【山藤氏×庄子氏×前田氏】 「自分のために」を大切に

新渡戸文化中学・高校の山藤旅聞教諭、東京都調布市立多摩川小学校の庄子寛之指導教諭、元高校教師で合同会社楽しい学校コンサルタントSecondの前田健志氏の3人をゲストに迎え、教員志望者たちが抱く疑問や不安に、実体験をもとに赤裸々に回答してもらったオンライン鼎談(司会は教育新聞記者の板井海奈)。これから教師を目指す若者が教員1年目を楽しく過ごすためには、どうすればいいのか――。(全3回の最終回)


子供の反応からインプット
――「教師として日々多忙な中、どのようにして教師自身が学ぶ時間を確保することができるでしょうか」という質問がきています。
山藤旅聞教諭

山藤 私はかなりインプットしているほうですね。まず大量に本を読んで、ビビッと来たら著者に直接会いに行くこともあります。その内容が、次の日の授業の材料になります。昨日の自分では語れなかったことが語れるようになって、今日の私にしかできない授業に変わる感覚が好きです。

数年前から、授業の最初の5分で、新しく得た情報を生徒と共有することを続けています。「昨日読んだ本の一節でね」と話し始めると、その日の私にしかできない授業が始まります。年間通した時に、「授業の初めの5分が好きだった」と多くの生徒が言ってくれます。そういう生徒の声に後押しされて、インプットし続けているように思います。

庄子 私はどちらかと言えばアウトプットを大切にしています。教師は確かに客観的に見るとアウトプットが多いように見えるかもしれませんが、私は学校でほぼインプットしかしていません。授業中は一緒に調べ、学び、子供の反応からインプットさせてもらっているんです。

他のインプットの手段であれば、私も本を読んで、興味が湧けば著者の講演会に行くし、巻末にメールアドレスが書いてあればメールしてみます。この人は面白そうだなと思ったら「授業を見に来てください」と連絡し、ゲストティーチャーとして児童の前で話してもらうこともあります。やはり行動力は大切なのかなと思います。

前田 もちろん読書もですが、日常で体験すること全てを教職に生かせる可能性がありますよね。学びは必然ではなく偶然で成り立っていて、その偶然を起こりやすくするのが授業準備なのかなと思います。だからその視点を持って街を歩いたり、人と話したりすると、面白いですよ。

例えば、接客業の方々。彼らはどんなお客さんが来ようと、そこにいるお客さんの悩みや思い、良さを引き出すのが上手ですよね。その特性を分析してみたら、話を聞くのが本当にうまいんです。そこから、授業をするとき、どうやって生徒と向き合えばいいのかのヒントにしてみる。そうやって、いつでも、どこにいても自分の学びにできるのではないかなと思います。

教師の仕事に生かそうと思って生活していると、生かせることは意外と多いです。もちろん専門書を読んでインプットすることも大切ですが、まず自分が知りたいと思わないと分厚い本も開けられませんしね。

生徒と対等な関係を目指す
――続いて、「どうしても教員が指示しすぎてしまうことがあると思うのですが、子供たちに問い掛ける際、話す際に気を付けていることがあれば教えていただきたいです」というコメントです。

山藤 今、私がとても大切にしているのが、子供たちと対等な関係性をつくることです。例えば「教えてください」という姿勢で来る生徒がいると、そうした気持ちになぜなるのかを分析して、生徒自身にも上ってきてもらうし、私も接し方を工夫してフラットな関係になれるようにしています。

結果的には、生徒が自分で判断して行動できるようになってほしいんです。人から言われて判断するのではなく、次に困ったときは自分で判断できるようになってほしいと思って、コミュニケーションをとるようにしています。だから最後は私がいなくなっても、自分の判断で選択肢が出せる姿を想像しながら、生徒と向き合っています。

前田 関心を持ったら、必然的にこちらに注目するようになると思います。自分に関心を持ってほしいのであれば、まず相手に関心を持たなければ始まりません。目の前の生徒が何を考えているのか本当に知りたいのであれば、自然と聴く動作が生まれるのではないでしょうか。

ただ私もしゃべりたいときはしゃべるので、そんな時は生徒から「先生、ちょっと黙っててよ」などと言われることもあります。でも、そんな関係性がいいんだろうなと思います。

山藤 教師も生徒もありのままの姿を出せる関係になった時に、生徒から「やめて」「それダメ」と対等な意見を言ってもらえるのかもしれませんね。その時、生徒たちは私たち教師のことを許してくれているし、私たちも生徒のことを許せている。つまり寛容な関係性が出来上がっているんでしょうね。

それはもしかして学校の良さなのかもしれません。われわれ大人たちも素を見せられる人間関係は、なかなかつくれません。でも教師と児童生徒の間ではそんな関係が生まれるんですから、学校は素敵な場所ですよね。

――この話題に関連して、「新卒の先生に“手をかけない”は可能なのか」というコメントもありました。
庄子寛之指導教諭

庄子 どうしても手をかけてしまうでしょうけれど、手をかけないという客観性を持っておくことが大切ではないでしょうか。

私は「子供のために」という言葉があまり好きではありません。学校現場は「子供のために」と言って何でも正当化するところがありますが、本当に子供のためになっているのか、ゼロから考えるべきだと思うんです。

