若者の政治参加に関する政策提言を行ってきた日本若者協議会(室橋祐貴代表理事)は今年8月、高校生や大学生の生徒会経験者による「学校内民主主義を考える検討会議」を立ち上げた。学校の民主主義とは何か。検討会議座長を務める東京大学教育学部附属中等教育学校5年生の藤田星流(せいる)さんに聞いた。
高校生や大学生による問題提起
――検討会議では、どのようなことを議論しているのですか。

各地の生徒会活動で、校則を変えていこうとしてもなかなか実現しないなど、学校が生徒の意見を尊重する民主主義の実践の場になっておらず、社会参画に対する感覚が身に付いていないとの問題意識から、協議会の中で「学校内民主主義」をテーマにした議論が持ち上がりました。
検討会議は生徒会活動を経験した大学生や、今まさに生徒会活動をしている全国の高校生がメンバーになって、有識者からヒアリングをしたり、アンケート調査を実施したりしています。
これらを基に、年明けには学校で民主主義を実践していくための運営の在り方をガイドラインにまとめ、政府や自治体、各学校に提言していく予定です。
――藤田さんは学校で、これまでどんな活動をしてきたのですか。
私が検討会議の座長に就くことになった理由でもあるのですが、1年生のころから生徒会活動に関わる中で、どうしたら生徒会活動が活性化するのかに関心を抱くようになり、自ら有識者に話を聞くなどの研究を行っていました。
私の学校は、約20年前に教員と生徒、保護者、地域住民が一堂に集まって、学校運営について話し合う「三者協議会」を設置していました。ところが、この三者協議会が次第に形骸化し、存在意義がよく分からなくなってしまっていました。そこで、生徒側がイニシアチブを取りながら、時代に合った形に変えていくことにしました。
その中で、4年生以上ではすでに自由化されていた服装について、今年度から1年生以上についても制服を廃止し、自由化することが決まりました。
それまで三者協議会には教員も生徒も保護者も、あまり積極的に参加する雰囲気ではなかったのですが、意識を変えるきっかけになったのです。
形骸化する生徒会活動への危機感
――学校の中での民主主義の仕組みといえば、やはり生徒会活動が真っ先に思いつきます。
検討会議でさまざまな学校の生徒会の様子を聞いていると、かなり厳しい現状が浮かび上がってきます。生徒の意思決定の場である生徒総会がない学校もあれば、生徒会があっても、生徒会費による予算の内訳を決めているのは教員で、生徒に決定権がないということも珍しくありません。
そもそも、今の高校生は忙しすぎて、いくら大学の推薦入試で評価されるからといっても、割に合わないので手を挙げる人はほとんどいません。やりがいを見いだせないボランティア活動みたいなもので、生徒会役員になっても「学校をこうしたい」という明確な思いがなく、「なんとなく」やっている状況です。
生徒の権利を学校側が阻んでいるのも問題ですが、それ以上に生徒自身が生徒会活動に価値を感じていないのであれば、形骸化は一層進むばかりです。生徒会選挙すらもできないのに、主権者教育なんてできるのでしょうか。そして、こうした環境で過ごした人が、将来の有権者になっていくのです。日本の社会にとっても、深刻な課題だと思います。
――ガイドラインを基に、具体的にはどんなアクションにつなげますか。
ガイドラインは学校や教育委員会、そして国を動かしていくための武器なので、出して終わりにしないためにも、理論的な部分をしっかりとさせる必要があると考えています。
ただ、それだけでは実際に生徒会活動などを変えていくには、まだ何かが足りないと思っています。先ほども触れたように、生徒の権限をいくら増やしても、それで生徒が動くかどうかは別問題なのです。そのためのアクションについては、残念ながら今の段階では具体的なアイデアは出てきていません。
特に高校は、国公立の学校か私立学校かでかなり文化が違いますし、地域性も大きいので、学校を変えるためのやり方は個々で違ってくるでしょう。
教師も本音で対話を
――18歳選挙権が実現したものの、若者の投票率は依然として低いままです。
これまで、日本の学校では教師や生徒が政治的な発言をすることをタブー視してきました。18歳選挙権が導入されて、学校現場では探り探り慎重に進めている感じがしますが、もっとリアルで直接的な政治教育が必要だと感じています。
例えば「政治・経済」などの授業で、今まさに国や地方で議論されている問題を積極的に取り上げて、教師も生徒も自分の意見を表明して話し合うとか、授業が終わっても生徒同士で世間話のように選挙のことが話題になるのが当たり前になるような、そんな空気感を作るくらいのことがないといけないと思います。
――学校内民主主義の主体とは、誰なのでしょうか。
校則改正の議論でよく見られるように、私たちはついこの問題を「生徒対教師」というイメージで捉えがちですが、私はこの構図は違う捉え方をしています。学校内民主主義の主役が生徒であることはもちろんですが、そこに教師や保護者、地域も参画して、みんなでより良い学校にしていくために合意形成を図っていくことが、本来の民主主義の姿なのではないでしょうか。
そのために、教師には生徒側の話をまずは聞いて、対話のテーブルについてほしいと思います。その上で、生徒の思いや人権、社会問題の視点にも目を向けた上で、生徒の要望について全てを受け入れなくてもいいので、受け止めてもらいたいのです。
そして生徒に対して「学校として決まったことだから」と一方的に結論を伝えるのではなく、教師の本音を教えてほしいです。生徒も教師も、思っていることを率直に言い合えるバランス関係こそが、良い学校をつくること、さらには、より良い社会をつくることの素地になると考えます。
【プロフィール】
藤田星流(ふじた・せいる) 東京大学教育学部附属中等教育学校5年生。現同校生徒会長。8月から日本若者協議会「学校内民主主義を考える検討会議」の座長を務める。
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