【Edubate LIVE!】 学習履歴とマイナンバー

教育新聞電子版「Edubate」のライブ番組「Edubate LIVE!」が昨年11月、国際カンファレンス「Edvation × Summit 2020」のフィナーレとして配信された。ゲストに柴山昌彦前文科相、ウスビ・サコ京都精華大学学長、佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授を迎え、司会は教育新聞編集部長の小木曽浩介が務めた。第1部では、学習履歴や学校健診でのマイナンバーカードの利活用をテーマに議論した。(全3回の第1回)

テーマ:あなたは、学習履歴や学校健診でのマイナンバーカード活用に賛成ですか?(昨年9月28日掲載)
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パーソナルデータの利活用はマスト
――まず、学習履歴や学校健診のデータ利活用について、現状と課題など解説を佐藤さんからお願いします。
昨年11月に配信された教育新聞のライブ番組「Edubate LIVE!」

佐藤 私は経産省の「未来の教室とEdTech研究会」の座長代理を務めていますが、そこでは3つの柱として、「学びのSTEAM化」「学びの自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」を掲げています。

学習者の特性や個性、学習進度は、一人一人違います。それなのに一律に教えるのは無理があるのではないか。最新のテクノロジーを使って、医療で言うとカルテのような一人一人の「学習ログ」を蓄えれば、個別学習計画をつくれるのではないかと提言させていただきました。

現在、文科省にも教育データの利活用に関する有識者会議が立ち上がり、一人一人の学習履歴をどのように蓄え、標準化するのかということを話し合っています。

ただ、課題もあります。まず、セキュリティー面での課題は大きく、それを回避するためにマイナンバーが適切なのか、はたまたブロックチェーンがいいのかなどについても検討されています。さらに「そのデータは一体、誰のものなのか?」という問題もあります。学校のものなのか、学習者のものなのか、はたまた保護者のものなのか――。

何より、私が一番のハードルだと感じているのは、教育データの利活用に関して国民的な理解が得られるかどうかです。多くの保護者は、自分の子供の学習データを蓄積すること自体に、不安を感じているのです。

「パーソナルデータを活用していくことはマスト」と柴山前文科相

柴山 健康データに関しては、2021年に必要な法制上の対応を行い、22年をめどにマイナンバーカードを活用して、乳幼児健診から学校健診、社会人の職場健診に至るまで、生涯にわたる健康データを、一覧性をもって提供できるように取り組む方針が打ち出されています。

合わせて各種免許、国家資格、教育などにおけるマイナンバー制度の利活用についても検討することになっています。必要に応じて共通機能をクラウド上に構築し、マイナポータルの利便性の向上を図る方針です。

私は、今後、学びのテーラーメイドの構築や児童生徒の健康管理を考えると、パーソナルデータやビッグデータを活用していくことはマストだと考えています。

どのようにセキュリティー面、プライバシー面の確保を、法制上または技術上図っていくのかを検討した上で、こうした先端的な取り組みをしっかりと推進していきたいと思っています。

ただ、現在のマイナンバーカードの普及状況は、たった2割程度です。まず、これをなんとか100%に近づけていく取り組みが必要ですし、同時に普及後を見据えた実証事業も進めているところです。

データの利活用に警戒心が強い日本人
――他国と比較した上で、サコさんはこのテーマについて、どのようなことをお考えですか。
「データを一元化することは、便利で安全な社会をつくることにつながる」とサコ氏

サコ まず、最初に言いたいのは、日本はICT活用が非常に遅れているということです。先進国でありながら、他のOECD加盟国と比較してもかなり遅れをとっています。

私自身がこれまで教育を受けてきたマリ共和国や中国にしても、さまざまなところでIDカードが義務化されているので、その普及率も高くなっています。

多くのOECD加盟国では、小学校からデジタル化していて、保護者と学校が子供の学習を管理していくことが制度化されています。私は、日本でもそうなるべきだと思います。

また、日本のデータ管理は一元化されていません。例えば、マイナンバーカードに全てのデータを一元化していくことは、「便利な社会をつくる」だけではなく、実は「安全な社会をつくる」ための一つのルートでもあるのです。

日本のそうしたことに対する抵抗感はどこからきているのだろうと、私は不思議に思っています。

柴山 おっしゃるとおり、日本は諸外国と比べて、データの利活用に対する警戒心が非常に強い。それを解くためには、もっと皆さんに安全性や利便性の良さを知っていただかないといけない。

例えば、オンラインショッピングをする時、自分の購入履歴などがビッグデータとして蓄積され、広告などが表示されます。その際には、当然、個人のプライバシーについては保護される形で利活用されています。

私たちは、無意識のうちにこうしたことを便利だと感じています。つまり、データのプライバシーやセキュリティーを確保するという法律上・技術上の担保を前提とすれば、データの利活用は非常に大きな効果を生むわけです。

