ICT化と教員削減、「取りまとめから削除」指示 河野行革相

国の予算執行の無駄や事業の効果を外部有識者が点検する「秋の行政事業レビュー」は11月15日、教育現場のオンライン化を取り上げた。席上、有識者が取りまとめで「教育現場のICT化で教務・校務の効率化を進め、教職員数の合理化も進めるべきだ」と指摘したところ、河野太郎行政改革相は「(教育現場のICT化は)技術の導入によって、本当にサポートが必要な児童生徒に先生が寄り添える時間を作っていくところが狙い」と説明し、教職員数の合理化に関わる部分を取りまとめから削除するように指示した。終了後に記者会見した河野行革相は「財政の中で教員数をどうするかという議論と、デジタル化は一つ線を引いて考えるべきだ」と述べ、少人数学級の実現を含めた来年度予算の編成作業が進む中で、学校現場のデジタル化を教職員数の合理化や削減につなげるべきではないとの考えを示した。

学校現場のICT化と教員数の考え方を説明する河野太郎行政改革相

この日の行政事業レビューでは、これまで4610億円が投じられ、来年度予算の概算要求でも151億円が計上されているGIGAスクール構想について、外部有識者で構成される5人の評価者が問題点や疑問を指摘し、それに文科省の担当官が答える形で進められた。

まず、小中学生の1人1台端末や学校ネットワーク環境の整備が進む中、複数の評価員から「(予算投入による環境整備の)インプットがアウトカム(結果)につながるとき、うまくいかない原因は、明らかに教員にある」などとして、教員がICTに対応するために必要な研修が不十分で、しかも地方自治体によって研修の実施状況にばらつきがでている現状に懸念が示された。

次に、学習者用デジタル教科書の普及促進事業が来年度予算概算要求に52億円計上されている点について、評価員から「紙の教科書の無償提供に必要な予算が従来通り計上されているのに、デジタル教科書にも予算が追加されている。紙とデジタルの両方に予算をかけ続けることはできないので、どちらが教育効果があるのか、できるだけ短い期間で検討し、デジタルに移行すべきならば、期限を定めて移行してほしい」と、紙とデジタルの教科書で二重に予算が必要な状況を早急に解消するよう求める指摘が出た。

また、学校現場にICT技術を導入することにより、障害のある子供たちをサポートする技術の活用が可能になるとして、アクセシビリティ(利用しやすさ)の改善を、事業の効果を検証する項目として設定してほしい、との意見もあった。

教育現場のオンライン化を議題とした「秋の行政事業レビュー」の様子

こうした議論を受け、取りまとめ評価者を務めた土居丈朗・慶應義塾大教授は、▽GIGAスクール構想を踏まえた、新たな授業や教育の在り方を提示する必要がある▽紙とデジタルが併存することで、過渡期ではより多くの税金を投じなければならない。行政改革の視点からも改善が求められる▽デジタル社会にふさわしい授業や教育を可能にする、オンライン授業などに関する各種規制の見直しや教職員の能力向上▽教員に対するICT研修に都道府県ごとに大きな差が生じている▽学習者用デジタル教科書は、紙からデジタルへ切り替えを進めていく上で、より少ない予算でより教育効果が上がるように検討を進める▽障害や病気のある児童生徒の教育について、デジタル化によるアクセシビリティの改善について指標を設定する必要がある–などとする取りまとめを報告した。

この取りまとめの一部として、土居教授は当初、「教育現場の ICT 化による業務の効率化を進めるべきで、教務・校務の効率化を進めることによって教職員数の合理化も進めるべきである」と指摘した。

この部分について、浅野敦行・文科省初中局企画課長は「GIGAスクール構想を進めることが教職員数の合理化につながっていくようなまとめは、GIGA スクール構想を止めかねないと危惧している」と反発。教育のICT化は「合理化が目的ではない」とする全国市長会の意見にも言及して配慮を求めた。

河野行革相は「今の文科省の意見は、きちんと受け止めたい」と即座に議論を引き取り、GIGAスクール構想による教育のICT化について、その狙いを説明した。

まず、「何のために(社会の)デジタル化をやるか。一つには便利にするところがあるけれども、これから社会の中では、人に寄り添っていかなければいけなくなる。人口が減っていく中、人がやらなくていいものはAIやロボットに置き換えるが、きちんと人に寄り添うための人を確保できるかが、今回のデジタル化の非常に大きなところだと思う」と、菅義偉政権が目指す社会のデジタル化の意味を整理。

学校現場のデジタル化について「本当に特別なサポートが必要な児童生徒に先生がフォーカスできるようになるのが、今回のデジタル化の非常に大きい特徴だと思うし、それをやらなければいけない。技術を導入して、それによって本当にサポートが必要な生徒に先生が寄り添える時間を作っていくところが狙い」と述べた上で、「今の取りまとめの、その部分は削除していただきたい」と指示した。

終了後の記者会見で、河野行革相は「今まではクラス全体を相手に、クラスの真ん中あたりを狙った授業をやっていて、落ちこぼれてしまった子供は分からない、進んでいる子供はぼーっとしている、ということが多かった。それに比べると、個々に的を絞り、それぞれの進み方に応じた教育ができるようになるのが、オンライン教育であり、教育のデジタル化なのだと思う。例えば、進んでいる子供たちはオンラインの授業を受ける。担任の先生は、寄り添わなければいけない子供たちに、もっと集中して寄り添うことができるようになっていく、ということが可能になる」と、ICT環境を生かした個別最適な学びのイメージを説明。

さらに「今回のオンライン化は、今まで全体を相手に平均を狙ってやってきた行政や教育を、個々を相手にやっていく行政、教育に変えるというのが、第一の視点だと思っている」と、学校現場をデジタル化する意義を解説した。

その上で、評価者が取りまとめで指摘した教育現場のICT化と教職員数の合理化について、「これからの財政の中で教師の数をどうするか。いまは教員採用も厳しくなっているという現実もある。文科省と財政当局で議論いただくことになると思うが、それと(教育現場の)デジタル化は一つ線を引いて考えるべきだと思っている」と述べ、GIGAスクール構想による学校現場のICT環境整備と、教職員数の合理化や削減は切り離して議論するべきだという考え方を示した。

進行中の来年度予算編成では、文科省が学校現場での感染症対策とICT活用を理由に、児童生徒に対する教員数を相対的に増やす少人数学級の実現を要求。教員増に伴う財政負担増を懸念する財務当局との折衝が続いている。財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)は「平成以降、児童生徒数ほど教職員定数は減少していない」と少人数学級と教員増に否定的な見解を公表したが、この日の行政事業レビューで取りまとめ評価者を務めた土居・慶大教授は、この見解をまとめた財政制度分科会歳出改革部会の会長代理も務めている。

行政事業レビューの成果は、来年度予算編成が大詰めを迎える12月上旬に開催予定の、行政改革推進会議(議長・菅義偉首相)に反映される見通し。歳出の無駄に切り込む役割を持つ河野行革相が、学校現場のICT化による教員数の合理化や削減に否定的な立場を鮮明にしたことは、少人数学級の実現を巡る文科省と財務省の折衝に微妙な影響を与えそうだ。

次のニュースを読む >

関連
関連記事