学校のICT活用、進むかどうかは校長次第 国研が報告

国立教育政策研究所(国研)は2月16日、教育改革国際シンポジウムをオンラインで開催し、ICTを活用した公正で質の高い教育の実現をテーマに、コロナ禍の学校におけるオンライン授業の検証やICT活用の促進条件について、調査報告や意見交換を行った。全国的な調査と分析の結果、自治体の財政力や個人情報保護に対する取り組みの違いがICT活用の阻害要因になっているほか、学校管理職である校長が従来の伝統的な授業や平等分配にこだわる傾向が強いと、オンライン授業の導入やICT活用が遅れることが裏付けられた。逆に、教育長や校長がアクティブラーニングなど新しい授業形態に積極的な場合にはICT活用が進んでおり、トップのリーダーシップの有無が学校間や自治体間のICT格差に直結している状況が浮かび上がってきた。

露口健司・愛媛大学大学院教授(右)による調査報告(ウェブ会議より)

この調査と分析は「公正で質の高い教育におけるICT活用の促進条件」と題され、露口健司・愛媛大学大学院教授が報告した。国研が昨年11月から12月にかけ、無作為に抽出した800市区町村教委と小中学校2503校を対象に行った「ICT教育活用についてのウェブ調査」(回収率38.5%~51.9%)をベースに、学習指導の取り組みや教育の情報化など文科省のさまざまな市区町村別データを使っている。

新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休校が一部で続いていた昨年6月23日時点で、同時双方向型オンライン指導を実施していた学校は、小学校8%、中学校10%。

今回の結果を教育委員会に対する調査で分析すると、経済的に豊かで財政力指数の高い自治体は実施率が高い。端末1台当たりの児童生徒数が多いと実施が困難で、端末整備が1人1台に近いほど実施しやすい。また、個人情報の取り扱いについて、もともとしっかり議論をしている教委では実施率が高かった。

教育長が課題解決型の学びなど革新的な授業を重視する傾向を持つことも、特徴として浮かび上がった。露口教授は「教育長によるアクティブラーニング要素の受容、あるいはそのビジョンの発信が重要なことが確認できた」と指摘。教委に情報教育担当の指導主事がいるかどうかもポイントの一つだった。

ただ、財政力がそれほど強くない自治体であっても、端末整備が事前に1人1台に近い状態になっていた場合は、同時双方向型オンライン指導が実施されていた。一方で、財政力指数が高い自治体でも、端末1台当たりの児童生徒数が多いと実施されておらず、GIGAスクール構想で進められている1人1台端末のインフラ整備が重要な役割を持っていることが確認された。

次に、学校を対象とした調査では、昨年11月時点でオンライン家庭学習に対応できている促進要因を分析したところ、学習指導員やICT支援員などのキーパーソンが支援人材として配置され、教育委員会の強いサポートが入っていることが分かった。

一方、阻害要因として挙げられたのは、▽校長が授業の最初に目標を設定するような伝統的な授業を重視する傾向が強い▽スマホ依存など生徒指導上の問題が多い▽学級数が多い――の3点。露口教授は「大規模校で生徒指導がちょっと大変で、校長先生が伝統的な授業にこだわる場合、オンライン家庭学習は進みにくかった」と説明した。

(露口健司・愛媛大学大学院教授の報告資料から)

さらに、ICTの活用段階に応じて、効果的な促進要因と、逆効果になる阻害要因があることも判明した=図参照

まず、幅広い活用段階で効果的とみられる要因は▽校長のICTリテラシー▽教育委員会の支援▽ICT推進への教職員の理解▽ICTを活用した授業準備のゆとり▽学習指導員などのキーパーソン――の5つ。

活用段階が低位にある場合には、学習指導員やICT支援員の配置が効果的で、高位にある場合には、校長の革新的授業観を持つことや個人情報を巡る議論を行っていること、ICT支援員の配置が効果的とされた。

