デジタル社会のベースラインとなる日本のデータ戦略を議論する、政府のデータ戦略タスクフォースの第2回会合が11月9日行われ、席上、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、データ戦略の第一次取まとめ案を提示した。社会基盤となるベース・レジストリなどのデータ整備と、データの流通を支えるデータプラットフォームの構築を喫緊に取り組むべき事項に挙げ、官民共同で新たな価値を創出する重点分野として、スマートシティ、健康・医療、教育、防災、農業などを明示。データ整備の目標年を2030年に設定し、そのための仕組み作りを5年以内に行うとしている。
取りまとめ案では、まず、データ戦略が必要な背景として、「今般のコロナ危機では、迅速で的確な対応ができず、データ活用の基盤(デジタルデータの整備、標準化、取扱いルール等)が官民ともに不十分であることが露呈した」と指摘。
総論として「社会のデジタル化に伴いデータは競争力・価値の源泉となり、データが決定的に重要となっている。これにより、社会経済に大きなパラダイムシフトが起こっている」と問題提起した上で、データ戦略の位置付けについて「デジタル社会における各プレイヤーの行動理念を示すものであり、このデータ戦略を通じた各種施策の実施により、デジタル社会のベースラインを構築し、データをつなげることで価値の増大を可能とするものである」と説明した。
続いて、喫緊に取り組むべき課題として、ベース・レジストリなどのデータ整備と、データプラットフォームの構築を挙げた。
ベース・レジストリなどデータ整備への取り組みについては、「多くの社会活動から参照される社会の基本情報について、最新性・正確性をもった高品質なデータおよびその利用環境を整備することが重要である。これらのデータは高い可用性や相互運用性を実現する必要があり、そのためのフレームワークの整備も進めていく」と説明。具体的な項目として▽ベース・レジストリの定義▽ベース・レジストリの優先順位をつけた段階的取り組み▽レジストリ・カタログ、評価サイトの整備▽メタデータの整備▽データのライフサイクルを通じたエコシステムの実現参加▽EBPM(Evidence-based Policy Making)の実現–を列記した
データプラットフォームの構築では、「データの流通を実現するためには、データのダウンロード、API取得などの技術的課題や契約、取引、売買にからむ制度的課題を解決することが不可欠」として、「広く多様なプレイヤーが共通に使うサービスを提供する基盤的な仕組み(プラットフォーム)が必要」と、その重要性を強調した。
その上で、「昨今のデータを取巻く社会的変化は激しく流動的であるため、プラットフォームの在り方を官のみで検討する方法では変化に対応できない可能性がある」と指摘。官民共同の検討の場を設け、「それぞれの分野の具体的課題を対象に、データ連携のユースケースを想定し、取扱うデータの棚卸、個別のデータガバナンスルールの具体化、および整備されるべき基盤の機能について検討することが必要である」と打ち出した。
さらに、こうした官民共同での検討について「スマートシティ、健康・医療、教育、防災、農業など公的関与の高い分野を重点分野として、官のコミットメントを求めつつ、検討を進めることが重要」として、教育を含む5分野を明記した。
GIGAスクール構想による1人1台端末の整備が進む中、学習履歴(スタディ・ログ)の設計と活用が注目されているが、そうした教育データの制度設計に当たり、共通ルール作りやデータ交換やコネクタ機能、検索などに必要なツールの整備について、官民共同の検討が必要という方向性を示したものと言えそうだ。
取りまとめ案では、ベース・レジストリのロードマップとして、「データ整備の目標年を2030年に設定し、そのための仕組み作りを5年以内に行うことを時間的スコープとする」と書き込んでいる。
IT総合戦略室によると、この日の議論では、「2030年にデジタルに対応した社会がどのような姿になっているか、データ戦略のコンセプトやビジョンをもっと高いレイヤーから示すべきではないか」「具体的な政策に落とし込んでいくために、スケジュールの明確化が必要」といった意見が出た。
データ戦略タスクフォースは、村井純慶大教授らデジタル社会に知見を持つ官民の専門家らで構成されている
IT総合戦略室によると、データ戦略についても、今回の取りまとめ案をたたき台として議論を進め、年内に大きな方向性をまとめる方針。基本的な考え方は、来年の通常国会に提出されるIT基本法の改正案に反映される見通し。菅義偉首相は9月23日のデジタル改革関係閣僚会議で、社会のデジタル化に向けた戦略とデジタル庁の創設について、「年末には基本方針を定め、(来年1月に召集する)次の通常国会に必要な法案を提出したい」と指示している。
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