少人数学級へ一歩 文科相「財務省の壁は高かった」

「率直に申し上げて、隣の建物(財務省)の壁は高かったなというのが、正直な感想。しかし、全国から大きな声をいただいて、小さな一歩かもしれないが、小学校全学年で、35人という新たなスタイルを作ることができた」――。萩生田光一文科相は12月17日、麻生太郎財務相との来年度予算案の事前閣僚折衝を終えた記者会見で、小中学校の「30人学級」実現を目指した3カ月間に及ぶ予算攻防をこう振り返った。2021年度から5カ年計画で、小学校全学年で「35人学級」を実現する今回の合意は、多くの学校現場が期待した、児童生徒に対する教員の実質増には、おそらく直結しない。だが、40年ぶりに学級編制が引き下げられる意義は、やはり大きい。教職員定数改善計画も16年ぶりに策定されることになり、公立小学校の設置者である自治体は計画的な教員採用がやりやすくなる。教員の非正規雇用が改善される可能性もあり、確かに一歩踏み込んだ結果になったと言えそうだ。萩生田文科相の記者会見から、合意内容を読み解いてみる。

教員数は増えるのか
事前閣僚折衝のため、財務省の財務大臣室に入る萩生田光一文科相

教職員の定数は、義務標準法の規定で学級数などに応じて機械的に算出され、児童生徒の人数が減れば、それに合わせて教職員の定数も削減される仕組みになっている。教員定数を増やそうと思えば、現行の義務標準法の枠組みでは、学級編制を引き下げるしかない。逆に、児童生徒の自然減によって生じる定数を機械的に減らさず、現在の水準を維持すれば、教員定数は実質的に増える。これによって、10年後には新たな財政負担がなくても小中学校全てで「30人学級」が可能となるというのが、文科省の主張だった。

今回の合意をみると、こうした文科省の主張ははっきり退けられたと言っていい。今年度の公立小中学校などの教職員定数は68万7000人。この内訳は、義務標準法の規定で学級数などに応じて機械的に計算する基礎定数が63万3000人、政策目的に応じて毎年の予算措置で配分する加配定数が5万4000人となっている。この加配定数の一部を義務標準法の学級編制を引き下げることで基礎定数に切り替え、同時に児童数の自然減による教員の定数減を組み合わせ、小学校全学年の「35人学級」を5年間で実現するのが合意の中核だ。基礎定数は5年間かけて1万3574人改善される。

この合意に基づき、来年度予算案における教職員定数の改善内容をみると、小学2年生の「35人学級」を実現するために、以前から予算化されていた加配定数の一部を義務標準法の改正によって基礎定数に切り替えることなどで、744人の定数改善を確保。これに、小学校高学年の教科担任制を見込んだ専科指導への支援として2000人の加配定数と、10年計画で実施している通級指導の充実などで397人の基礎定数を合わせ、来年度予算では全体で3141人の定数改善が予算化される。

一方で、児童生徒の自然減を反映した教職員定数の合理化減や教職員配置の見直しで合計3615人の定数減が行われる。差し引きすると、来年度予算案の教職員定数は今年度よりも474人の定数減になる計算だ。つまり、「児童生徒の自然減に伴う教職員の定数減は、財務省にとって当然の前提。これは揺るがなかった」(文科省初中局)という結果になった。2021年度から5年間をかけて小学校全学年で「35人学級」を実現していく過程でも、児童生徒の自然減に伴う教職員の定数減は引き続き適用されていくことになる。

萩生田文科相は、児童生徒の自然減に伴う教職員の定数減に歯止めを掛けられなかったことについて、「10年前は特別支援にこれだけの人が必要とは想定できなかった。5年間という一定の計画の中で、必要な人材についてしっかり確保していくことは、怠りなくやっていきたい。あらかじめ全く教員を増やさないんだ、と決め打ちをするのではなくて、必要なところには必要な人を当てていきたいと思っている」と説明した。

さらに「働き方改革で、例えば、スクールサポーターとか、ICT支援員などのように、教員以外の人材で学校現場のいろいろな隙間を埋める人材を配置してきた。来年度予算でも、これは倍増していこうと思っている。そうやって教員が子供たちと向き合う時間をしっかり作っていく。計画的な人事配置で、私は成果を出すことができると思っているし、その努力を地方自治体と一緒にやらなければならないと思っている」と、35人学級の実現に向けて国と地方の連携を強化する考えを表明。

教員が減り続けるのではないかという学校現場の懸念については「最初からそんな悲観的な話はしないで、ぜひ見守っていただきたい」と理解を求めた。

計画的な教員採用を後押し

今回の合意内容で、学校現場の期待に添っていると思われるのは、小中学校の設置者である自治体にとって、公立学校の教職員の計画的な採用を後押しする仕組みが盛り込まれていることだろう。ひとつは、これまで加配定数として配置されていた教員の一部が、基礎定数に切り替えられること。もうひとつは、16年ぶりに教職員定数改善計画の策定が決まったことが挙げられる。

いずれも国が自治体に交付する義務教育費国庫負担金が毎年の予算折衝で増減するリスクが緩和され、自治体としては財源の裏付けが確保できることで、正規の教職員を計画的に採用しやすくなる。自治体によっては、20代30代の若手教員を中心に非正規採用の割合が高くなっており、教員志望者の減少への対応や教員の質確保に向けた課題とされるが、自治体の判断によっては、こうした事態の改善につながるかもしれない。

