コロナ禍によりオリンピック・パラリンピック東京大会の見通しが不透明なことで、学校現場でのオリンピック・パラリンピック教育もさまざまな困難を抱えている。そんな中で、日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会と日本財団パラリンピックサポートセンターは、教員向けに国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』日本版の研修会をオンラインで実施している。同教材の開発責任者で、1998年の長野冬季パラリンピックにおいてアイススレッジスピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得したマセソン美季さんは「今だからこそ、パラリンピック教育を学校でやってほしい」と呼び掛ける。

「不可能(Impossible)だと思えたことも、考え方を変えたり、少し工夫したりすればできるようになる(I’m possible)」という意味が込められた『アイムポッシブル』は現在、世界37カ国・地域で使用されており、日本版は2017年以降、全国の学校に無償で毎年配布されている。それに合わせて、団体での教員向け研修会も各地で実施してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、20年11月からは個人で参加できるオンライン研修会もスタート。2月12日の夜に開かれた基礎編の研修会では、教員約20人が参加し、カナダに住んでいるマセソンさんが講師を務めた。
マセソンさんは「パラリンピック教育というと、パラアスリートの講演会やパラスポーツの体験会といったイベントになりがちで、準備が大変というイメージを持たれがちだが、『アイムポッシブル』を活用すれば予算や特別な用具がなくても、短い準備時間でできる。コロナ禍で生活上の不便や不安を感じる今だからこそ、パラリンピアンの困難な状況を生き抜く力、諦めずに挑戦する力を子供たちに学んでほしい」と強調。教材の内容を説明した。
例えば、パラスポーツ競技の体験では、目隠しをして鈴の入ったボールを転がし、相手のゴールにボールを入れる「ゴールボール」の実践を紹介。ビニール袋を活用すればバレーボールなどを代用して鈴の音がするボールになることや、目隠しをするプレーヤー以外にも競技をサポートする役割を子供たちに与えることで、子供たちは声による情報の伝え方など、さまざまな気付きが得られると紹介した。
また、座学の教材の例では、クラスの中に車椅子を使っている子供がおり、その子も参加できる運動会の玉入れのルールを考えさせるという課題を提示。実際に参加者がさまざまな解決策を出し合った。マセソンさんは「大切なのは『考えてあげる』のではなく、参加する人みんなでルールを考えるということ。既存の考え方にとらわれず、広い視点で捉えてほしい」とアドバイスした。
研修会終了後、メディアの取材に応じたマセソンさんは「パラリンピック教育を通じて、子供たちはすごく変わる。特別な授業でやるよりも、いろいろな教科の中でうまく組み合わせてもらいたい。その意味でも『アイムポッシブル』は扱いやすい教材だ。パラリンピック教育は障害のある子供にとっても、少し工夫すればできることがたくさんあることが分かり、自己肯定感を高めることになるはずだ」と、既存のカリキュラムの中で日常的なパラリンピック教育を実践していくことを提案した。
『アイムポッシブル』には小学生版と中学生・高校生版があり、テーマごとにユニットに分かれ、各ユニットは1時間の授業で完結する構成となっている。映像資料やワークシートのほか、教師用指導案などもセットで収録。同教材公式サイトからダウンロードできる。
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