寺子屋を全国1000カ所に 教育格差の解消目指す

地域の教育格差の解消を目指し、新たな学びのネットワークづくりが本格始動している。昨年夏に立ち上がった「あしたの寺子屋創造プラットフォーム」は、放課後などに子供や大人が集まり、さまざまなことを学ぶ拠点である「現代版の寺子屋」を各地に1000カ所開設する計画を立てている。地域の人材やオンラインなどをフル活用した、同プロジェクトに迫った。


目指すのは第三の居場所
あしたの寺子屋創造プラットフォームを立ち上げた船橋さん(同プラットフォーム提供)

現在、地方では過疎化の進行により社会教育施設や学習塾が維持できず、学びの場が急速に失われつつある。この問題を放置し続ければ、都市部と地方の教育格差は拡大し、地域の衰退は一層深刻化する。こうした問題を解決しようと、「あしたの寺子屋創造プラットフォーム」は人口3万人以下の市町村をターゲットに、オンラインによる学習や外部人材による多様な学習プログラムを提供する「寺子屋」を展開することを目指し、2020年夏に設立された。

プラットフォーム代表の船橋力さんは「大手学習塾が参入しないラインとされている人口3万人以下の市町村は現在、全国に約1000。それらの多くの地域で過疎化が進み、学校と家以外の居場所がない。寺子屋は、学習面だけでなく、いろいろな大人のサンプルに出会う第三の居場所となることを目指している」とその狙いを語る。

寺子屋は地域の人材が運営し、プラットフォーム側では、設立資金の支援や運営ノウハウの助言、提携先の企業などが配信する学習コンテンツの提供などを行う。一方で、その寺子屋独自の教育も展開してもらいながら、寺子屋同士でネットワークを構築し、交流を活発にすることも視野に入れている。

船橋さんは「『第三の居場所であること』『個別最適な学びを提供すること』『ロールモデルとのつながりをつくること』、この3つはどの寺子屋でも同じ価値観として共有するが、それ以外は寺子屋長の思いや地域のニーズに応じて、やりたい教育をやってもらう」と話す。例えば、昆虫がとても好きだが、学校の中では話の合う教師や友達がいないという子供がいれば、寺子屋が昆虫を専門に研究している大学生とつなぎ、週に1回オンライン授業をして交流するといったことや、青年海外協力隊として活動した人が、その経験を生かして日本の地域おこしの一環として寺子屋を経営してもらったり、少子化で経営が厳しい学習塾が、寺子屋に転換したりすることなどを考えているという。

ラスト1マイルをつなげるビジネス
ビジネスの側面から寺子屋の可能性を語る嶋本さん(あしたの寺子屋創造プラットフォーム提供)

すでに各地では、寺子屋の設立に向けて動き出している人たちがいる。横浜市から生まれ故郷の北海道美幌町にUターンした花田翔二郎さんもその一人だ。

花田さんは現在、副業として地元の中高生にオンラインによる家庭教師をしている。そこでは、英語などの勉強だけでなく、ビジネスパーソンとしての経験を生かして、グローバル化についての授業をしたり、アプリを使って、勉強のスケジュール管理をしたりといった、社会人になって必要な力を身に付けさせているという。そうした人間力を重視した人材育成を地域でしたいというのが、花田さんがこのプロジェクトに興味を持ったきっかけだ。

「今は、地元のカフェと交渉して、営業していない時間を『寺子屋』として借りられないかと考えている。オンラインを使えば、都市部も含めてさまざまな大人とつながることができ、いろんな学びを得られる。町づくりと寺子屋の親和性は高いと感じている」と花田さん。将来的には、地域の高校との連携なども視野に入れ、開設に向けて奔走しているという。

このように「現代版の寺子屋」は、社会課題を解決するビジネスモデルとしての期待も高い。

プラットフォームの構想を実現するための事業会社「あしたの寺子屋」では、現在、オンライン学習コンテンツの提携先の拡充や、各地での寺子屋開設に向けた希望者のサポートなどに着手している。プラットフォームの事務局長も務める同社代表取締役の嶋本勇介さんは「オンラインによる学習コンテンツも普及したが、アクセスしてくるのはまだ都市部からが多く、開発した企業にとっても、本当に使ってほしい子供たちに届かないというジレンマがある。そのラスト1マイルをつなげたい」と、さまざまなステークホルダーの橋渡し役となるメリットを強調する。

寺子屋は学校の足りないところを助ける存在

もともと、プラットフォーム代表の船橋さんは、官民協働で海外留学への支援を行う「トビタテ!留学JAPAN」のプロジェクトリーダーとして、グローバル化する世界を生き抜く日本の次世代を育ててきた。そんな船橋さんがなぜ、グローバルとは対極の関係にあるように見える地域の教育課題に目を向けたのだろうか。

その理由を船橋さんは「留学生の倍増という目標を掲げて『トビタテ!』をやっていく中で、日本には留学の機会を失う3つの格差『意識格差』『情報格差』『経済格差』があると痛感した。特に『意識格差』は保護者や教員に留学経験がなく、子供が留学をしようと考えていても止めてしまう。その傾向は、身近にロールモデルのいない地方の公立高校で強い」と指摘する。

そんな強い思いを、起業家育成に携わり、インフィニティ国際学院を開校した大谷真樹同校学院長に打ち明けたところ、すぐさま意気投合し、プロジェクトが動き出した。プラットフォームには、地域・教育魅力化プラットフォームの水谷智之代表理事をはじめ、ふるさと納税サイトを運営するトラストバンクの須永珠代代表取締役、オンライン学習サービスの配信を手掛けるリクルートの山口文洋執行役員といった、経済界や教育界の双方に影響を与えている力強い味方がボードメンバーとして次々加わった。

「地域の教育格差の解消という目的は、多くの人の共感を生みやすい。全国に1000カ所の寺子屋が生まれたら、社会にもかなりのインパクトがある」と展望を語る船橋さん。「まずは21年度中に100カ所で開設し、地域へのソーシャルインパクトや子供の学力への効果測定もしっかりやっていきたい。寺子屋は学校の足りないところを助ける存在だ。探究学習で学校が求めている外部人材を紹介したり、勉強に課題のある子供やもっと学びたい子供をサポートしたりできる。お互いに協力すればウィンウィンの関係になれるはずだ」と、学校との連携にも意欲的だ。

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