社会との協働、コロナ禍で学ぶ さいたま市の細田教育長

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、二度目の緊急事態宣言が発令された。学校現場は前回の一斉休校から何を学び、今後にどう生かしていくべきか。一斉休校中にデジタルコンテンツをそろえ、子供たちの学びの保障に取り組んださいたま市教委の細田眞由美教育長は、コロナ禍で気付かされたことは多いと話す。オンライン授業など学びの保障や、これからの学校行事の在り方についての考えを聞いた(1月3日付「ポストコロナ時代の教育 有識者・読者に聞く展望と課題」のインタビューに加筆・再構成しています)。


「力を貸してください」と言うことの大切さ
――昨年春の一斉休校を経て、気付いたこと、実感したことはありますか。

コロナ禍で得た学びについて話すさいたま市教委の細田眞由美教育長(昨年12月にZoomで取材)

一斉休校中、本市では教員6000人の力を借りて、短い時間で800を超える授業動画を作って提供しました。「子供たちの学びをとにかく止めない」という気持ちで、最初は教委の指導主事らが中心となって始めたものですが、休校が長引くにつれて指導主事だけでは「学びを止めない」方策には足りないことが分かり、市内の教員の英知を結集して取り組みました。

今思えば本当に必死でした。ただ、改善点も多かったと思います。教員も教育委員会も、教育のプロではあるものの、デジタルコンテンツのプロではないからです。そこで人材会社に依頼して、民間からDX(デジタルトランスフォーメーション)人材を募集することにしました。われわれがITのプロでないなら、プロの人材に“中”に入ってもらって協働しようと考えました。教育のプロとITのプロが協働すれば、化学変化が起きるだろうという予想があったのです。

引く手あまたのDX人材が、本当に自治体に来てくれるのかという不安もありました。ところが実際は、4人の募集枠に対して688人の応募があり、それも超一流のIT企業などに勤めた経験のある人材が集まってくれました。

最終的に二十数名と面接をした際、「なぜ応募したのか」と尋ねました。「リモートワークで働き方が変わり、副業・兼業がしやすくなった」という事情もあるようですが、それ以上に「ICTを活用することで日本の教育が変わっていく大改革の、まさにその瞬間に立ち会いたい」と言ってくれたことを、とてもうれしく感じました。結局、採用人数を4人に絞り切れず、昨年9月から6人のDX人材と協働しています。

協働する分野は、デジタルインフラやセキュリティー、コンテンツ、カリキュラムマネジメントです。カリキュラムマネジメントにまで関わってもらうのは、これまで教員が実践してきた「1対多」の授業を大きく変革する必要があるからです。

彼らとの協働は、まさに目からうろこでした。われわれが休校中に作成した動画について意見をもらい、「こう変えていくとよい」とか、「映像は最初の6秒が勝負なので、6秒でこのようにして」など、われわれが考えつかなかったアプローチを目の当たりにしました。プロの力を借りれば、われわれの手でもこんなによいものができるのだと気付かされました。仮に再度、休校になることがあっても、いろいろと良いコンテンツが提供できるはずです。

超一流のIT企業で最先端の仕事をしてきた人材が「教育が何とかならなければ、この国の未来は危うい」と考えているのです。「力を貸してください」と言えば、力を貸してくれるのだということも分かりました。教育はもっともっと、社会に開かれていくべきだと実感しました。

GIGAスクール構想は「インフラを整備して終了」では全くありません。そこでようやくスタートラインに立つのです。オンライン授業やデジタルコンテンツの具体的な活用方法については、教委としてスキームを整え、どの先生でもどの教科でも授業改善につなげられるよう、バックアップしていきたいと考えています。

部活動は「根性」から「サイエンス」へ
――コロナ禍では学校行事が中止や縮小を迫られましたが、その必要性を見直すきっかけにもなりました。

昨年度末の卒業式や今年度の入学式は、準備や予行練習などなしで、本当に限られた時間で心を込めて開催しました。心がこもっていれば、短くても立派な式ができるのだと実感しました。コロナ禍で失ったもの、我慢を強いられたものが多かった中で、この気付きは収穫でした。

ただ、子供たちが学校行事で育つ場面は非常に多いということにも気付きました。昨年秋、市内の校長先生たちと意見交換する機会を設けましたが、その際に「制限のある中で運動会・体育祭をやったことで、子供たちがこんなにも生き生きとしてきた」「マスクをしながらの合唱祭だったが、涙が出るほど感動的な歌声だった」という現場の声を聞きました。

子供たち自身が「どのようにすれば感染を拡大させないで学校行事ができるか」と考え、知恵を出し合ったのだそうです。その結果、まさに大きな成長を目の当たりにした。今後は子供たちの手で、子供たちの考えで学校行事を作っていく、というやり方にシフトしていくことが大切でしょう。教員も子供たちに教え込むのではなく、そうした子供たち主導の取り組みをコーチング、ファシリテートしていく役割へと移行していかなければなりません。

――学校行事が見直される中で、部活動については依然として負担が大きいという声があります。

さいたま市教委では今、「スマート部活動」に大きくかじを切ろうとチャレンジしています。これまで日本の部活動では根性やチームワークなど、子供たちのメンタル面にフォーカスする傾向がありましたが、これをもっと「スマート化」して、子供たちの育ちを多面的に見ていくべきです。

今般のコロナ禍でGIGAスクール構想による1人1台端末整備が前倒しで実現することになりました。これを絶好のチャンスと捉えて、デジタルの力を使いながら、もっと部活動に科学的にアプローチしたらどうでしょうか。

例えば運動部活動では、練習試合の様子などをデジタルで記録し、部員同士でそれを見ながら「この時のこの動きはこれでよかったのだろうか」といったディスカッションをするのです。だらだらと長時間にわたって練習をするのではなく、効果的、効率的に部活を展開できるようになるのではないでしょうか。

必ずしも部員全員が集まって練習をする必要もないでしょう。昨年の休校中にも吹奏楽部などでは、Zoomを使いながらそれぞれの自宅で演奏をしたり、リレー形式で練習をしたりといった工夫がありました。スポーツやアートと「サイエンス」のコラボレーションで、スマートに賢く部活を展開するべき時に来ていると感じます。

【プロフィール】

細田眞由美(ほそだ・まゆみ) さいたま市教育委員会教育長。埼玉県及びさいたま市教育委員会、高等学校長などの勤務を経て、2017年より現職。内閣府男女共同参画推進局予防啓発教材検討会構成員、国立大学法人兵庫教育大学経営協議会委員、大学改革支援・学位授与機構評議員など。

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