室伏スポーツ庁長官に聞く 乗り越えたところに必ず学びが

昨年10月に2代目スポーツ庁長官に就任した、室伏広治氏へのインタビュー。後編は、指導法や部活動改革などについて聞いた。(聞き手・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


身体感覚を鍛え、原理を理解させられる運動を
――指導していて、例えばすぐできる子とできない子では、何が違うのでしょうか。

実演しつつ、身体感覚を鍛える重要性を説明する室伏長官(右)

飲み込みが遅いと感じるのは、幅広い運動を体験してきていない子です。

例えば、全くの素人に陸上の円盤投の投法を指導するとします。その人が川辺に向かって石を投げる「水切り」を、子供のころに遊んで知っていたならば、指導も楽で、飲み込みが早く上達するでしょう。原理は同じなのです。外遊びにはさまざまな原理が隠れていて、その原理を知っていれば応用が効くものです。逆に、体験したことのない人にその原理を説明するのは、頭での理解はさせられても、実際の動きに結びつけることはできないでしょう。

また、誰かに足の指を触ってもらうとします。自分は足元を見ずに、触られているのはどの指か、はっきりと分かるでしょうか。

もしくは「両手を床と平行に上げて」と言っても、おそらくクラス全員はできないでしょう。平行より少し下がっていたり、もしくは片手だけ上がっていたりする。こういう感覚が、曖昧な人が多いんです。

身体のコントロール上達は、体性感覚や神経系に対して、どのように刺激を与えてゆくかが重要です。動きに対して、筋肉は後から発達してきます。それよりも早いうちから身体の感覚を鍛えるような運動をやったほうが良いのです。

――それはどう教えればいいのでしょう。

この感覚は体験から学ぶものです。例えば、小さいころ、家の近くの川を飛び越えるなどした経験があるでしょう。その川を飛び越えるには、どのくらいの力が必要なのか。自分の足幅やジャンプ力などから予測してやってみるわけです。

つまり、スポーツとは予測することです。真似をして動いているだけではダメで、自分の身体の感覚を使って体験することが大切なのです。それができるようになると、運動やスポーツも面白くなりますよ。

いかにしてあらゆる感覚を使って運動をするか。こうした体験は、幼児教育からたくさんやった方が良いと私は考えています。

頑張ってきた成果が出せる機会を
――部活動改革に関してですが、外部人材の活用などについては、どう進めますか。

部活動が教員の長時間勤務の要因の一つになっています。文科省は昨年9月に、休日の部活動を地域人材に任せ、指導を希望しない教員が関わらなくてもよい環境を整備していくこととしました。具体的には、2023年度から休日の部活動の段階的な地域移行を進めていくことになります。

また、来年度からは全国で実践研究を実施する予定で、子供たちがより専門性の高い指導が受けられるようになる取り組みが始まります。私も先日、横浜市の中学校を視察しましたが、OBの方が指導されていました。地域の人材が生かされることは、とても有意義なことだと思います。

現状では、部活動の顧問となって初めてその競技をやる教員もいます。スポーツ庁としては、競技ごとの運動部活動指導手引きの普及や、外部人材の活用で、「教わる質」を担保していく必要があると考えています。

地域移行を進めていく上で、例えば学校や教員とのコミュニケーションの問題など、課題も出てくるでしょう。その都度、修正しながら進めていきたいと思っています。

――コロナ禍で、部活動の大会が縮小されたり、中止されたりするなどのケースがありました。

大変な状況ではありますが、できることをやることが大切だと思います。規模が小さくなってもできる範囲で大会を開くなど、公認か非公認かは別として、評価する場は必要です。子供たちが頑張ってきた成果が出せるような機会を、ぜひつくってほしい。

最初に教わる人は大切な存在
――子供のころで、室伏さんの印象に残っているのは、どんな先生ですか。

「小学校時代の先生とは、いまだに年賀状のやり取りをしている」と室伏長官

小学校時代の先生とは、いまだに年賀状のやり取りをしていて、当時のこともとてもよく覚えています。子供にとって、最初に教わる人というのは、後々においても大切な存在なんだと思います。

その先生は、たとえ間違っていても「自分の意見を言えること」が大事だという教育スタイルでした。クラスのみんなが手を挙げて、みんなが自分の思っていることを発言できるような環境づくりをしてくれていましたね。

その教えは、国際的な舞台でも生かされましたし、社会に出てからも非常に大事なことでした。

また、高校時代は厳しくも優しい監督の下で、下宿生活を送っていました。例えば皿洗いを毎日するなど、学校に部活にと忙しい日々の中、下宿生活で覚えたこともたくさんあり、そうした厳しい環境で過ごしたことが社会人になっても、さまざまなシーンで生かされていると感じています。

――最後に、読者に伝えたいことは。

長官就任後、中学校などを視察させてもらいましたが、コロナ禍にこれまでと同様の教育の質を担保するのは本当に大変だと感じました。授業以外にも気を使うことが多く、ご苦労も絶えないかと思います。

しかし、これを乗り越えたところに、必ず学びもあると信じています。私もまだ長官としてスタートしたばかりですが、共に頑張っていきましょう。

(構成 松井聡美)

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