【工藤勇一氏×出口治明氏】 教育の議論にエビデンスを

横浜創英中学校・高校の工藤勇一校長と立命館アジア太平洋大学の出口治明学長が11月22日、オンラインで開催された「未来の先生フォーラム2020」の記念対談に登壇した。「before・with・afterコロナの学校教育」をテーマに、学校教育にとどまらず子供たちを取り巻く社会全体の課題や問題点について語り合った。出口学長は教育を議論する上で、「精神論ではなく、エビデンスをもとに検証していくことが大切」と指摘。工藤校長もそれに同意し、「現場は目の前のトラブル解決に追われ、『学校は社会の準備期間』という本来の目的を忘れてしまっている」と述べた。

オンライン開催された工藤勇一校長(左)と出口治明学長の対談

対談の冒頭では、子供だけでなく大人を含めた社会全体が当事者意識を失いつつある現状について、議論を展開した。

工藤校長はコロナ禍で表面化した社会的混乱を振り返り、「リーダーが決まらない、国民一人一人が当事者意識を持っていないなどの問題が浮き彫りになった。学校に関しても、保護者は学校に、学校は教委に、教委は文科省に何とかしてほしいと考えていると強く感じた」と、当事者不在の社会に危機感を募らせた。

これについて出口学長も「アフターコロナの社会がどうなるかとよく聞かれるが、『分からない』と答えている。未来は私たちがつくるもので、昨日と同じ仕事や勉強をしているだけでは、その延長線上にしかないだろう。未来は予想するものではないという当たり前のことを、大人は共有できていない」と指摘した。

さらに社会がこうなった原因について、出口学長はGDP(国内総生産)などのデータを示し説明。日本が他国と比べ労働時間が長いにも関わらず、成長率が上がっていない状況などに触れ、「社会の仕組みや構造が人間の意識をつくる。働いても、働いても社会が成長していかなければ、意識が歪んで閉塞感が生まれるのは当然だ」と述べた。

工藤校長は学校教育の観点から、「教師が『学校は社会の準備期間』という本質の目的を見失っている」と指摘。「子供だけでなく、大人ですらも当事者意識を持たず、社会の一員である意識が育っていない。私たちは与えてもらうことに慣れ、もっといいサービスを求め、さらにはサービスの質に対して文句まで言うようになってしまった。教育にも同じことが言え、子供の頃から自己決定する機会がなく、子供も大人も『先生が悪い』『学校が悪い』と責任転換するようになっている。日本全体で教育の在り方について対話するべきだ」と強調した。

また両者ともに、教育について「心の教育」や「精神論」ベースで議論されることの落とし穴について警鐘を鳴らした。

出口学長は「教育はみんなが受けているもので、誰でも語ることができる」とした上で、「ただそれはエピソードにしか過ぎない。エピソードで議論はできないし、日本では教育を語るとき根拠なき精神論が目立つ」と指摘。その上で「エビデンス、サイエンス、専門家の知見」が必要とし、論理的に議論や検証を進めるよう言及した。

工藤校長も「心の教育」や「団結」という言葉は一見良さそうに見えるとしながら、「教育の本来の目的を失ってはいけない」と再び強調。「一人一人の違いがあるとしつつ、団結しようというのが、日本の教育の矛盾点。本来私たちが社会の一員として生きていくためには、対話や尊重、ぶつかり合いを重ねながら合意する力が必要だ。自分の感情をコントロールし、理性を保ちながら、上位の目標に向けて主張できる力をつけるのが学校だ」と呼び掛けた。

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