【Edubate LIVE!】 原則デジタル教科書にすべき?

教育新聞電子版「Edubate」のライブ番組「Edubate LIVE!」が昨年11月に配信された。ゲストは柴山昌彦前文科相、ウスビ・サコ京都精華大学学長、佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授。司会は教育新聞編集部長の小木曽浩介。第2部ではデジタル教科書をテーマに議論した。(全3回の第2回)

テーマ:あなたは、学習履歴や学校健診でのマイナンバーカード活用に賛成ですか?(昨年9月28日掲載)
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今のデジタル教科書の定義で良いのか?
――デジタル教科書については、今後、大きな動きがありそうですね。現状の課題について、解説をお願いします。

佐藤 今の学習者用デジタル教科書とは「紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く)をそのまま記録した電磁的記録である教材」と定義されています。

また、これまではその使用についても各教科の授業時数の2分の1未満に設定されていましたが、10月23日に行われた萩生田光一文科相、平井卓也デジタル改革相、河野太郎行政改革相の3閣僚会合では、使用基準を緩和する検討を始めるとのことでした。

ただ、課題としてあるのは、まだ発達段階の低い子供たちにとって、果たしてデジタル教科書で学ぶことが学習効果として正しいのかということです。いきなりデジタルに切り替えるというよりは、紙との併用などを考えながら、段階的に進めていくことが現実的なのではないでしょうか。

「現場の声を聞きながらデジタル教科書を普及させていきたい」と話す柴山前文科相

柴山 まず、今のデジタル教科書の定義で果たして良いのかということも、考えなくてはならないと思っています。ICTを使った学びの多様化という点では、もっと発展的な使い方ができた方が望ましいでしょう。

また、規制緩和については、子供の健康にどのような影響を与えるのか、あるいはリアルの教材を使うことの意義などについても考えながら進めていく必要があります。

その他にも、無償化の対象にデジタル教科書が含まれていないことや、検定プロセスなど、たくさんのハードルがあります。現在、文科省でもこうした問題を一つ一つ見直しています。

原則デジタル教科書にしていく案に対して「Edubate」では賛成多数でしたが、文科省が行なった調査の結果によると、公立の小中高等学校における学習者用デジタル教科書の整備率は、まだわずか8%です。

「教科書」は学校教育において重要なものです。実際に教員や児童生徒にデジタル教科書を使っていただいた上で、現場の声をきちんと聞きながら誤りなき普及をしていかなければならないと考えています。

サコ 私は、紙の教科書をコピーして載せるぐらいだったら、デジタル教科書と呼ぶべきではないと思います。

紙の教科書とデジタル教科書は、全く別のものであるべきです。デジタル教科書とは、一つの新しい学びの可能性を提供するものとして捉え、その上で、紙とデジタルをどう併用するのかについて検討していくべきでしょう。

デジタル教科書を活用することで、日本の子供たちがもっと学習過程を楽しめるよう、もっとインタラクティブに学んでいけるようになることが大切です。

今の子供たちは、家でもよくゲームをするなど、デジタルとの触れ合いは日常化しています。ICTに関しては、教員よりも子供たちの方が能力は高いわけです。デジタル教科書をはじめ、デジタルを活用することを一番恐がっているのは、教員や行政ではないでしょうか。

リアルとバーチャルのバランス
「インターネット技術の仕組みやリテラシーをまず教えるべき」と佐藤氏

佐藤 紙かデジタルかは、どちらにメリットがあるかで考えるべきです。デジタル教科書のメリットをしっかりと理解し、それが合う発達段階の世代であれば、デジタル教科書を使えばいいと思います。

また、紙かデジタルかについては、これから1人1台になった時に「調べる」という行為について、これまでのように紙の辞書などを使わせるのか、それとも学校内での端末を使った検索をOKとするのか、という問題も出てくるでしょう。

私は「検索」という技術を、早い段階から試行錯誤すべきだと思っています。なぜなら、これは大人にとっても、21世紀を生きる子供たちにとっても、非常に重要なスキルだからです。

