【実践】国語で「種苗法」を議論 授業テーマは生徒提案

東京都東久留米市にある自由学園男子部(更科幸一部長、生徒214人)で、「種苗法」をテーマに生徒が議論を重ねた国語の授業がこのほど行われた。一見すると「国語らしからぬ」授業は、2学期の初めの授業での生徒の提案から始まったという。


2学期の国語のテーマは種苗法?

中等科3年生と高等科で国語を受け持つ高野慎太郎教諭は、毎学期のはじめに、その学期での授業テーマを生徒たちとの話し合いで決めている。同校では、農園で育てた野菜を食材として利用していることもあり、食への問題に関心を寄せる生徒も少なからずいる。そんな生徒の一人から、2学期の最初の授業で「種苗法について考えたい」と提案があり、中等科3年生から高等科3年生にまでまたがった、種苗法を通じて日本の食の問題を考える異色の授業が始まった。

この日行われた中学3年生の授業では、「種苗法」をテーマにした学びのまとめとして、これまでに自分で調べてきたことや考えたことをまとめたワークシートを踏まえた振り返りが行われた。

食の問題について考えることを呼び掛ける生徒のつくったポスター

最初に「ここ1週間の出来事」として高野教諭がプロジェクターに映し出したのは、高等部2年生の生徒が作成した大盛りラーメンの写真をコラージュしたポスター。よく見ると、どんぶりにあふれんばかりに載せられた野菜や麺に吹き出しが付いている。ニンニクが20円から50円に、小麦が250円から2038円に原価が高騰するなどし、500円で食べられたラーメンが2400円に値上がりすると警鐘を鳴らしている。

この生徒は、食料自給率が低い日本では、海外からの輸出制限が行われると、野菜などの値段が上がる可能性があると考えた。その問題に気付いてもらおうと、このポスターを作成し、関連する新聞記事の切り抜きと共に、生徒が利用するトイレに設置した。授業では、ポスターが伝えようとしていることを考え、グラフなどから日本の食料自給率の課題を確認したり、各学年で行ったアンケートを基に、種苗法に対する問題点を再確認したりした。

社会をモニタリングする力を身に付ける

国内で開発された種や苗木の権利を保護し、海外流出を防ぐために、12月の国会で改正された種苗法。農家による自家増殖の制限などが盛り込まれたことで、農業への影響を懸念する声が一部で上がったものの、メディアで取り上げられる機会は少なかった。一連の学習を踏まえて、高野教諭が生徒に行ったアンケートでも「国民の議論がないままに改正されたこと」が最大の問題点だという意見も多かったという。

これまでの授業では、農業雑誌の記事や国が公表した農業政策に関する報告書などを教材に、種苗法が改正されることで、農家や自分たちの食生活にどんな影響が考えられるのか、なぜ種苗法が改正されることになったのかを探った。報告書を読み込む際は、国の立場から解釈することで、政策の背景にある意図にまで思考を巡らせた。

次第に生徒の関心は種苗法から「食の自治」へと発展していき、元農水相の山田正彦衆院議員や、スローフードを日本に広めた島村菜津さんを招いた講演会も行われた。さらに、高野教諭が主宰する自主ゼミでも、この問題が取り上げられ、もっと学びたいと自主的に参加した生徒が、オンライン上で保護者や大学生も交えて議論を続けた。

また、同校の寮では、共同生活を送る他学年の生徒とこの問題について雑談する光景も見られたという。

生徒から意見を引き出す高野教諭

この日の授業が終わった後も、生徒は教室の至るところで、次の授業の準備をしながら食の問題について議論したり、高野教諭に質問したりしていた。ある生徒は「人の幸せを考えるのが政治の役割だと思うけれど、種苗法の改正は誰も幸せにならないのではないか。日本の食の政策を学ぶうちに、米国の影響を受けていることに初めて気付かされた。ぼんやりと見えていたものの姿が、霧が晴れたようにはっきりした」と、自分の意見を堂々と教えてくれた。

この授業の狙いについて高野教諭は「種苗法をテーマに各自で調べてディベートを行うだけでは、誤った情報や根拠のあいまいな主張などをインターネットから拾ってしまったり、この種苗法のある一部の問題だけを切り取って賛否を論じてしまったりして、思考が深まらないばかりか、極端な結論に至ってしまう恐れがある」と指摘。

「そうならないためには、なるべく多様な資料や関係者に当たり、さまざまな視点から他者とじっくり議論し、考えを深めていく必要がある。その力は本来、民主主義社会で意思決定を行う有権者にも求められる。そうした社会をモニタリングする力を身に付けるために、国語における言語活動が果たす役割は大きい」と話す。

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