オンラインの先を行く 芝浦工大附属のバーチャル文化祭

今年は新型コロナウイルスの感染防止対策のため、多くの学校が文化祭を中止としたり、オンライン上での動画配信としたりしている。そんな中、東京都江東区にある芝浦工業大学附属中学高等学校(大坪隆明校長、生徒1128人)は、オンラインをさらに一歩進めたバーチャル文化祭を展開。11月1日からの開催に向け、オンライン上でリアルな学校の様子を“体験”できる仕掛けづくりを進めている。本番に向けて準備が進むバーチャル文化祭の舞台裏をのぞいた。


苦渋の決断から始まったチャレンジ
バーチャル文化祭について語り合う大塚さん(左)と干場さん

「人数制限してでも学校でやるか、オンラインでやるか、実行委員会の中でも意見が分かれていた。文化祭をやるのなら、来場者数を制限してでも学校でやりたい。僕も本音ではそう思っていた」

そう振り返るのは、今年の文化祭実行委員長を務める同校2年の大塚拓哉さん。同校の文化祭は豊洲に校舎が移転して以降、一昨年は約8000人、昨年は約9000人と来場者が増加。2月に発足した文化祭実行委員会では「今年は1万人の大台に乗せよう」とメンバーの士気も高まっていた。そんな中での新型コロナウイルスの感染拡大。学校も休校となり、文化祭もやむなくオンラインで開催することに決まった。

準備のための時間を確保するため、開催時期も例年より1カ月遅くなった。吹奏楽部など、コンクールが中止となってしまった部活動にとっては、引退する3年生の最後の晴れ舞台でもある。文化祭の中止を決める高校が多い中で、たとえオンラインでも開催できるようになったことで、文化祭実行委員会のチャレンジが始まった。

ところが、この段階でオンラインでの文化祭をやっていたのは、「ネットの高校」をうたう広域通信制のN高校くらい。参考になる前例がほとんどない手探り状態での企画づくりが始まった。大塚さんをはじめとする実行委員会は、文化祭に出展する各部の部長らと知恵を出し合い、さまざまな可能性を探っていくことになる。

バーチャルでもリアルな学校を感じられるように

その様子を見守っていた文化祭実行委員会顧問の中野邦彦教諭は「完全なデジタルではなく、実際に学校に来ているかのような要素を取り入れようと働き掛けた」と話す。それが体現されたのが、目玉企画でもある360度パノラマビューによる校舎の再現だ。バーチャルツアーができるウェブサイト制作などを手掛ける企業が協力し、生徒自身で撮影したパノラマ画像の編集に挑戦。実際に校内を散策しているかのような感覚を体験できるのが醍醐味(だいごみ)だ。

また、工業大学の附属校ということもあり、ものづくりに興味のある生徒が多く在籍している。この強みを生かして、クラスでオリジナルゲームを制作するところも出てきた。

「全てをデジタルでやろうとすれば、技術力に長けている一部の生徒の個人技になってしまう。クラスや部で一つのものをつくりあげてほしいと思っていた。ゲームづくりでは、プログラミングをする生徒もいれば、シナリオを考える生徒もいる。普段目立たない生徒も活躍でき、自発的な行動力が発揮されている」と中野教諭。

実際、教員の間では「生徒はワクワクしてどんどん進めているのだが、何をやっているのか、こっちはさっぱり分からない。すごいものができそうなことは確かなんだけど…」という戸惑いの声も聞かれるという。

360度カメラで鉄道模型ジオラマの車窓を堪能
360度カメラを搭載してジオラマ上を走行する鉄道模型(イメージ)

取材した日はちょうど鉄道研究部が、文化祭に向けて名物の鉄道模型ジオラマを制作していた。1カ月後には鉄道模型コンテストへの出品も控えており、文化祭の準備と並行して急ピッチで作業を進めていた。活動中の部員は鉄道談義に花を咲かせながらも、制作の手を止めることはない。