学校側は「危険なサイトにアクセスするんじゃないか?」というリスクを一番に考えます。でも、学校内でそうしたサイトにアクセスしたとしても、IPアドレスなどで分かってしまいます。そういう技術の仕組みやリテラシーをまず子供たちに教えたら良いのです。

それでも失敗する子はいるでしょう。でも、私は学校というのは、「安全に失敗をする場所」だと思っています。外の世界で大きな失敗をするよりも、学校内で失敗をして、それを正していく。そういうアクティブラーナーになるような仕掛けを、どんどんやっていってほしいと思います。

インターネットの技術の素晴らしさは、「自由」と「責任」が伴うところです。早い段階から子供たちに「責任」についても教えていくべきです。

柴山 これから教材はデジタル化していき、情報を調べるのには検索サイトを使うようになっていくでしょう。そうなった場合に、例えば、漢字の書き取りや書道といった文化や、図書館で的確な書物を引っ張り出して調べ物をするといったことが、これからも必要とされるのでしょうか。

あるいは、バーチャルな実験ができるようになった時に、リアルな実験をすることにどういう意味があるのでしょうか。

学校教育の中でリアルとバーチャルをどのように割り振っていくのか、リアルの体験にどういう意義を見いだすかについては、デジタル教科書の議論をきっかけに、しっかりと検討していく必要があると思っています。

教育のデジタル化と感性教育
「デジタル化と感性教育のバランスを考えるべき」とサコ氏は指摘

サコ 私はデジタル化を進めていくことは、「感性教育」をどうしていくのかにも大きく関係してくると思っています。

1つ例を挙げましょう。本学には漫画学部があります。日本では、絵をゼロから丁寧に自分の手で描いて学ぶというプロセスがあります。それが日本の学び方であり、自分の手で描くことで、感性を磨いてきたわけです。

ところが、本学の中国や韓国からの留学生は、最初からタブレットで漫画を描いています。彼らは実は、リアルに手で絵を描くことが苦手です。

これと同様に「書道」は字を美しく書くだけでなく、自分の手で書くことによって、感性を育んできたのだと思います。

教育のデジタル化が進んでいくと、どこを諦めて、どこを諦めないかという選択が、非常に重要になってくるでしょう。

日本の子供たちは、これまで無意識のうちに感性教育を受けてきたわけですが、デジタル化を進めていく上で、本当に指一本でこれまでのような感性教育をやっていけるのでしょうか。これについて、行政はどのように考えていますか。

柴山 極めて重要な指摘であり、今おっしゃった「感性教育」については、実は自民党の中でも重要視しています。

リアルな体験学習がどんどん少なくなっているので、そこを強化していくことが必要なのではないか。または、もっと子供たちを地方にどんどん出していくべきなのではないか。そうした取り組みも進めています。

感性教育や、バーチャルとリアルのベストミックスは、時代とともに変わっていくものです。だからこそ、その時代とともに悩み、議論していくべき課題だと考えています。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

柴山昌彦(しばやま・まさひこ) 東大卒。弁護士。2004年から衆院議員(自民)。総務副大臣、内閣総理大臣補佐官、文部科学大臣などを歴任。「柴山・学びの革新プラン」を発表するなど、Society5.0に伴う先端技術の利活用について推進してきた。現在、自民党内の教育再生調査会の会長を務める。

ウスビ・サコ 京都精華大学学長。1966年、マリ共和国生まれ。高校卒業と同時に国の奨学金を得て中国に留学後、91年から京都大学大学院で建築計画を学ぶ。01年に京都精華大学人文学部教員に着任し、13年に人文学部学部長、18年4月に同学学長に就任。日本初のアフリカ系大学長として、国内外のメディアから大きな注目を浴びている。著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)。

佐藤昌宏(さとう・まさひろ) デジタルハリウッド大学大学院教授。教育イノベーション協議会代表理事。本紙「オピニオン」執筆者。内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員や経産省「未来の教室とEdTech研究会」座長代理などを務め、EdTechによる教育改革に取り組む。著書に『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。


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