親を亡くした大学生ら 同じ境遇の小中学生を学習支援

親を亡くし、奨学金を受け取っている大学生が、同じく親を亡くした小中学生にオンラインで勉強を教える――。病気や災害などで親を亡くした子供たちに長年、奨学金給付をはじめとする支援を続けてきた「あしなが育英会」が、新しい学習支援プログラムをトライアルとして進めている。「信頼できるお兄さんができたみたい」と喜ぶ家族に、「心の支えになることができれば」と話す大学生。コロナ禍による教育格差も懸念される中で、これまでの支援策では埋められなかった課題にアプローチしようとする試みを取材した。

先生はめっちゃいい人
大学生から勉強を教わる中学生(あしなが育英会提供)

「とにかく英語が苦手なので、学校の授業で分からなかったところを中心に教えてもらっていて、だんだん、自分は複数形や過去形にし忘れるケアレスミスが多いことが分かってきた」

千葉県に住む中学2年生の大岡祝(とき)さんは昨年10月から、妹で小学5年生の蒔(まき)さんと共に、この学習支援プログラムを受講するようになった。ラーニングサポーターと呼ばれる大学生がそれぞれ1対1で担当し、祝さんは水曜日、蒔さんは火曜日に、Zoomを使って1時間ほど勉強を教わっている。

中学校で始まった英語でつまずいてしまった祝さんは、AIドリルの「atama+(アタマプラス)」や学研が提供する「ニューコース学習システム」を使いながら、授業の復習を中心に取り組んでいる。いつも勉強を始める前に、ラーニングサポーターと学校での出来事を話すのが習慣になっているそうだ。

「亡くなった父がよく旅行に連れて行ってくれたこともあり、飛行機が好きで、大人になったら空港で働きたいなと考えていた。それなら英語は必要不可欠。文法の初歩が分かってきて、何とかなりそうだと思えるようになった」と祝さん。プログラムを受けるようになって、将来の夢が徐々に具体化しているようだ。

一方の蒔さんは、算数が少し苦手だというが、算数だけでなく、国語や社会など、ラーニングサポーターと相談しながら、そのときそのときで学習内容を変えている。

「先生はめっちゃいい人。よく韓国のドラマの話をしたり、どうして彼女ができないのかと悩みを聞いたりすることもある」と蒔さん。母親の理絵さんによると、あまり集中が続かない蒔さんの様子を見ながら、ラーニングサポーターがその場で学習内容を切り替えたり、雑談を織り交ぜたりしているのだという。

新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校で、理絵さんにとって、家で過ごす子供たちが勉強しないことが悩みの種だった。だからといって、仕事を抱えている理絵さんが勉強をみるわけにもいかない。案の定、子供たちは遊んでばかりで、夜更かしが続き生活リズムも狂い始めた。

それからしばらくして、この学習プログラムを知り、申し込むことにしたという。理絵さんは「ラーニングサポーターの大学生は2人とも、子供に合わせて的確なアドバイスをしたり、褒めたりしてくれる。家族が勉強を教えようとすれば、こうはいかない。信頼できるお兄さんができたみたいな感覚で、子供たちも週に1度のこの場を楽しみにしている」と、子供たちの成長を実感していた。

ちょっとずつ、心の支えになれたら

ラーニングサポーターには現在、全国で約30人の大学生が登録し、ボランティアで小中学生にオンラインで勉強を教えている。愛知県の椙山女学園大学2年、田中真綾(まや)さんもその一人。教員志望の田中さんは週に2回、2人の中学2年生を教えている。大学1年生のころは、近くの小学校の特別支援学級へのボランティアに通うなどしていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、自粛せざるを得なくなった。代わりに何かできないかと考えていたところ、このラーニングサポーターの募集を知り、手を挙げた。

「私も苦手な科目は、子供と一緒に調べることもある。大学のオンライン授業で知ったZoomのホワイトボード機能を早速、自分でも使ってみたこともある。ちょっとシャイな性格の子は、まだあまり話してくれないが、最近、お互いに好きなアニメやゲームのことを少しずつ話題にするようになった」と話す。将来、中学校の教員として教壇に立つのが目標だといい、中学生と1対1で向き合う時間は自分自身にとっても、とても貴重な学びになっているそうだ。

田中さんが母親を亡くしたのは高校1年生のとき。「これから頑張らなければ」といくら自分に言い聞かせても、心にぽっかりと空いた穴はなかなか埋まらなかったという。そんな経験を持つ田中さんは「悩みを打ち明けられるような相手がいれば、心の支えになることができる。子供たちが抱え込んでしまっているものを、だんだんでいいから話してもらえるような存在になりたい」と、同じ親を亡くした境遇の子供たちに対する思いを打ち明けてくれた。

ロールモデルが学びの格差を埋める

あしなが育英会では昨年9月から、この学習支援プログラムのトライアルを開始した。これまで、高校や大学への進学に対する奨学金の支給をメインに行ってきた同会だが、大学進学に焦点を当てたとき、いくら奨学金を充実させたとしても、「そもそも進学しようと思わない」層が一定数いることが課題だった。

その原因として考えられるのが、身近にロールモデルがいないことと学力だった。特に学力は、学習に向かう意欲などの非認知能力も含めて、小学4年生のころから格差が広がっていく。この2つの原因にアプローチするために、同じ境遇で奨学金を受けながら大学で学んでいる「先輩」が、小中学生に勉強を教える仕組みをつくることにした。

ちょうどコロナ禍でオンライン学習が普及しつつあったことも追い風となった。環境がない家庭には同会からデバイスと通信環境を貸与し、プロジェクトに賛同した企業が、自社の学習コンテンツを無償で提供している。

大学生と小中学生のマッチングは、心のケア事業を行う職員のアドバイスも踏まえながら決めている。これまで、ほぼペアは変わることなく、継続して学習に取り組んでいるという。小中学生と大学生との連絡は業務用チャットアプリの「LINE WORKS(ラインワークス)」で行い、保護者には毎回、学習の様子を大学生が報告。同会の職員もその記録を確認しながら、必要に応じてアドバイスをするなど、バックアップにも配慮している。

同会では、4月から本格的に事業化し、60組程度の小中学生にプログラムを提供していくことを目指している。このプログラムを担当する同会学生事業部リーダー育成課の佐藤弘康課長は「新型コロナウイルスが収まれば、オフラインで大学生と小中学生が会える機会もつくっていきたい。ゆくゆくは、このプログラムを小中学生のころに受けた子供たちが、大学に進学し、今度は教える立場で自分たちの経験を伝えていってくれれば」と期待を寄せる。

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