戦前に設立された「東京鐵道中学」をルーツに持つ同校。鉄道研究部は夏休みに全国各地を鉄道で巡る合宿を行ったり、全国高等学校鉄道模型コンテストに毎年出展したりするなど、名門で知られる。同校のエントランスにある「しばうら鉄道工学ギャラリー」には、寄贈された本物の鉄道の部品などが展示され、実際の電車の運転台を使って巨大ジオラマで鉄道模型を走らせることができる恒例イベントの「運転体験会」は、子供たちの心をわしづかみにするキラーコンテンツ。

しかし、新型コロナウイルスによってギャラリーは当面の間、休館となり、鉄道模型の運転会もオンラインではできない。そこで、鉄道研究部では当初、鉄道模型の先頭車両にカメラを取り付け、前面展望を楽しんでもらうことを企画。そこに「どうせなら360度カメラの方が面白いのではないか」と提案したのが中野教諭だ。

高校2年生で鉄道研究部部長の干場悠紀(はるき)さんは「鉄道模型にカメラを付けて運転士気分を楽しむことは、以前からいろいろな人がやっていたが、360度カメラを使ったアイデアは調べた限り誰もやっていなかった。ジオラマは普段、外から見ているが、今度は内側から360度眺められるので、見える景色が全然違う。ジオラマの作り込み具合も分かるので、トンネルの中など、普段は見えない部分も本物のようにしないと。いつも以上に手が抜けない」と気合が入る。

さらに今年は、鉄道模型ジオラマをもう一つ制作。それぞれの部員がA4サイズの空間に自分の好きな鉄道の風景を再現し、最終的にそれらを線路でつなげて、360度カメラを載せた車両を走らせようという企画だ。まるで本当の鉄道旅行をしているように、沿線の景色の変化を堪能することができる。

オンラインだからできる企画を仕掛ける

普段は裏方に徹している文化祭実行委員会も、今年は積極的に仕掛ける側だ。オンラインだからこそできる企画をと、つてをたどって都内の品川女子学院中等部・高等部と安田学園中学校・高等学校との生徒会対談を実現した。芝浦工業大学附属中高は豊洲への移転を機に女子クラスが設けられ、来年度には中学校から共学化されるものの、学校ではまだ女子は少数派だ。そんな同校の女子生徒と品川女子学院の生徒がどんなことを語り合うのか。逆に、共学の安田学園と女子が入って日が浅い同校の男子生徒ではどうだろうか。その企画の面白さに、両校とも二つ返事で快諾してくれたそうだ。

バーチャル文化祭の特設ウェブサイトも準備

さらに、どうしてもオンラインではリアルな文化祭と違ってポスターなどで告知をしても周知されにくいと考えた文化祭実行委員会は、10月から毎週土曜日にラジオでバーチャル文化祭の魅力を発信することも始めた。SNSとも連携させて、じわじわと盛り上げていきながら、全国各地からアクセスしてもらおうという広報戦略を描く。

大塚さんは「普段ならば文化祭実行委員は当日もバタバタしていて企画を楽しむ余裕もないが、オンラインなら自宅でゆっくり見ることができる。だから今年は準備に力を入れている」と説明する。取材した日も、文化祭実行委員会のメンバーが、今年のテーマである「彩」にちなんだ手作りのモザイクアートの制作に取り組んでいた。このモザイクアートは文化祭のメイン会場に飾られ、バーチャルな空間で実施した文化祭のリアルなモニュメントとしての役割を担うことになる。

もし来年、リアルな文化祭ができるようになったらどうするか。大塚さんは「やっぱり、学校でやる文化祭独特のドキドキ感をオンラインで味わうのは難しい。だけど、バーチャル文化祭で今までにない発想がたくさん出てきた。この経験を生かすことになる来年の文化祭は、リアルだとしてもオンラインだとしても、さらに面白くなるはずだ」と前向きだ。

同校の文化祭は11月1~8日にコンテンツが公開され、3日の文化の日にはライブ配信企画が行われる。プログラムの詳細は同校文化祭特設サイトで確認できる。

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