【山藤氏×庄子氏×前田氏】 ダメな授業をやる日もある

既定の学校教育の枠を越えて子供たちの学びの可能性を広げる、新渡戸文化中学・高校の山藤旅聞教諭、東京都調布市立多摩川小学校の庄子寛之指導教諭、元高校教師で合同会社楽しい学校コンサルタントSecondの前田健志氏。3人をゲストに迎え、「それでも先生は面白い!」をテーマに次世代の教師像を考えるオンライン鼎談(ていだん)を開催した。司会は教育新聞記者の板井海奈。教員志望者から寄せられた質問をもとに、児童生徒が楽しめる授業づくりのヒントや、授業に挑む心持ちなど、初任者がぶつかりがちな壁の越え方について議論を深めた。(全3回の第2回)


アドバイスをもらい、自分流にアレンジ
――初任時代のご自身を振り返ってみていかがですか。

庄子寛之指導教諭

庄子 私の初任時代は本当に周りに恵まれていました。当時は「初任だから授業が下手」と思われたくなくて、隣の先生とは違うことをやっていました。ベテランの先生と比べて経験値が少ないので良い授業をするのは難しいからこそ、先輩とは違うことをして、児童を引きつけようとしていたのです。校庭を走り回ったり、ICTを活用して映像をつくったり、とにかくいろいろなことにチャレンジしていました。時代のおかげもあったのですが、周囲の先生たちはそれに対して何も注意せず、温かく見守ってくれました。

では今もそんな環境があるかと言ったら、少し難しいのかなと思います。学生の皆さんがいざ学校現場に出てみると、「ちょっとイメージと違う」と感じるかもしれません。そのときは先輩の言っていることが自分の考えと違っても、社会人1年目としてある程度、先輩の意見に耳を傾けることも大切なのかなと思っています。

山藤 今でも覚えているのですが、東京都の教員採用試験の面接でなぜ教員になりたいのか問われたとき、「自分が憧れる教員に一度も出会えなかったから、自分がなります」と答えたんです。学校は好きだったのですが、先生の言葉に感動したみたいな経験は一度もありませんでした。

だから初任の頃は、自分が小中高生時代にこういう先生が近くにいたらうれしかったなと思う存在になることを目標に働いていました。都立高校にはすてきな先生がたくさんいましたので、できるだけ先輩のいいところを盗みつつ、それを自分流にアレンジして、越えようとしていましたね。そういう若いからこそのハングリーさや、がむしゃらさがありました。

若い先生が一生懸命やっていると、先輩たちは支えてくれたり、アドバイスをくれたりするんです。私も初任の頃、授業のことで悩んでいるときに、先輩の先生に「若いのにいろいろやっているな」と教材やプリントをたくさん頂いたことがあります。それを持ち帰って授業で取り入れてみると、大成功しました。「こんなにうまくいくんだ」と感心しながらも悔しくて、「これにちょっと自分流のアレンジを加えるなら」と試行錯誤していたことを思い出します。若い頃は、そんなことの繰り返しでした。

「楽しい授業を」とあえて考えない
――視聴している読者の方から「楽しい、面白い授業づくりをするために、具体的に心掛けていることはありますか?」という質問がきています。

庄子 私は楽しい授業をすることをあまり意識していません。「楽しい授業をしてやろう」と意気込むと、もし授業で児童がつまらなさそうにしていたら、「こんなに準備したのに」とイラっとしてしまう気がするからです。

例えば理科の実験。私は大学時代は理科が専門だったので、教師になって初めの頃は「面白い実験をしよう」といろいろな仕掛けをしていました。ただ私の技術の足りない点もあり、児童がつまらない顔をしていると、こちらもがっくりくるんです。だから今は安全だけはしっかりコントロールして、単元の時間の中で「しっかり計画を出してやるなら、自由に何でもやってみよう」と話して、児童の要望を募って実験をしています。

理科だけでなく、全ての教科でそうです。基本的に児童自身にどこまでやるか、何を学ぶかを宣言させて、45分後にどう変容しているかを見る。授業中はひたすら机の周りをうろうろして、「これ最高に面白い」「なんでこうやったの?」などと対話しながら、どう児童が変わっていくのかを見て私自身が一番楽しんでいます。

山藤旅聞教諭

山藤 まだ経験が浅かったころと、経験値が出てきた今では少し目指すものが変わってきました。ただ初任の頃から「本物は楽しい」と思っていて、そのスタイルは変わりません。

私は理科の生物の教員で、大学時代まで実験や研究がとても楽しかったんです。だから初めの数年は教科書に出てくる実験は全部できるようになろうと、先輩の実験法をまねていました。教科書以外の実験もやりたくて、博物館や大学の研究会などいろいろなところに出向き、自己研鑽に猛烈に励んでいた時代もありました。

ですがそのスタイルを続けていると、だんだんと違和感を抱くようになりました。生徒は笑顔に見えるけれど、これは私のレールに乗って、私が決めた枠の中で楽しんでいるだけではないかと。だから今は、材料を調達するところから生徒に自由にやらせています。

どんどん選択肢と余白を生徒に託しているんです。例えば、「2時間以内に教科書のどのページでもいいから、2人以上のチームを作って実験をやってみよう」と呼び掛けます。生徒が質問にくるとアドバイスをしたり、他の手法を提案したりして、生徒自身に試行錯誤させます。

