【Edubate LIVE!】 大学の入学時期は9月か多様化か

昨年11月にライブ配信された教育新聞のウェブ番組「Edubate LIVE!」。ゲストに柴山昌彦前文科相、ウスビ・サコ京都精華大学学長、佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授を迎え、教育新聞編集部長の小木曽浩介が司会を務めた。第3部では、コロナ禍をきっかけに議論が再燃した9月入学案や多様化案など、大学の入学時期について討論した。(全3回の最終回)

テーマ:あなたは、学習履歴や学校健診でのマイナンバーカード活用に賛成ですか?(昨年9月28日掲載)
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4月以外に入学する学生は全体の0.45%
――柴山さんはこの議論を進めている自民党の教育再生調査会の会長です。現状をご説明ください。

「入学時期の多様化はまだ進んでいない」と柴山前文科相

柴山 大学の入学時期については、しっかりと検討しようということで、先般、同調査会においても議論を始めたところです。

自民党は2020年4月に緊急事態宣言が出された時に、秋季入学制度について全国知事会をはじめ、さまざまな関係者の方々を交えて検討しました。しかし、社会の受け入れの仕組みや、必要な予算、改編するのに必要な法律が30本以上あることなどを含めて非現実的であると、今年度、来年度の導入はしないという提言を取りまとめた経緯があります。

一旦、この秋季入学制度を見送ることによって、大学入学試験の実施時期についても例年通りとし、ただし2週間後に後ろ倒ししたオプションを設けるという形で、制度設計されました。

委員からは大学入学時期の多様化の提案がありましたが、実は現在も入学時期については、各大学の学長が定めることができます。大学の自主的、自立的な判断で入学時期を自由に設定できることが、学校教育法施行規則にも書かれています。

現に、18年度は約270の大学で4月以外の入学生を受け入れています。ただ、そうしたオプションは設けているものの、4月以外に入学する学生は、全体の0.45%にとどまっており、入学時期の多様化が進んでいるとは言えません。

自民党としては、今のこの多様化のオプションでは不十分なのではないかということも含めて、引き続き議論を進めていきます。

「4月入学も感性教育の一つ」と指摘するサコ氏

サコ 私は、この9月入学については、当初より反対派でした。グローバル社会との足並みを揃えるというような話がありますが、一部の欧米諸国に合わせているだけにも見えてしまうので、そこは注意すべきだと思います。

私は4月入学も、「感性教育」の一つだと思うんです。子供たちが季節の変わり目に入学するという習慣を国民全体が持っていることは、とても素敵なことです。ただ一方で、それをメインにしながらも、多様性を入れていく必要もあるでしょう。

実は、本学でも21年から4学期制に移ります。4学期制のフレキシブルなやり方を取り入れながら、例えば毎学期、入学式や卒業式をするのかといった年間のサイクルをどうするかについては、頭を悩ませているところです。

この議論を進めていくためには、4月以外の時期に入学したり、卒業したりするという選択肢を、社会が許すことが重要です。今後は「社会の理解をどう高めていくのか」について検討する必要があるのではないでしょうか。

「最終学歴」から「最新学習歴」へ

「学びの個別最適化が実現できれば、入学や卒業は形骸化していく」と佐藤氏

佐藤 なぜ9月入学の議論が起こったかというと、コロナ禍で学びが止まったことが原因です。そもそもそれがなければ、この話は出なかったでしょう。

私がこの「Edubate」で投票したのは、「どれとも言えない」です。なぜなら、今後、学習履歴をもとに子供たちの学びの個別最適化が実現できるならば、私は入学や卒業それ自体が、形骸化していくと思っているからです。

そもそも、これから私たちは人生100年時代において継続的に学んでいく必要があります。入学や卒業という概念は、それほど重要なものなのでしょうか。

日本の企業は、まだまだ新卒一括採用が中心です。しかし、これからも新卒一括採用が増えるかというと、それはないでしょう。

私はEdTechにより、「最終学歴」から「最新学習歴」に変えていくことが必要だと考えています。まず、こうした本質論をみんなで議論したいですね。

柴山 日本は社会全体が非常に多様性に乏しく、海外に比べて節目節目の柔軟性を欠いています。最近は企業において中途採用も増えてきましたが、まだまだ新卒一括採用が支配的です。これは諸外国には全くといっていいほど見られないことです。

また、大学は義務教育ではないので、もっと自分で好きなことを学べるようにするべきです。単位の取得の仕方についても、卒業資格についても、多様な仕組みを普及させていくべきだと思っています。

そう考えたときに、一斉入学、一斉卒業にこだわる意義がどれだけあるのかということです。桜の時期に入学式を行うことは日本の伝統文化だったわけですが、そういう文化も含めて見直していく必要があるのかもしれません。