例えば、宿題に毎日コメントを書いて返却するのは、もちろん子供のためになるでしょう。しかしそのコメントを夜遅くまで書いて、翌日つらい顔で授業をしている先生がいたとしたらどうでしょうか。特に初任の先生が子供のために、あれも、これも、それもやろうとなってパンクしていく姿はよく目にします。

逆に私は「自分のために」というところを大切にしています。だから児童が楽しいかはいったん置いて、自分が楽しくなければ児童も楽しくならないというスタンスなんです。知識をインプットするのも、もちろん児童に返すためですが、同時に自分の世界を広げるためでもあるんです。

同僚とうまくやって、1年目を楽しむ
――ありがとうございました。最後に1年目の教員が楽しみながら教師生活を送るコツについて、アドバイスをお願いします。

山藤 いろいろなタイプの教師がいていいと思いますし、学校現場に出て子供たちと触れ合っていけば、みんな少しずつ変わっていくと思います。だから、その変わっていくことも楽しんでほしいと感じます。ただ私が強く思うのは、今まさに大きく時代が変わり、教育も変わらなければいけないタイミングが来ています。今まで通りを選ぶ教師が多くいる学校教育では、確実にダメです。

ですから、現場で感じたときの違和感を大事にしてもらって、今まで通りではない教育を若い世代の皆さんと一緒につくっていければいいなと思います。早くいろいろな経験をしていただいて、皆さんと同じフィールドで語り合えることを楽しみにしています。

庄子 楽しめるコツは、同僚とうまくやることに尽きると思います。学生の皆さんは経験はないかもしれませんが、最先端の知識を多く知っているでしょう。学校現場はまだそれに追い付けていない面もあるし、それを学ぶ余裕がないのも事実です。

現場に出て自分が正しいことをやっているにも関わらず、先輩から注意されることも山のようにあると思います。その時に先輩個人に腹を立てたり、「〇〇先生が言っていたから」とただ言う通りにしたりせずに、一度その言葉が生まれる背景を考えて、日本の教育の在り方について分析してみてください。

全て従う必要もないし、全てに反発する必要もありません。知識があるから偉いというスタンスではなく、ぜひニュートラルに考えながら「1年目は楽しかった」と言ってほしいなと思います。

前田健志氏

前田 私は20代の頃に正論を押し通して、周りから反発を受けて、かなりつらい思いをしました。正論は伝え方によっては人を傷つけます。

考え方が変わったきっかけは、自分は「言いたい」のか「伝えたい」のかどちらだろうか、と自問自答したことです。伝えたいのであれば、言わずに気付くような仕掛けをしたり、信頼関係を築いたりするのが先ではないかと気付いてからは、同僚と仕事をするのが楽しくなりました。そもそも自分自身が「自分が正しい」と周りを見下し、バイアスがかかった目で大人を見ていたから、うまくいかなかったことに気付いたんです。

だからもし誰かとぶつかりそうになったときは、楽しくコミュニケーションをとれる場をつくって、嫌な部分は一旦置いて「絶対に面白いところがあるはず」と、1つでもよい部分を見つけようとする視点に切り替えてみてください。それを見つけられないのは、自分にその能力がないから。他人のせいにせず、自分を磨けばいいだけです。人を変えるのは難しいので、自分がまず変われば驚くくらい景色が変わります。

ただ、楽しんでやっていても絶対につらいことはあります。私も心身のバランスを崩して戦線離脱したことがあるので言えますが、「起き上がった者勝ち」なので、何回転んでも大丈夫です。弱さをちゃんと見せることも、子供たちにとっても大きな学びになるように思います。

【プロフィール】

山藤旅聞(さんとう・りょぶん) 新渡戸文化中学・高等学校教諭・統括校長補佐・高校教育デザイナー、都立高校講師、一般社団法人Think the Earth SDGs for Schoolアドバイザー。2004年より都立高校で生物の教員となり、オール実験の授業や生徒の「問い」だけで進める授業、生徒が主体的・自立的に学びを進める「対話式・双方向性授業」などを実践。現在は、教科と社会課題をつなげて、生徒自らが解決に向けて「行動する」ことを目指す授業スタイルを確立する。具体的には、企業やNPO/NGOとパートナーシップを組んだPBL(project based Learning)を実施し、現在は60を超えるプロジェクトを生み出している。17年に「未来教育デザインConfeito」を立ち上げ、一般社団法人Think the Earthと協働しながらSDGsを取り入れた教育デザインの実践紹介やプロジェクト作り方について、全国規模で出前授業や講演を展開。教科書の執筆やNHK高校講座の講師など、多領域での教育活動も展開中。19年より現職。共著に『気候変動の時代を生きる』(山川出版・2019年)、『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(Think the Earth・2018年)がある。19年環境省グットライフアワード環境大臣賞受賞。

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき) 東京都調布市立多摩川小学校指導教諭。前女子ラクロス19歳以下日本代表監督。2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞。学研教育みらい道徳教科書編集委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。著書に『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』、共著に『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』、編著に『Withコロナ時代の授業のあり方』(いずれも明治図書)など多数。

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。19年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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