【初めての共通テスト(2)】 鳥飼立教大名誉教授に聞く

「間に合わなかった」「時間が足りない」――。そんな声がSNSで聞かれた初の大学入学共通テスト(第1日程)の英語試験。昨年の大学入試センター試験から語数が1000語以上増加し、直後には「難易度が上がった」と分析する予備校もあった。ただ、英語教育が専門の鳥飼玖美子・立教大学名誉教授は「英文の量は多かったが、本当の思考力、判断力を問う出題とは言えなかった」と失望の色を隠さない。

語数は増加した。しかし、中身は……
――第1日程の英語リーディング試験について、率直な受け止めを教えてください。

試験の後に公開された問題を見て、私も受験生と同じような気持ちで解いてみました。その上での感想ですが、量が多くなったといっても中身が薄いので、難易度が上がったということはないと思います。

前半で出題されている、友達とのスマホでのやり取りやファンクラブの入会案内は、読解とは呼べません。インターネット上の情報に慣れた今の高校生なら、さしたる英語力がなくても解けるわけですから。後半の長文問題も、つまらない内容がダラダラと書かれているだけで、これまでの大学入試センター試験に見られたような、英語らしい論理構成できちんと書いてある評論とは異なるものでした。

要領のよい子はパッと読んで手早く解答したでしょうし、まともに考えようとした思慮深い受験生はしっかり文章を読んで、かえって時間を損したでしょう。これでは本当の意味で「読みながら考える」という読解力、思考力を測っているとは思えません。判断力についても、考えて判断する力ではなくて、情報を読み取って手早く処理するような、反射神経のある受験生が得をしたのではないでしょうか。

これまでの大学入試センター試験では毎年、工夫を重ね、問題の質が向上していました。コミュニケーションに使う力を図ろうとしたり、読解力を見ようとしたり。「なかなか工夫してあるな」と感心していたものです。これを、さしたる議論もなく改変してしまったのは拙速で、判断力に欠けていたと思います。これまで培った大学入試センター試験のノウハウを大事にして、その路線を続けるべきでした。

――大学入試センター試験で出題されていた、語句の並べ替えやアクセントの問題がなくなりました。

これまでの語句の並べ替え問題は、英語の構文を身に付けているかという「書く力」を見る問題でした。また、アクセントの問題は文脈から判断して、どこを強めるかなど「話す力」を見る問題でした。二つとも、間接的に英語の発信能力を測っていたのです。

語句の並べ替えができない受験生は、自分で英文を書くとき、まともな語順で書けないということです。逆に、英語の構文が身に付いていて、英文を難なく書くことができる受験生にとって、語句の並べ替え問題は容易に解けるでしょう。

また英語を発するときに、どこに強勢を置くかは肝心の部分です。これを間違えるとコミュニケーションが全く成立しないことがあるくらいで、つまらない問題どころか、英語の“命”です。民間試験の導入を延期したのであれば、この二つの問題は入れるべきでした。

――リスニングの試験はどう見ますか。

こちらも水筒の形状を選ばせるなど、内容の薄いものが多く、「本当に英語力を測っているのかな」という問題が多かったですね。

受験生に対して非常に不親切だと思ったのは、音声が1回流れるケースと2回流れるケースが混在していたことです。受験生は「次は何回、流れるだろうか」と、無駄なエネルギーを使ったことでしょう。設問の指示も複雑で、本来必要のない労力を使ったはずです。

また4人もの人間に話をさせ、それぞれが何を言っているかを聞き分ける問題もありましたが、テレビなどで映像を見ているならまだしも、耳だけで聞き分けなければならない状況は実生活ではあり得ないでしょう。

旅行先のニューヨークでミュージカルを見るという設問もありました。コロナ禍で海外旅行が現実離れしつつある中での出題もさることながら、架空のミュージカルのタイトルがたくさん出てくるなど、受験生がかわいそうだと感じました。初めての固有名詞を聞き取るのは、文字で読むのと違ってとても難しいのです。日本語でも、初めての人の名前や演劇のタイトルを耳で聞いただけでは「えっ?」と思いますよね。

現場の先生こそ、主体的に考えて
――大学入試センターの発表では、中間集計の平均点がリーディングで60.35点、リスニングで57.23点と、比較的高い水準でした。

出題された英語のレベルがおしなべて高くないので、こうした問題を塾や予備校でさんざん解いてきた受験生は、高得点が取れたでしょうね。「TOEICに似ている」という声もあったくらいです。

ただ平均点が高かったからといって、問題の内容が良かったということにはなりません。大学でのアカデミックな学びに使うような英語力は測っていないので、どの程度の英語力のある受験生なのか、大学側は知りようがありません。

必要なのはきちんとしたレベルの、知的な内容のある英文です。英語の論理構造を保っていて、内容もある英文を選べば、おのずから読解力を測ることができます。その意味では、TOEFLの英文はアカデミックな内容が充実しています。「主に北米の大学・大学院で学ぶ英語力を測る」という目的が明確だからです。

――高校の英語教育への影響は。

トップクラスの進学校は、大学入試の問題に左右されることなく知的な英文を読ませたり、書かせたりして、独自の英語教育を続けるはずです。今回の共通テストで出題されたような、いわゆる「実用英語」に的を絞ってしまうとすれば、それ以外の大半の学校でしょう。ここで英語格差がこれまで以上に広がると思います。

今回の共通テストで出題されたような英語の問題で高得点を取ることを、高校の英語教育の目標にしてしまうと将来、英語圏の大学に留学したとしても、授業についていくことも議論することもできません。

コロナ禍で先が読めない時代になっているからこそ、現場の教員がしっかりしなければならないと思います。生徒たちに主体的な思考力を求める前に、主体的に考えなければいけないのは学校の先生たちです。

上からの指示に従っていればよいという時代は終わりました。英語教育や大学入試の在り方についても唯々諾々(いいだくだく)と受け取るのではなく、現場目線で「おかしい」と思ったら、勇気を出して声を上げていただきたいと願っています。

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