スタディログが活用できるようになれば、まず児童生徒は、自分の不得意分野をきちんと理解し、復習に役立てることができます。担任が変わっても、教員側はその児童生徒にとっての最適な学びを提供するサポートがしやすくなります。あるいは、保護者が家庭でサポートする際にも助けとなるのです。

さらには、個人情報などについては保護した上で、教育政策におけるEBPM(証拠に基づく政策立案)の強化につなげていくことも可能です。

こうしたさまざまな利点をきちんと評価し、伝えていくことが、警戒心を解いていくためにも必要なのではないかと考えています。

大人がICTリテラシーを学ぶべき
「日本ではテクノロジーに対する不安感が根強くある」と佐藤氏

佐藤 他国には、コンピューターサイエンスやコンピューティングなど、情報活用能力の教育の歴史がそれなりにあります。日本はその点においては、まだ始まったばかりです。

そうした背景もあり、技術やインターネットを含めたテクノロジーに対して、なぜか「恐いもの」だという不安感が根強くあるのでしょう。

しかし、技術の仕組みをきちんと学べば、「ここは危ない」「ここは危なくない」というのがよく分かり、恐怖心も取り除けると思うのです。

子供たちは、これからGIGAスクール構想という1人1台のパソコンとクラウドと高速インターネットのある環境の中で育つわけです。我々大人も、子供たちと一緒にリテラシーを学ぶ必要があると思います。

例えば、インターネットを使った時はIPアドレスという足跡がしっかりつきます。「匿名で何かをしても追いかけられるんだよ」という仕組みさえ子供たちが知っていれば、匿名で誰かを誹謗(ひぼう)中傷するようなこともなくなるでしょう。これまでの教育では、そうした具体的なことを教えてこなかったのだと思います。

技術には白も黒も、善も悪もありません。白か黒かを決めるのは、人間です。私は、その試行錯誤を繰り返すことが人類の進化だと考えます。恐いからといって、むげに「使わない」という判断をするのは、人類の進化を止めることにつながりかねません。

――大人が情報やデータに関するリテラシーを高める必要性について、柴山さんはどうお考えですか。

柴山 非常に大切だと思います。例えば、「マイナンバーカードの中にいろんな情報が全部ぎっしり詰まっている。だから危険だ」と、誤解されている方はまだまだ多くいらっしゃいます。

確かにマイナンバーカードには、ICチップが入っています。しかし、このICチップは何かを作動させるときの本人認証の鍵でしかなく、それにいろんな情報がぎっしり詰まっているわけではありません。個人データは別のところにあり、そのデータのセキュリティーはきちんと保護されています。

マイナンバーカードの意義や、データがどのように使われているのかといったことについて、政府が国民の皆様に分かりやすく伝えていく、あるいは国会審議の中で明らかにしていく。そうした取り組みがもっと必要だと思っています。

サコ 例えば、本学でも4年生になって保護者から「うちの子、卒業できるんでしょうか?」と連絡が来ます。「いや、今年はちょっと厳しいですね」というケースもあるのですが、これも保護者が子供の学習履歴を追いかけることができていれば、途中で声を掛けてサポートすることも可能です。つまり、子供の学習を支援する一つの手段が、データなのです。

同じように、社会の中で人をサポートするためには、データがないと十分なサポートはできません。コロナ禍でも明らかになりましたが、日本では圧倒的に個人データが不足しています。日本人は真面目だから、濃厚接触者についても報告するけれども、データでは取れていない。アプリが出ても、それに登録することはしないのです。

日本人のデータに対する恐怖心をどうやって無くしていくのか、日本社会が何におびえているのか。この正体を探ることのほうが、データの利活用、ICTの利活用を高めていくためには必要なのかもしれません。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

柴山昌彦(しばやま・まさひこ) 東大卒。弁護士。2004年から衆院議員(自民)。総務副大臣、内閣総理大臣補佐官、文部科学大臣などを歴任。「柴山・学びの革新プラン」を発表するなど、Society5.0に伴う先端技術の利活用について推進してきた。現在、自民党内の教育再生調査会の会長を務める。

ウスビ・サコ 京都精華大学学長。1966年、マリ共和国生まれ。高校卒業と同時に国の奨学金を得て中国に留学後、91年から京都大学大学院で建築計画を学ぶ。01年に京都精華大学人文学部教員に着任し、13年に人文学部学部長、18年4月に同学学長に就任。日本初のアフリカ系大学長として、国内外のメディアから大きな注目を浴びている。著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)。

佐藤昌宏(さとう・まさひろ) デジタルハリウッド大学大学院教授。教育イノベーション協議会代表理事。本紙「オピニオン」執筆者。内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員や経産省「未来の教室とEdTech研究会」座長代理などを務め、EdTechによる教育改革に取り組む。著書に『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。


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