まず、加配定数の一部を基礎定数に振り替える仕組みを見てみる。文科省によれば、加配定数5万4000人のうち、少人数学級のために7500人程度が活用されている。小学校全学年の「35人学級」を5年間で実現する過程では、必要な教員数を確保するために、この7500人のうち、中学校や小学校で34人以下の学級で活用している定数を除いて、3000人を順次、基礎定数に振り替えていく考えだ。

加配定数は政策目的に応じて毎年の予算措置で配分するので、翌年も同じ定数が義務教育費国庫負担金として国から自治体に交付されるのか、確約がない。このため、自治体の財務部局が正規の教職員採用に慎重になり、結果として非正規の教員が増える一因ともみられている。今回の合意では、こうした加配定数の一部が基礎定数に振り替えられるため、自治体が計画的な教職員の採用をしやすくなるのではないかと、文科省ではみている。

もう一つ、教職員定数改善計画が16年ぶりに策定されることになった意義も見逃せない。教職員定数改善計画は、公立学校の教職員を複数年次にわたって計画的に配置する目的で策定される政府の計画。例えば、学級編制を45人学級から現在の40人学級に移行したときには、1980年から1991年まで足かけ12年間にわたる第5次教職員定数改善計画を策定し、教職員定数は自然増減分5万7932人と純増分2万1448人を合わせて、7万9380人が改善された。

しかしながら、小泉純一郎政権(2001~06年)が行財政改革として取り組んだ、公務員の総人件費改革の一環で、文科省が06年度予算の概算要求に盛り込んだ第8次教職員定数改善計画が、05年12月の事前大臣折衝で策定見送りとなった。それ以来、数度にわたって文科省は教職員定数改善計画の策定を試みてきたが、いずれも財務省の同意を得ることができず、見送られてきた。

この教職員定数改善計画が財務省の同意を得て16年ぶりに策定されることは、文科省にとっては、悲願のひとつが実現したと言える。自治体にとっては、計画期間中は国が交付する義務教育費国庫負担金を見込んだ上で、将来の財政負担を見通した教職員の採用が可能となる。

萩生田文科相は「35人(の学級編制が)が明確になり、しかも5年間、計画的に(整備する)ということなので、国と地方の協議の場をきちんと作りながら、各都道府県には計画的な新規採用をしていただきたい」と説明。

非正規の教員が増えている現状を踏まえ、「今回の改革はもちろん、第一には子供たちの教育環境を整えたいということだが、教員志願者が非常に減っている現状を考えると、さまざまな取り組みのトータルを見ていただき、改めて魅力ある教育現場を、教職を目指す人たちにアピールしていくことも極めて効果的、有効であると思っている。ぜひ非正規でとどめるのではなく、正規の教職員をきちんと配置をしていくことを心掛けていきたい」と、教員志望者を確保する上でも、正規の教員を計画的に採用する必要があるとの見方を示した。

さらに「都道府県市町村によって、いろいろ事情は違う。やむを得ず非正規で、1人分の人件費で2人を配置したいという学校があることは否定しないが、基本的には腰を据えて、しっかり子供たちと向き合える先生方を1人でも増やしていくことを、きちんとやっていきたいと思っている」と言葉を加えた。

「小さな一歩かもしれないが、新たなスタイルを作ることができた」

少人数学級を求める動きは、コロナ禍による感染症対策の意味合いもあって、6月末、公明党幹部が安倍晋三首相(当時)に「30人学級」の導入を提案。7月3日には全国知事会、全国市長会、全国町村会の代表者が萩生田光一文科相と面会して少人数学級の必要性を訴えた。続いて、政府が7月17日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針)に「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」が盛り込まれた。

このころから萩生田文科相は、少人数学級の実現を目指す動きをリードし、11月中旬には小中学校の「30人学級」を目指すと記者会見で明言。財務省との厳しい折衝の末、結果として、小学校に限定して「35人学級」を5年間で実現し、16年ぶりに教職員定数改善計画を策定するという合意にたどりついた。

こうした予算攻防について、萩生田文科相は「30人学級は、数字を言うのはどうしようかな、とずっと悩んでいた。自分を奮い立たせる意味もあって途中から、小中学校で30人という大きな目標を掲げた」と振り返り、その結果について「率直に申し上げて隣(財務省)の建物の壁は高かったな、というのが正直な感想。しかし、この間、(少人数学級の)必要性に対して、全国からさまざまな大きな声をいただき、小さな一歩かもしれないが、小学校全学年で35人という新たなスタイルを作ることができた」と意義を説明。

続けて「この『35人学級』を充実したものにして、教員の皆さんの働き方も変えながら、『なるほど、これは良かった』ということを5年間でしっかり検証した上で、必要に応じたさらなる改善、改革を進めていきたい」と総括した。

さらに、小学校全学年の「35人学級」の実現に伴い、質の高い教員の確保が今後一段と問題になるとの見方を示し、「教師は子供たちの人生を変えるぐらい大切な価値のある職業。学校教育の成否は教師の資質能力にかかっている。定数改善計画を進める中でも、同時に教師の質を確保できるように、現職の教員にはICTを活用し、『令和の日本型学校教育』に対応した研修を徹底していきたい。教員の養成段階ではICTに特化した科目新設などの教職課程の見直しを進めていきたい。採用段階では、特別免許状の活用などによる、社会人などの多様な人材の活用の促進も合わせて考えていきたい」と説明。

一連の施策を踏まえ、「学校における働き方改革や教育環境の改善を通じて、教職の魅力の向上を図ることによって、現職教師の離職率の低下に何とか歯止めをかけたい。教職志願者数の増加にもつなげていければと思っている。パッケージで日本の学校現場が変わりますよ、と世の中に発信して、教職を目指す人たちを増やしていきたい」と力を込めた。

関連