大学教育の効果 「エビデンスによる評価を」中室教授が提案

オンライン教育など新たな大学の在り方を検討している教育再生実行会議の高等教育ワーキンググループ(WG、主査・鎌田薫前早稲田大学総長)は1月21日、委員からの意見聴取を行った。中室牧子慶大教授は、大学が持つ成績など業務データと自治体が持つ課税情報を、個人が特定されないかたちでリンクさせることにより、大学教育が生涯賃金に与える効果などをエビデンスとして把握できる仕組みを作り、大学教育の「出口における質保証」につなげていくことを提案した。大学に進学する投資に対する効果を、データに基づいて科学的に評価することで、大学教育の質の向上につながる、と指摘している。

中室教授は、WGに提出した資料「科学的根拠に基づいて教育政策を考える」で、臨時休校が学力に与えた影響や感染抑止効果、オンライン教育がコロナ禍の学習を下支えした可能性、オンライン授業の問題点や対面授業との比較などを検証した国内外の論文を数多く紹介。

一斉休校期間中に浮上した「9月入学」について、学力の低下や格差拡大といったコロナ禍で生じた問題と、教育の国際化など従前からの政策課題を分けて議論すべきだと提言。内閣官房教育再生実行会議担当室によると、「『9月入学』を実施したからといって、それ単独で『国際化』が一気に進むわけではない」として、9月入学の一律的な導入ではなく、大学の入学時期を柔軟化していくべきだとの意見を述べた。

さらに、中室教授は、大学の「『出口』における質保証こそ重要」として、試験の成績や入試の合否など大学の業務データと、行政データや自治体が持つ課税情報など卒業後の成果を示すデータを照合していくことで、大学教育の成果を科学的なデータを通じて評価する仕組みの導入を提案した。

さまざまな論文を示しながら、学歴が高くなると収入は上がる一方、「偏差値の高い大学」に入学したほうが将来の収入が高いかどうかは研究によって結果が分かれており、大学の偏差値と将来の収入の間には因果関係はないと結論付けている研究者が多いことを指摘。将来の収入には、大学の偏差値よりも、大学での専攻が与える影響が大きいとの論文も紹介した。

こうした論文を比較した結果として、中室教授は「WGでも『入り口』の参入障壁を高めることで大学教育の『質』を担保しようとしているが、 より重要なのは『出口』における質保証のための戦略であるとの指摘が多数」と説明。世界ランキングで上位を占める米国の大学について「米国の大学の強さは『出口における質保証』に関する知見の蓄積と共有だ。こうした 『知的公共財』が政策に果たす役割が極めて大きい」と強調し、エビデンスによる科学的な根拠に基づいて「出口」の質保証を評価できるようにすることが、大学教育の質を高めるとの議論を展開した。

その上で、こうした取り組みを日本で実現するために必要なこととして、▽同一の学生を長期にわたって追跡したデータを構築する必要▽行政データ、大学の業務データを照合し、利用する必要▽課税情報など卒業後の成果の情報と照合する必要–を挙げ、データを照合するためにマイナンバーの活用を求めた。

続いてWGでは、柳川範之東大教授が発表を行い、高等教育が抱えている現状の課題について、▽入試に過度のウエートがかかっている▽社会人に対するリカレント教育が不十分–の2点を指摘。こうした課題に対して、オンライン教育が新たな選択肢を提供する可能性があることを説明した。「オンライン教育か対面教育かの二者択一ではない」として、実験、少人数ディスカッションなど対面が効果を発揮しそうなものは対面で行い、それをオンラインと組み合わせていくとの考えを示した。

さらに、オンライン教育の可能性として▽厳しい入試を課すのではなく、希望者にオンラインによる入学や履修を認め、十分な単位取得ができたものを対面授業に参加させる▽多様な人が大学教育を受けることを可能とし、受験格差の解消、社会人のリカレント教育、入学時期・入試時期の多様化に役立てる――ことを挙げた。当面の現実的な対応策としては、大学の通信教育課程をオンライン教育課程として拡充させることを提案した

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