私自身、面白い実験のノウハウや知識を身に付けてそのまま展開していた時代から、それをどんどん手放していくフェーズに入ってきたように思います。

「授業が怖い」理由を分析してみる
――続いては、「授業を楽しむためにどんなことが必要だと思いますか?」という質問です。授業をするのが怖いと感じたことはありますか。

前田 私は今でも怖いですよ。毎回、はじめましての人たちの前で研修や講演することが多いですから。でも「怖い」というのは大事なセンサーで、自分に良い影響を与えるものと捉えています。私の場合、分からないことが怖さを倍増させるんです。だから「どうして自分は怖いのか」と問うて、その理由や背景を見つめ直して怖さの原因に迫っていくと、少し楽になります。不安も同じ類で、「怖い・不安だから準備しよう」とグータラな自分を突き動かすエネルギーになることが多いですよね。

なかなか信じてもらえませんが、実は私は人前が苦手です。毎回、授業前は吐きそうになっています。「本当に楽しく子供たちと学び合えるのか?」と常に不安を覚えてしまうのです。ただ不安がそこから来ているのであれば、自分が納得するだけ準備すれば、その不安は解消できますし、何だかんだ結局はいつも楽しく生徒と学べています。だから早く教室に行って、生徒と話せば不安が和らぐんです。このように怖いと感じるのであれば、その感情の理由を知り、それとうまく付き合っていくことが大切なのではないでしょうか。

山藤 私ももちろん、怖いと感じることはあります。いわゆる進学校と言われる学校に勤めていた時、生徒の目がギラギラしていて、すごく怖いなと思ったこともありました。面白い授業をするユニークな先生が周囲にたくさんいる環境にいたときは、「今日は全然ダメな授業だった」と反省する毎日でした。

当時、尊敬する先輩に、同じような質問をしました。その時に救われたのが、「ダメな授業は当然やってしまうし、自分のネタがない分野の授業のときは『早く50分終われ』と思いながら授業しているよ」という言葉でした。どんなに素晴らしい教師でも「今日はダメな日だった」というときも、「今日は面白いネタがあるから、生徒が喜ぶかな」というときもあって、毎日の中にそんな強弱があってもいいのかなと考えるようになり、楽になれました。

初任時代のバランスを大切に
――先輩として初任の先生を見ていて、どんなことを感じますか。

庄子 初任の方は、最初はいいバランスを持って入ってくるように思います。教師としての当たり前が刷り込まれていない初任者の感覚が、正しかったり、面白かったりすることは大いにあります。でも現場に出ると周りが先輩ばかりだから、せっかくいいものを持っているのに「教師としてやらなきゃ」と仮面をかぶってしまうんです。

例えば「そこは厳しくしなきゃ」という周りの目を気にして、児童を強く指導しすぎて子供との信頼関係を失うなど、負のスパイラルに入って苦しんでいる若手教師は多いのではないでしょうか。クラスがうまくいかず、周りの先生たちのアドバイスを全部やってみて、ますますできなくなるなんてこともあります。

だから大切なのは、まず楽しむ、面白がること。最初の1年目だけは、うまくいかなくても楽しんでやることを忘れずに過ごしてほしいです。1年間やれたら、また同じサイクルが回ってきて、2年目からは確実に変わっていきますから。

前田健志氏

前田 うまくいかないのは当たり前ですよね。模擬授業でも「うまくしよう」と思ってしまうと委縮してしまうし、「今この時間を大切にしよう」「このメンバーでしかできないことをしよう」と思考を切り替えたほうが、うまくいくことも多いかもしれません。

例えばクラスがうまくいっていないと、あたかも世界がクラスしかないかのように感じてしまいがちです。人生に楽しいことはもっと他にあるし、いろいろな物事はつながっていて、思いがけないきっかけで好転することだってあります。そもそも先生が生きることを楽しんでいなければ、子供も楽しくないと思うので、視野を広く持ち続けてほしいです。

【プロフィール】

山藤旅聞(さんとう・りょぶん) 新渡戸文化中学・高等学校教諭・統括校長補佐・高校教育デザイナー、都立高校講師、一般社団法人Think the Earth SDGs for Schoolアドバイザー。2004年より都立高校で生物の教員となり、オール実験の授業や生徒の「問い」だけで進める授業、生徒が主体的・自立的に学びを進める「対話式・双方向性授業」などを実践。現在は、教科と社会課題をつなげて、生徒自らが解決に向けて「行動する」ことを目指す授業スタイルを確立する。具体的には、企業やNPO/NGOとパートナーシップを組んだPBL(project based Learning)を実施し、現在は60を超えるプロジェクトを生み出している。17年に「未来教育デザインConfeito」を立ち上げ、一般社団法人Think the Earthと協働しながらSDGsを取り入れた教育デザインの実践紹介やプロジェクト作り方について、全国規模で出前授業や講演を展開。教科書の執筆やNHK高校講座の講師など、多領域での教育活動も展開中。19年より現職。共著に『気候変動の時代を生きる』(山川出版・2019年)、『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(Think the Earth・2018年)がある。19年環境省グットライフアワード環境大臣賞受賞。

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき) 東京都調布市立多摩川小学校指導教諭。前女子ラクロス19歳以下日本代表監督。2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞。学研教育みらい道徳教科書編集委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。著書に『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』、共著に『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』、編著に『Withコロナ時代の授業のあり方』(いずれも明治図書)など多数。

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。19年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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