【山藤氏×庄子氏×前田氏】 子供から学ぶ思いで授業を

オンライン授業、少人数学級、共通テスト、GIGAスクール構想――。日本の学校教育の変革期に差し掛かっている今、これから教師を目指す学生たちは何に希望を抱き、何を不安に感じているのだろうか。

教育新聞では昨年11月、「それでも先生は面白い!」をテーマに掲げ、教員志望者向けのオンライン鼎談(ていだん)を開催した。ゲストは新渡戸文化中学・高校の山藤旅聞教諭、東京都調布市立多摩川小学校の庄子寛之指導教諭、元高校教師で合同会社楽しい学校コンサルタントSecondの前田健志氏。司会は記者の板井海奈が務めた。理想の教育の実現に向けて積極的にアプローチを続ける3人の話をもとに、初任の教師が学校生活を楽しむヒントを読み解く。(全3回の第1回)


学校と社会がにじむ「縁側」
――まずは自己紹介をお願いします。

山藤旅聞教諭

山藤 私は大学院を出て、教員になりました。都立高校で15年、そこから私立の新渡戸文化学園に移籍して2年、教員生活は17年間を迎えます。5年ほど前からは教員として働きつつ、一般社団法人に所属し2枚目の名刺を持つ働き方をしています。

教育で最も心掛けているのは、「学ぶって楽しいな」と子供たちに感じてもらうことです。教室の中でも外でも、学んでいる生徒の笑顔がどんどん増えていく姿が理想です。学ぶことは、本当は楽しくて、未来をつくっていける魅力あるものではないでしょうか。それに気付ける授業や学校をつくっていきたいと思い、日々、微力ながら尽力しています。

具体的には学校の外にある地域や企業、NPOなどとつながって、社会や世界に貢献できる取り組みをしています。答えのない活動です。今では70を超えるプロジェクトがあります。学校という場所を通じて、子供たちを社会と接続していきたいと考えています。

私が描く理想の学校は「縁側」です。縁側は家の中のような、外のような、はっきりとした境目がない場所だと思いませんか。そんなふうに学校と社会がにじむような場所をつくっていきたいと思います。

庄子 私は、普通の東京都の小学校教員です。よく講演などで地方に行かせていただくことが多く、「担任もっているんですか?」と聞かれるのですが、担任ももっています。指導教諭という東京都にしかない役職で、専門は道徳です。教員をしつつ、ラクロスの日本代表のヘッドコーチをしたり、去年までは学校心理士の資格をとるために大学院に通ったりしていました。

教師は面白い職業です。ただ今回のテーマに「それでも」と付いてしまうぐらいですから、皆さんのところにはマイナスな情報がたくさん届いているのではないかなと思います。そこで一緒に考えていきたいのですが、皆さんにとって何が仕事で、何が仕事ではないのでしょうか。

私は公的に言えば仕事でも、個人的に楽しくて、仕事ではないと思うことがあります。例えば給食を食べているときは、仕事です。授業も、もちろん仕事です。ですが教室にいても、教師が自由にできる時間はあります。教室の壁に自由に掲示物を貼れますし、児童の席の位置も自由に決められます。学習指導要領の範疇であれば自由に授業もでき、児童や保護者から感謝されることもあります。こんなに自由にできるなんて、なんていい仕事なんだろうと思います。

皆さんにとってなにが仕事で、なにが仕事じゃないのか。そんなことを考えながら一緒に考えを深めていければと思います。

先生の定義を広げる

前田 私は13年間、私立高校や金沢大学附属高校で教員をした後、2019年に起業し「合同会社楽しい学校コンサルタントsecond」として、先生たちのいろいろな「やりたい」を引き出して実現したり、楽しく実践的な学びのつくり方についてアドバイスや研修・講演を全国の学校や教育関係者にしたりしています。

今は一つの学校には所属していませんが、教師を辞めるつもりで起業したわけではありません。教師や学校をサポートする専門職としての役割が社会的に必要だろう、教師の定義を広げたいと思い起業したのです。ノルウェーには先生をサポートする先生という職業があります。日本でも、教師をサポートする役割も含めて先生と呼べれば、学校はもっと変われるはずです。

私は中高時代、学校が大嫌いで、先生なんてとても信用できませんでした。もちろん大人も大嫌いで、日々「なぜこんなに面白くないんだ」とやきもきした学生時代を過ごしました。20歳のときにふとしたきっかけで、「じゃあ、俺が面白い学校にしよう」と思い上がり、教員免許をとりました。

私には中1と5歳の子供がいるのですが、上の子が小学生時代に「学校が楽しくない」と言っていた時期があります。親としてどうすればいいのか考えました。私の周りを含め、大半の先生は子供たちのことを第一に考え、日々頑張っています。では、どうしてこんなことになったのかと考えたときに、先生自身が楽しんで仕事をできない環境があるせいなのかなと思いました。

もっと自由にやっていいはずなのに、そのきっかけがなかったり、リミッターがかかっていたりするのではないでしょうか。先生がもっと楽しく学校で働けるようになると、もっと多くの子供たちが楽しく学校に通えるように思います。

私が今の立場で取り組みたいのは、教師の力を最大限引き出し、その力が有機的に結び付きあい、学校が誰もが楽しく学べる場になるのをサポートすることです。そして、そのサポートする役割も「先生」だと社会的に認知され、教師の定義を広げることを目指しています。

