VR空間での授業で学びが進化 N高が仕掛ける次の一手

教育への活用が急速に進むVR(仮想空間)。広域通信制高校のN高校を運営する角川ドワンゴ学園は来年度から、最先端のVRデバイスを貸与してVR空間で授業を受けられる「普通科プレミアム」を開設する。VRによって学びはどこまで進化するのか。現在開発が進む普通科プレミアムのVR授業コンテンツの可能性を取材した。

生徒ファーストのVRコンテンツ

普通科プレミアムで提供されるVR空間での授業(角川ドワンゴ学園提供)

普通科プレミアムは、同校で行われている動画による教科の授業や課外授業を、VRコンテンツとしても提供できるようにするサービスで、スタート時点では約6600本ある授業動画のうち、2400講座でVRコンテンツが用意され、来年度中には半数以上の講座が対応する予定。普通科プレミアムを受講する生徒は、履修単位数にもよるが、動画視聴のみの普通科スタンダードよりも年間で12万円ほど学費が高くなる代わりに、最先端のVRデバイス「Oculus Quest(オキュラスクエスト)2」が貸与され、授業以外の用途でも利用できる。

生徒はデバイスを装着することで、視覚と聴覚がVR空間に切り替わり、アバターとなってVR空間に没入する。VRならではの、立体的な教材やアイテムを操作しながら観察や思考をしたり、世界中の名所を360度見回したりすることができる。

また、基本的には生徒が自宅などからそれぞれの好きな時間帯に授業を受けることになるが、他の生徒がその授業を受けた際のモーションのログが残るため、周囲に目を向けると、友達と一緒に教室で学んでいるかのような感覚が得られる。授業ではVRと動画を切り替えることもできるので、自分に合った方法を好きなタイミングで選択できるなど、「生徒ファースト」を重視している点も大きなポイントだ。

VRだから実現できる学び

こうした特徴を持つ普通科プレミアムのVRコンテンツとは、一体どのようなものなのか。角川ドワンゴ学園に取材を申し込んだところ、N高校の教員の体験会に参加させてもらえることになった。

同校ネットコース東京拠点がある東京都江東区のビルの一室に案内されると、VRデバイスを装着して設定を調整しているドワンゴ教育事業本部コンテンツ開発部教科学習セクションマネージャーの國井理恵子さんと、その様子を興味津々で見つめる3人の教員の姿があった。

教員らも記者もVRコンテンツは初めての体験。

まずは理科の「生物」で、古代の生物を学ぶ授業。恐る恐るVRデバイスをかぶると、瞬く間に目の前に仮想空間が広がり、マンモスや三葉虫が宙に浮いている。手をそれらに近づけ、コントローラーのボタンを操作するとつかむことができ、手を左右に広げると拡大したり、前後左右の動きで向きを変えたりできる。周りを見回すと授業を行う教師以外に3人の生徒アバターがいて、椅子に座れば教室で授業を受けているような感覚になる。

VRデバイスを装着して授業を体験する川瀨教諭

「目の前で立体的に再現された生物の大きさが変わり、いろいろな向きで観察できる。授業内容ともマッチしていて、VRを活用すればレポートや話し合いの学びも活発になりそうだ」と、理科を担当する川瀨美咲教諭は感想を話す。

同じく理科の「化学」で金属の炎色反応を実験する授業では、バーナーの火に金属を近づけると炎の色が実際に変化する様子を再現。理科を担当する佐野莉奈教諭は「通信制高校では、実際に実験ができる環境がないので、こういう教材はとてもいい。生徒の興味関心が引き出せる」と、VRだからこそ可能になった疑似体験の価値を強調した。

また、数学の立体を扱った授業では、直線や立方体などのパーツを取り出し、組み合わせることができ、平行や直角になるとマークで分かるようになっている。情報と数学を担当する尾崎雄一朗教諭は「図形の空間認識が苦手な生徒もいるが、実際に立体の図形を出せるとなれば、アプローチがかなり変わる。教師も教材を準備する時間がなくなるし、生徒は自分にとって一番分かりやすい視点から立体を捉えることができる」とメリットを感じていた。

いずれの授業も5~10分程度のコンパクトな内容であるため、使い方さえ慣れてしまえば体の負担も小さい。同じ授業を何度も体験しながら、最初は教材を操作しながら、次は講義内容を集中的に聞くという使い方もできそうだ。

VRコンテンツでは、この他にも、世界遺産や東京証券取引所などの建物を360度、内外から歩き回ることができたり、解説を表示したりするものもあり、全国各地で暮らす生徒が、気軽にバーチャルな社会科見学を体験できる。

これらのコンテンツ開発に携わる國井さんは「没入感を味わえるVRにすることで、体験とセットで学ぶことができ、学習そのものが変わる。今後、どんな形で生徒たちが実際に活用するか分析してみたい」と期待を寄せる。

VRコンテンツは教科の授業だけでなく、就職や推薦入試などを想定した面接の練習や、同校の特徴でもある21世紀型スキルを身に付けるワークショップ型の学習での活用なども、計画されているという。

誰でも使えて、作り替えも自由にできる

10月に普通科プレミアムを発表してから、同校にはすでに多くの入学希望があり、興味を持つ在校生も少なくないという。だが、これだけのコンテンツをあと半年で2400講座も用意できるのだろうか。

実は、このVRコンテンツは、ドワンゴのグループ企業である「バーチャルキャスト」が開発したVCI(バーチャルキャストインタラクティブ)技術をベースにしており、地球儀や物差しなど、どの授業でも汎用(はんよう)的に使えるアイテムを制作する行程と、教員による授業の撮影工程は分離されている。こうすることで制作時間やコストを削減でき、学習指導要領の改訂など、コンテンツの変更にも対応しやすくしているという。

ドワンゴ教育事業本部コンテンツ開発部部長の甲野純正(よしまさ)さんは「仕様が固まった1年ほど前から、誰でも使えて、作り替えも自由にできることがコンセプトだった。教育用に新たに開発したものはあまりなく、バージョンアップも簡単にできる」と利点を説明する。

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