です。これにより子供は学籍のある地域の小学校で居住地校交流ができます。

次に、「連携型個別指導計画」があります。これは、通常の学級の担任教諭と通級による指導の担当教諭とが協働で作成する、個別の指導計画です。この作成により、それぞれの指導・支援の内容や方法などを互いに共有できます。

――連携における「チーム学校」の役割は。

大変重要になると思います。特別支援教育コーディネーターと特別支援教育委員会が中心になって、学校全体で特別支援教育を推進する仕組みづくりが必要となります。

一方で、学校現場は本当に多忙ですし、教師の専門性にも当然限界があります。福祉や医療、保健といった多様な外部専門機関と連携して支援に取り組むことが絶対に必要です。学校だけ、教師だけが悩み、抱え込むのではなく、チームで課題を解決していくのです。

連続する多様な学校同士がつながって支え合い、また、多様な学校と多様な関係機関とがつながって支え合う。こうした重層的な支援のネットワークが、インクルーシブ教育システムではとりわけ重要となってくるのではないでしょうか。

【プロフィール】

奥住秀之 東北大学教育学部教育心理学科卒業。1996年博士号(教育学)取得。専門は発達障害学、特別支援教育学。2017年度、東京都教育庁指導部で主任指導主事を兼務し、指導主事らの指導や「東京都教育研究員教育課題(オリンピック・パラリンピック教育)部会」での助言に当たった。19年度特別支援学校における「準ずる教育課程の教育内容・方法の充実事業」委員。


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