児童生徒のピュアな感情に触れる
――ありがとうございます。今回のテーマにもあるように、「先生って面白い」と感じる瞬間について教えてください。

山藤 生徒がどんどん変容していく姿を見ているときですね。毎日ちょっとずつ変わっていっているのが分かるときが、何よりわくわくします。

あとは、学校は感情がとてもピュアに出る場所だと思うんです。だから子供たちと一緒にいると教わることが多いし、忘れていたことを子供たちから常に教えてもらえるところが、私はとても好きですね。例えば文化祭や体育祭に燃えちゃうような、ああいう熱い感じとか、子供たちから出てくる感情は本当にピュアです。

毎年4月に新しい生徒に出会えてその感覚が更新されていくとともに、卒業した後も顔を見せてくれる。そうやってピュアな変化や刺激をずっともらえるところに、私はやりがいを感じています。

庄子寛之指導教諭

庄子 そうですよね。私は専門が道徳なのですが、児童と対話していると道徳的な価値観について心が洗われるように感じます。例えば、私のクラスでは子供たちが自分の考えを記入して、それに対し保護者がコメントを記す「道徳ノート」というものをしています。週明けになると、児童や保護者のコメントをまとめて学級通信に掲載します。そのコメントを一つ一つ辿っていると、お金を頂いているのに、私が学ばせていただいてありがたいなと日々噛みしめています。

私はどちらかと言えば児童の変容にはあまりこだわっておらず、「今のままでいいよ」という状態をつくっておき、どの授業でも子供から学ぶというスタンスでいます。私にとってはそれが、教師の一番面白いなと感じるところです。

前田 お二人の意見に、全面的に共感します。唯一加えるとしたら、「想定外」を感じられるのが教師という職業の醍醐味(だいごみ)かなと思います。大人の予想をはるかに越えてくる、範疇に収まらない、子供たちのエネルギーに触れられるのが何より楽しいです。私自身もその瞬間を誰よりも、生徒よりも楽しんでやろうという心意気で向き合っています。

自分が学びたいから授業をする
――先ほど庄子さんより「どこまでが仕事か」といったような問題提起がありました。皆さんはどう思われますか。

前田健志氏

前田 私も庄子先生と同じで、どこまでが仕事かは、考えよう次第だなと感じます。子供のことを一番に考えるプロとしての矜持は、絶対に外してはいけないと思います。ただそれ以外の部分で、教師としての仕事を思う存分に楽しんで、あまりプライベートと分けていないような気もします。そこらへん、お二人の意見も聞いてみたいです。

山藤 私は、学校外と生徒をつなげる活動に注力しています。例えば先日は地方の漁船から、漁師さんと一緒にオンライン授業を配信しました。実はそこには私の家族も連れて行きました。働き方に関しても先ほど言った縁側のイメージで、ここまでが仕事、ここからがプライベートと敢えて分けて考えていません。生徒に届けたい教育は、自分の子供にも届けたいですし。

ただ責任を伴う部分に関しては、しっかり仕事だと意識する必要があります。私は中高の教員なので、義務教育過程の中学生や、成人していない高校生を預かることについては、責任は全部自分たちにあると思って意識しています。庄子先生はいかがですか。

庄子 ここまでの話を聞いていると、私たちがすごくいい先生みたいに聞こえるかもしれません。ただ実は私の場合、自分が子供たちから学びたいという思いで授業をするという意識があります。子供たちに教えてあげるという観点はなくて、「こんな問いをしたら1年生の段階だと、どうなるだろう?」「この問い掛けを国語と算数で尋ねたら、回答にどんな違いがあるだろう?」といったようなことを常に考えて、それを子供たちから学ぶために授業をしているような感じです。

だからこそ仕事なんだけど、仕事だと思っていない部分もあるという意識なのかなと思います。

――参加者の方から「休日の趣味が仕事で生かされることが多くある。仕事と趣味の境目は曖昧。だから今の子供たちには楽しんでいる大人の背中を見せたいです」と、コメントを頂きました。

前田 これは本当にすばらしいですね。私たち大人の唯一の責任は「大人っておもしろいな、大人になりたいな」と子供たちに思わせることだと思います。完璧な姿を見せるとか、実はどうでもいい。一緒に楽しんで学ぶ姿を見せることが子供たちにとっても、教師にとってもいいことなんじゃないでしょうか。

【プロフィール】

山藤旅聞(さんとう・りょぶん) 新渡戸文化中学・高等学校教諭・統括校長補佐・高校教育デザイナー、都立高校講師、一般社団法人Think the Earth SDGs for Schoolアドバイザー。2004年より都立高校で生物の教員となり、オール実験の授業や生徒の「問い」だけで進める授業、生徒が主体的・自立的に学びを進める「対話式・双方向性授業」などを実践。現在は、教科と社会課題をつなげて、生徒自らが解決に向けて「行動する」ことを目指す授業スタイルを確立する。具体的には、企業やNPO/NGOとパートナーシップを組んだPBL(project based Learning)を実施し、現在は60を超えるプロジェクトを生み出している。17年に「未来教育デザインConfeito」を立ち上げ、一般社団法人Think the Earthと協働しながらSDGsを取り入れた教育デザインの実践紹介やプロジェクト作り方について、全国規模で出前授業や講演を展開。教科書の執筆やNHK高校講座の講師など、多領域での教育活動も展開中。19年より現職。共著に『気候変動の時代を生きる』(山川出版・2019年)、『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(Think the Earth・2018年)がある。19年環境省グットライフアワード環境大臣賞受賞。

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき) 東京都調布市立多摩川小学校指導教諭。前女子ラクロス19歳以下日本代表監督。2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞。学研教育みらい道徳教科書編集委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。著書に『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』、共著に『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』、編著に『Withコロナ時代の授業のあり方』(いずれも明治図書)など多数。

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。19年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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