ポストコロナ時代の教育 有識者・読者に聞く展望と課題

教育新聞は昨年12月上旬に行った読者アンケート(詳細は「新時代の授業や行事を望む声、コロナ契機に 教育新聞読者調査」)に寄せられた声を基に、教育界のキーパーソン3人にインタビュー。GIGAスクール構想の展開や次世代の学校行事の在り方など、「ポストコロナ時代の教育」に関する見解を聞いた。あわせて、コロナ禍をきっかけに新たな学びへと一歩を踏み出した、教育新聞の読者である教員・管理職にも話を聞いた。


「コロナ禍を建前に、安易な道を選んでいないか」 全国連合小学校協会(全連小) 喜名朝博会長(東京都江東区立明治小学校長)
コロナ禍の今こそ「児童生徒のためにできることを問い直すべき」と訴える喜名朝博全連小会長(昨年3月撮影)

昨年1年間をこのようなデータで振り返ると、全国の学校現場の教員の頑張りを改めて実感する。ただ、このアンケート結果に限らず言えることだが、コロナ禍において教員一人一人が独善的な思考に陥っていないかが気がかりだ。校長会でも近頃、そうした指摘や反省の声がある。

アンケート結果でも「今こそ変えるべきだと思う前例や慣習」への回答を見ると、そのことを強く感じる。もちろんコロナ禍は学校の当たり前を見直す絶好のチャンスだが、その判断は本当に児童生徒の安全や健康を守るためのものなのだろうか。

危機的状況にあると、人はどうしても自分視点で物事を考えるようになってしまう。コロナ禍を建前にして、安易な道を選択していないか、今一度自問自答してほしい。そしてこんなときだからこそ、教員一人一人がなぜ教師になったのか、児童生徒のために学校組織は何ができるのかを問い直すことが必要だろう。

今年度は新しい学校を作っていくスタートの年だ。昨年10月に取りまとめられた中教審の中間まとめにあるように、これからの日本の教育は多くのことが変わり、教員一人一人の発想の転換が必要不可欠になる。

児童生徒にとって本当に大切なことは何か、そのために学校は何をすべきか。立ち止まり、振り返るべきだろう。「令和の日本型教育」の構築は、私たち自身の教育観や学校観の問い直しから始まると強く感じる。

「インフラ整備はスタート地点」 さいたま市教育委員会 細田眞由美教育長
「大切なのは端末をどう使い、授業をどう変えるかだ」と話すさいたま市教委の細田眞由美教育長(Zoomで取材)

さいたま市では休校中「子供たちの学びをとにかく止めない」という一心で、市内の約6000人の教員の力を結集し、800を超える独自の授業動画を作った。当時は必死だったが、振り返れば改善すべき点も多い。教員はデジタルコンテンツのプロではないからだ。

そこで今年9月から、民間から募った教育DX人材と、デジタルインフラやセキュリティー、コンテンツ、カリキュラムマネジメントで協働している。超一流のIT企業人材が、「日本の教育の大改革の時に立ち会いたい」と集まってくれた。彼らとの協働は、まさに目からうろこ。「映像は最初の6秒が勝負」など、思いもよらないアプローチを目の当たりにした。教育はもっともっと、社会に開かれていくべきだと実感した。

アンケート結果によると現在は、授業動画などを活用する割合が減っているようだが、本市では休校中に作成した動画を予習や復習に活用し、GIGAスクール構想に向けた助走をしている。GIGAスクール構想はインフラを整えて終わりではない。そこでやっとスタートラインに立つ。どの教員、科目であっても、ICTをフルに活用して授業改善できるよう、教委が支援していくことが重要だ。

またコロナ禍での行事では「心がこもっていれば、短くても立派な式ができる」と実感した。ただ、子供が学校行事で育つ場面も非常に多い。制限のある中で開いた運動会で、子供たちが一気にいきいきとしてきた、という話もある。今後は感染防止の工夫を凝らしながら、子供たちが自ら考え、主導する形で学校行事を作り上げていくスタイルが望まれる。

「子供にも教員にも“ケア”が必要」 千葉大学教育学部 藤川大祐教授
児童生徒のみならず、教員へのケアの必要性を指摘する千葉大学教育学部の藤川大祐教授(Zoomで取材)

コロナ禍は、学校行事の合理化のきっかけになったのではないか。中でもPTA行事はかなり縮小されている。コロナ禍が落ち着いても、この勢いは止めないでほしい。学校は前例主義で、変わりにくい組織と言われてきたが、コロナ禍で否応なく見直しを迫られた結果、今なら変化を受け入れる雰囲気ができている。ここでスリム化の実績を作ってしまえば、学校の前例主義を逆手に取って、議論が進めやすくなるだろう。

他方、学校のデジタル化については慎重に見ている。世間の期待は高いが、学校内では「それどころではない」というのが本音ではないか。そもそも1人1台環境で行うべき授業内容が定められておらず、活用が学校現場に任されていることが問題だ。やらなければならないことが多々ある中で、1人1台端末の活用が自動的に進むはずがない。

ICT支援員をしっかり配置する、学習指導要領で1人1台端末を活用する内容を明示するなどの対応がなければ、学校現場は変わらないのではないか。このコロナ禍で、学校現場は疲弊している。業務をスリム化し、新しいことに取り組む余地を作るしかない。

これからのキーワードは「ケア」だと考える。コロナ禍での虐待の増加が指摘されるなど子供たちにも影響が出ており、カウンセリングや教育相談が重要になる。ただ、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの専門職の参画がまだまだ足りていない。

