中高生にバスケスキル伝える 3×3日本代表候補、齊藤洋介さん

東京五輪で新しい正式種目に採用された3人制バスケットボール「3×3(スリーエックススリー)」。その日本代表候補である齊藤洋介さんは、オリンピックへの挑戦の傍ら、自分自身が磨き上げてきたスキルを中高生に伝える活動を行っている。齊藤さんが名前を付けた、意識するだけでもプレーが見違えるように変わるという「Back beat Attack」。その指導の現場を取材した。


難しい動きをあえてやる

生徒の動きを観察し、声を掛ける齊藤さん

取材に訪れた日は、齊藤さんの地元でもある神奈川県立伊志田高校を会場に、近隣の高校からも参加しての合同練習会が開かれていた。体育館に集まった男女のバスケットボール部員らを前に、齊藤さんは「自分より体が大きい相手やうまいディフェンスに対して、ドリブルで抜けないとあきらめる必要はない。スピードがなくても抜ける」と笑顔で切り出した。

日本男子プロバスケットボールリーグである「B.LEAGUE」でも活躍した齊藤さんは、これまで身に付けてきたバスケスキルに名前を付けて、YouTubeなどに解説動画を配信した。すると、それが大きな反響を呼び、昨年夏ごろから、中学校や高校のバスケットボール部に出向いて直接指導する活動を始めた。

齊藤さんが「Back beat Attack」と名付けたスキルの鍵はリズムにある。ディフェンスとの1対1の場面では、うまいディフェンスほど相手の動きから抜きに来るタイミングを瞬時に察知し、反応する。オフェンスでこの動きのリズムをあえて崩すようにすることで、ディフェンスの反応を遅らせるという考えだ。

しかし、実際にやってみようとすると、練習を積み重ねてきた経験者ほど難しい。基本的なドリブルワークの練習でも、ボールを突き出す際のリズムや足を変えるだけで、参加者は四苦八苦。「体の動きを意識するだけでも頭の中がごちゃごちゃになる。ボールがあると余計に難しい」と戸惑っていた。

続くシュート練習では、わざと普段とは違うステップでシュートを打つことを繰り返した。齊藤さんは「シュートがうまくなるには、ただ数をこなすのではなく考えて打つこと。普段やらない足のさばき方でシュートするのは難しい。だからこそ、普通にシュートを打ったときは簡単に感じるはず。その方が上達も早い」とアドバイス。

最初は力がうまく入らずにボールがリングに届かなかったり、体が流れてしまったりしていた部員らも、少しずつ感覚をつかんでくると、シュートが入るようになっていく。ある部員は「難しいシュートを練習した後に、普通にシュートしたら、すごく入るようになった。齊藤さんの言っていたことは本当だった」と驚きの表情を浮かべていた。

YouTubeの動画を見て指導に生かせると確信し、齊藤さんに指導を依頼した同校女子バスケットボール部顧問の瀧澤祐輔教諭は「考え方一つで動きが良くなることが実感でき、齊藤さんの説明もすごく理論的だった。今後も、継続して指導に来てもらいたいと考えている。地元出身の日本代表候補の選手が来てくれたことで、生徒たちもすごく刺激を受けたのでは」と手応えを感じていた。

一番はバスケを楽しむこと

そもそも齊藤さんが自分のスキルを紹介しようと考えたのは、東京五輪を目指して3人制バスケットボールに転向した際に、スキルコーチから指導を受けたことだった。それまで培ってきた体の動きがスキルコーチの説明によって言語化されたことで、齊藤さんのバスケットボールの世界はさらに広がった。

日本のバスケットボール指導は戦術などが中心で、スキルに特化したものはそれほど行われていなかった。「この衝撃を多くの人に伝えたい」。そう考えた齊藤さんは、今、子供から大人まで、さまざまな人を対象とした「3×3」のスクールも開いている。

「体格差で不利な日本人でも、これからすごいスキルを磨いてきた選手が現れて、世界と戦えるようになるかもしれない」と齊藤さん。特に「3×3」では、シュートが入った瞬間に時計が動き出し、12秒以内に次のプレーを完結させなければいけないことに加え、指示を出すコーチもいないため、選手には状況に応じた瞬時の判断力が強く求められる。選手が自分で考える主体性を高めることにもなり、実際に「3×3」を練習メニューに取り入れているチームもあるという。

齊藤さんは、東京オリンピック出場は「最後の挑戦」と語る

しかし、齊藤さんが子供たちに最も伝えたいのは「バスケを楽しんでほしい」ということだ。大学に進学後、齊藤さんは「やらされるバスケ」に嫌気がさし、大学を中退。トラックドライバーの仕事に就いたものの、悶々とする中で「自分にはバスケしかできない」と気付かされ、ストリートバスケを始め、やがてプロの道に進んだ開拓者でもある。そして今、自分のバスケ人生の集大成として、東京オリンピックに向けた最後の挑戦の途中だ。

指導では、ゲーム的な要素も取り入れながら、コツをつかんでいる部員を見つけると大きな声でほめるようにしていた齊藤さん。最後には、部員からの熱心な質問にも気さくに応じていた。

「子供たちと練習していると、『その動きは自分のプレーに生かせるかも』と教えられることもたくさんある。『3×3』の普及活動もしていきたいし、オリンピックまでにもっと盛り上げないと」と意気込む。

「3×3」によって、日本のバスケットボール指導のスタイルも変化するかもしれない。

【プロフィール】

齊藤洋介(さいとう・ようすけ) 1985年、神奈川県秦野市生まれ。日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)およびジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)の「横浜B-CORSAIRS」や「信州BRAVE WARRIORS」で活躍。2018年5人制から引退し、3人制バスケットボールへ転向。東京五輪での新種目、3人制バスケットボール「3×3(スリーエックススリー)」の日本代表候補に選出されている。

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