一方、校長が平等分配志向を強く持っていたり、サイバー攻撃と個人情報流出への対応論議が不十分だったりすると、阻害要因になる。露口教授は「ICT活用が進んでいる学校に、伝統的な授業を重視して平等志向の強い校長先生が赴任してくると、一気にブレーキがかかってしまう。そういう解釈ができる」と指摘した。

シンポジウムでは、米国と英国の研究者がビデオクリップで研究成果を説明。エマ・ガルシア米経済政策研究所エコノミストは、コロナで社会経済的な格差が拡大し、それが教育機会の確保に影響を与えていることを指摘。ジュリー・ネルソン英国立教育研究基金(NFER)上席調査主任は、貧困率の高い学校の生徒がコロナ禍の影響を強く受けており、遠隔オンライン授業の取り組みが遅れるなど、教育格差の拡大が懸念されている状況を報告した。

また、堀田龍也・東北大学大学院教授は、コロナ禍でICT活用を巡る学校間や地域間の格差が表面化したことについて、「この大きなパラダイム転換の時期に、十分な意識の変容ができていないまま、今までのやり方を踏襲し続けようとしているリーダー層がいる学校や自治体は、新しい取り組みができなかったということだ」と指摘。

オンライン授業ができなかった理由について、「管理職によっては、『うちの学校だけ、やるわけにはいかない』とか、『特定のクラスだけやるわけにはいかない』という言い方で、バランスを取るために止めてしまったケースがある。校長会や教育委員会が足並みをそろえる装置として機能してしまい、特定の学校がオンライン授業に取り組むことを許可しなかった教育委員会もある」と問題点を具体的に挙げた。

さらに、一部の家庭に通信環境が整っていないことを理由にオンライン授業を実施しないと判断した例があったとして、「これは一見、もっともらしいが、家庭の事情がいろいろあるのは今までだって同じ。例えば、熊本市では、Wi-Fiがない家庭に機器を貸し出す対応をしてオンライン授業を実施した。そういう考え方を持てるリーダーシップが教育委員会や学校にあったかどうかが、今回の運命を分ける一線だった」と述べ、学校管理職や教育委員会によるリーダーシップの重要性を強調した。

公正で質の高い教育におけるICT活用の促進条件
(露口健司・愛媛大学大学院教授の報告資料から)
■コロナ禍でオンライン家庭学習を可能にした要因[教育委員会視点]
  1. 自治体の経済資本 (人口規模、財政力指数)。
  2. PC 等が配備されている。
  3. 個人情報保護について相当の議論を重ねている。
  4. 教育長の革新的授業重視傾向(問題発見・解決力、批判的思考、創造力、アクティブラーニング重視)。
  5. 情報教育担当の指導主事が配置されている。
■コロナ禍でオンライン家庭学習を可能にした要因[学校視点]
  1. 人的資源配置が重要(キーパーソンと支援人材)
  2. 教育委員会の支援が重要
  3. 校長の伝統的授業重視傾向が強い学校ではICT 活用が進みにくい。
  4. 生徒指導問題(スマホ依存)が懸念される学校ではICT 活用が進みにくい。
  5. 大規模校ではICT 活用が進みにくい。
■学校での積極的な ICT 活用を可能にした要因
  • 校長のリーダーシップ、社会関係資本の説明量が大きい。市区町村の影響は小さい。
  • 学校のICT 活用度の分布位置によって促進要因は異なる
○広域分布帯において効果的な要因
  • 校長のICTリテラシー
  • 教育委員会の支援
  • ICT推進への教職員の理解
  • ICTを活用した授業準備のゆとり
  • 学習指導員などのキーパーソン
○特定の分布位置で効果的/非効果的な要因
[低位]

効果的な要因:

  • 学習指導員や支援員の配置
[高位]

効果的な要因:

  • 校長の革新的授業観
  • 個人情報問題の検討
  • ICT 支援員配置

非効果的な要因:

  • 校長の平等分配志向
  • サイバー攻撃問題
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