あわせて教員へのケアも欠かせない。教職員間で、異質なものを排除するハラスメントも起こっている。重要な人材をつぶさないよう、日頃から管理職が「心配していますよ」とメッセージを発し、「ケアする空気」を自ら作っていくことが必要だ。

ポストコロナ時代の教育」を実践する教育新聞読者の声
「進みながら問題を解決」 学法石川・石川義塾中学校 岩瀬俊介教諭

コロナ禍ではっきりしたのは、時代の変化が速くなっているということだ。学校はこれまで社会の動きにあまり目を向けてこなかったが、もはや否応なく、そうした流れに対応することが求められている。学校はともすればブレーキを踏みがちだが、今こそ変わらなければいけない。大事なことは、捨てる勇気を持つこと。新しいものに取り組むなら、今までのモノをなくす必要がある。そうでなければ、業務が増え続けるからだ。

「率先垂範(すいはん)」という言葉があるが、まずは先生が変わらなければいけない。昨年1月、自らYouTubeチャンネルを開設し、授業動画の配信をスタートした。学校の先生はリスクを怖がり、環境が整備されてからでないと動かない傾向があるが、それではいつまでたっても変わらない。進みながら問題をそのつど解決していく、そうすることで初めて前進できる。

「使い方を強要しないことが大事」 大阪府立芦間高校 武井謙治教諭

今や生徒はスマホやPCを使いこなしている。一方、教員にはそもそもICTを使いこなす発想がない。生徒の立場からすれば、教員から20年後、30年後の自分の姿をイメージできない。これは由々しき状況だ。

私自身は7年ほど前からICTを学びに活用してきた。コロナ禍の一斉休校を受け、学校全体でも教育用SNSやオンライン授業の導入が決まるなど、ようやく大きな一歩を踏み出すことができた。まず教員、次に生徒に対しICTツールの活用を進め、今では授業、クラス運営、行事運営など、ほとんど全ての学校教育活動の中で日常的に活用している。

一つだけ心に決めているのは「強要しない」こと。どのように使うかは、あくまで各教員の判断に任せている。私も授業では、黒板に書くこともあれば、生徒の端末にデジタル教材を配信することもあり、適材適所で使い分けている。また同時双方向型のオンライン授業より授業動画の方が、いつでも繰り返し見られて有効だと感じている。

「現場の可能性を信じ、任せて」 兵庫県丹波市立黒井小学校 細見隆昭教諭

休校中、オンラインで行った算数の授業では、ICT端末を最大限に活用することを意識。家にある九九や三角形を探し、それを撮影してSNS上で共有するという課題を出した。

台所や応接間、トイレなど、児童は各自それぞれの発想で、課題に応える画像を撮影してきた。教室にいるだけでは見えてこない、それぞれの児童の個性が透けてみえ、また課題に主体的に取り組んでくれて、授業がとても活性化した。

日本の学校は横並びでなかなか変わらない印象があるが、今年度は学校行事をオンラインで開催するなど、着実に変わりつつあると感じる。ただ、もっと現場の可能性を信じて任せてほしい。禁止ばかりでは何も生まれない。

コロナ禍では行事の削減もあった。ただ、例えば家庭訪問では全員の家を回る必要があるなどと思っていたが、それができなくても大きな問題はなかった。不自由なことも確かにあったが、同時に本来は必要ないものも浮き彫りになった。学校現場を変革していく上で、貴重な契機になったと思う。

「オンライン体制を再強化」 明蓬館高校 日野公三校長

当校は通信制の高校。コロナ以前は対面の機会を補うべく、リアル拠点の拡充に注力してきた。ところがコロナで一転、そうした施設の使用に制限がかかり、オンライン授業を再強化することになった。双方向のオンラインでホームルームを行ったり、保護者とLINEで24時間、連絡を取れる体制にしたりと、オンラインの体制をアップグレードした。

当校はコロナ禍でも休みなく授業を続けた。とはいえ教員にも当然、不安はある。「人命が最優先であり、戦う相手はウイルスである」など指針を明示し、現場が混乱しないよう統制を取った。

とはいえ非常時に指示を待っているだけでは、状況は打開できない。教員の主体的な行動を進めた結果、学校のオンライン化は一気に進み、来年には授業や教員研修、保護者とのやり取りなど、ほとんどをオンラインでできる体制が整う。

当校には発達障害のある生徒も多く在籍する。オンラインも活用しながら、生徒ができることをスモールステップで増やしていけるよう、支援と伴走を繰り返すことで、能動的・主体的に問題解決できるよう導いていくことが大切だと考えている。

アンケート概要

本アンケートは20年12月2日(水)~10日(木)、教育新聞の定期購読者のうち登録時の属性が教諭・学校管理職・教育行政職である人を対象に、ウェブ上の質問紙(Googleフォーム)のURLを配信する形で実施した。有効回答数は157。回答者の基本属性は次の通り。

  • 【学校種】小学校43.3%、中学校17.8%、高校26.8%、特別支援学校3.8%、行政(教育委員会など)6.4%、その他1.9%
  • 【職位】教諭66.9%、学校管理職24.2%、教育行政職6.4%、その他2.4%
  • 【勤務先所在地】北海道3.8%、東北13.4%、北関東3.2%、東京都内18.5%、南関東14.6%、甲信越2.5%、北陸2.5%、東海15.3%、近畿12.1%、中国3.8%、四国1.3%、九州・沖縄8.3%、その他0.6%
  • 【性別】男性54.1%、女性43.9%、その他・答えたくない1.9%
  • 【年代】20代3.8%、30代21.7%、40代38.2%、50代31.8%、60歳以上4.5%

(秦さわみ、油浅健一)

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