ただ、日本でグローバル化や制度の流動化が進まない理由は、実は9月入学制度以外にもっとあるのではないかとも感じています。そこを深掘りしながら、この問題について議論を重ねていきたいと思っています。

留学を阻むのは「心の壁」

サコ 今の学生たちの就職活動そのもの、社会的な流れについて、私はそう簡単に解決・解消できないと思っていますが、一番の問題は、学生が企業を知らないことだと思います。

例えば、半年間、1年間のインターンシップができるとか、国外でインターンシップができるなど、学生と企業、あるいは大学と企業の連携が、全く進んでいません。たった2週間のインターンシップでさえ、嫌がる企業も多いのです。

インターンシップなどを経験する中で、学生自身が自分の人生プランを作っていくのです。それが結果として、企業への就職かもしれないし、NPOかもしれないし、起業かもしれない。そこを教育の一部として取り入れていかなければいけないし、それをサポートするシステムがあるべきだと思います。

また、私は日本の学生が国外にいかない、留学したがらないというのは、「言葉の壁」よりも「心の壁」だと思っています。本学も国外に学生を出すのに試験をしますが、語学ができなくても留学にチャレンジする学生の方が、国外に行っても生き生きとしています。

グローバル化を目指すのならば、語学だけを基準にするのではなく、体験することが重要です。国外に行って体験して、失敗して、そこから自分を見つめ直す。つまり、「自分は将来どういう人生を歩むのか」について考えることが重要です。

学生にそうした体験をさせるためにも、もっと留学などにチャレンジすることを制度化していった方が良いのではないでしょうか。

佐藤 サコさんがおっしゃった「心の壁」については、本当にその通りだと思います。

「この時期にきっちり卒業しなければならない」「浪人をしたら負け組」といったような、今の教育のレールから外れたらもう二度と立ち直れないという同調圧力が生まれやすいのが、これまでの日本の文化です。

経産省の「未来の教室」でも一つの柱になっているのが、「学びのSTEAM化」です。これはつまり、自分の時間割は自分でつくれる子を育成するということです。

「私はこれが学びたい」「自分の時間割はこうしたい」と言える子を一人でも増やしていくことが、日本の教育の最大の目的だと私は考えています。そのためには、テクノロジーをうまく活用し、われわれ大人がフレキシブルな制度を作っていかなければなりません。

サコ 私が生まれ育ったマリ共和国は、世界では貧しい国の一つです。そこで生まれ育った私が、日本の大学の学長ができている。

このことから、皆さんには「教育には何が必要なのか」ということを考えてみてほしいのです。枠組みをつくるべきなのか、それとも教育を受ける本人を主体とした教育をするべきなのか??。

これまで日本はずっと枠組みにこだわって教育をしていたのだと思います。だから、みんながテンプレート化されたレールに乗っていた。これをどこかで転換させなければいけません。これからは、教育を受ける本人が、アクティブに選択して教育を受けていくことが重要なのです。

日本の教育においては、議論すべきことがたくさんあります。そのうちの一つが、今差し迫っているデジタル化についてです。デジタル化と今のわれわれの社会をどうやって共存させていくかが鍵となりますが、日本社会は十分な準備ができているとは言えません。

これからの教育現場は、チャレンジだらけです。しかし、そのチャレンジができることを幸せに感じながら、これからも皆さんで議論を続けていきましょう。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

柴山昌彦(しばやま・まさひこ) 東大卒。弁護士。2004年から衆院議員(自民)。総務副大臣、内閣総理大臣補佐官、文部科学大臣などを歴任。「柴山・学びの革新プラン」を発表するなど、Society5.0に伴う先端技術の利活用について推進してきた。現在、自民党内の教育再生調査会の会長を務める。

ウスビ・サコ 京都精華大学学長。1966年、マリ共和国生まれ。高校卒業と同時に国の奨学金を得て中国に留学後、91年から京都大学大学院で建築計画を学ぶ。01年に京都精華大学人文学部教員に着任し、13年に人文学部学部長、18年4月に同学学長に就任。日本初のアフリカ系大学長として、国内外のメディアから大きな注目を浴びている。著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)。

佐藤昌宏(さとう・まさひろ) デジタルハリウッド大学大学院教授。教育イノベーション協議会代表理事。本紙「オピニオン」執筆者。内閣官房教育再生実行会議技術革新ワーキンググループ委員や経産省「未来の教室とEdTech研究会」座長代理などを務め、EdTechによる教育改革に取り組む。著書に『EdTechが変える教育の未来』(インプレス)。


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