【実践】漁船の上からライブ授業 新渡戸文化高

オンラインを活用して、全国を旅しながら、教室と社会を横断しよう――。新渡戸文化高校(東京都中野区)がコロナ禍の制限を逆手に取った、新たな授業デザインに挑戦している。「旅する学校」をテーマに、教職員が全国各地に飛び、そこで出会った人や自然、出来事を、Zoomを経由してリアルタイムで生徒に届け学びを深める。コロナ禍で移動が制限される中、生徒は東京にいながら日本全国の旅を疑似体験できる。

初回は、同校の山藤旅聞教諭らが三重県に足を運んだ。11月12日に開催された授業では、地元の漁船に乗り込み生中継で漁の様子を紹介したり、地域の医療を守る医師や地元の高校生らとオンライン上で交流を深めたりなど、充実した内容が1年生に届けられた。

漁船からライブ授業

漁船からライブ授業する新渡戸文化高の教員ら

漁業のライブ授業では、SDGsの14番目の目標である「海の豊かさを守る」や過疎化、少子化、さらにはジェンダーについて触れ、生徒らが思考を深めるきっかけをつくった。

ゲストとして登場したのは地元で活躍する、女性漁師の田中りみさん。男性が中心の漁業界を変えるべく、あえて女性だけの漁師チームを結成し活動している。

教員らも田中さんとともに漁船に搭乗。東京の教室から漁を見守る生徒に向けて、船の上から山藤教諭がライブ感満載に現地の様子をリポートした。

田中さんたちは、この地域では主流の「定置網漁」という漁法で漁をする。沿岸に網を仕掛け、その網に入ってきた魚をとる手法で、他の漁法と比べて魚を傷つけにくいなど、海に与える影響が少ないと言われている。実際に仕掛けた網や海の様子をカメラにうつしながら、女性の力でも上げやすいように網の大きさを小さめにしていることや、網の結び目を工夫していることなど、女性だけのチームだからこその工夫を次々に披露した。

そして仕掛けてあった網を引き上げると、カワハギやキビナゴなどが次々に登場。生徒らを魅了した。ただ素人には立派でおいしそうな魚に見えるものの、プロの目で見ると大きさが足りず市場では売り物にならず捨てられるという。「これが売り物にならないなんて」と、漁の過酷さを知る生徒たち。一方で田中さんらのチームはこういった規格外で売り物にならない魚を加工し、提携する居酒屋に卸す消費手段をとっていると明かした。

さらに、この地域で育った田中さんは少子化の影響で自身の母校が廃校になったことや、漁師の高齢化の問題について説明。「女性でも漁師ができるように仕事を増やせば、街に人が戻ってきて、学校を復活させることができるかもしれない。漁業の伝統は守りつつも、工夫して変えていかなければならない」と、地元や漁にかける熱い思いを生徒に語り掛けた。

地方医療に触れる

とれた魚について説明する田中さん(左)と山藤教諭

後半は、三重県の高校生も参加して、同県で地方医療に携わる志摩市民病院の江角悠太院長らとオンラインで交流。江角院長は、全国の中高生や大学生を研修生として病院に迎え入れている。

冒頭で江角院長は「健康って何だと思う?」と生徒に問い掛けた。

そして、いわゆる独居老人の男性患者を治療したところ、「なんで死なせてくれなかった」と激怒されたエピソードを紹介。話をよく聞いてみたところ、その男性は誰にも必要とされず、生きがいもなく、ただ繰り返される日々に絶望していたという。そこで江角院長は研修生の学生とともに、退院後の男性の自宅に出向いた。一緒に料理をしたり、話し相手になったり、ときには男性宅で寝泊まりすることもあったという。すると男性の様子は、日に日に変化。新しいことにチャレンジしたり、疎遠だった家族と連絡をとったりと、意欲的になり、表情が生き生きと輝きだした。

それを踏まえ江角院長は「健康とは生きている実感を持って、最期(さいご)まで暮らせる能力」と説明。「寿命だけ伸ばしても、その中身が伴ってなければ無意味。患者の健康は医療だけでは支えられない、全ての業種の人が力を合わせなければならない。一人一人が住みたい町をつくることが、根本的な治療になる」と強調した。

そして高校生に向けて、「君たちでも『助けたい』という思いさえあれば、こういった患者さんの力になれる。自分だけのためではなく、周りの人間のために生きてみてほしい」とメッセージを送った。

その後、生徒はZoom上のブレイクアウトルームで、グループに分かれて交流。東京都と三重県の環境の違いや、授業を受けての感想を語り合った。特に江角院長の言葉は生徒らの心に響いたようで、「自分のために生きるのではなく、他の人のために生きるという言葉が、グサッときた」「自分の行動で救える人がいるんだと感じた」「自分も他人も救えるような仕事に就きたい」といった声が上がった。

オンライン上であっても活発に意見を交わし、交流を深めた生徒たち。「いつか実際に三重県に会いに行って、一緒に学ぼうね」と約束を交わし、授業を終えた。

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