学校現場で深刻化している、消毒作業をはじめとする数多くの感染防止対策。中でも、毎朝行われる児童生徒の健康状態のチェックは、教員だけでなく保護者にとっても大きな負担だ。そうした課題を解決しようと、茨城県つくば市では学校向けの体調チェックアプリを、市立小中学校に導入した。ICTの利活用によってコロナ禍の業務負担を軽減し、働き方改革につなげる同市の取り組みを追った。
手間が掛かる紙への記入
多くの学校では専用の「健康観察表」を用意し、そこに保護者が子供の体温や体調を手書きで毎日記入し、学校に提出するやり方が一般的だ。しかしこの方法では、学校での集計作業にも手間が掛かるため、ただでさえ消毒作業などで業務が増えている学校現場のさらなる負担となっている。

こうした問題を解消しようと、つくば市では学校が再開した昨年6月、地元の医療系ベンチャー企業で医療相談アプリを提供するリーバーと連携し、学校向けに体温や体調管理に特化したアプリ「LEBER for School」を市立小中学校に導入した。
このアプリを保護者がスマートフォンなどにインストールしておくと、自動で毎朝「体温・体調チェック」が通知される。それに基づき、保護者が子供の体温や体調を入力すると、その結果が各学校に送られ、パソコン上で集計結果が表示される仕組みだ。
朝の時間にゆとり、欠席連絡も激減
このアプリで健康観察を行っているつくば市立上郷小学校(藤井周哉校長、児童275人)では現在、8割以上の保護者がアプリから毎朝、子供の体温や体調を入力し、学校に情報が集約されるようになっている。
それまでは、児童が毎朝登校すると、体温や8項目の健康状況について保護者が記入した健康観察表を確認。検温を忘れたり、健康観察表で37度以上あったり、体調不良を訴えたりする児童は、保健室の前で養護教諭と教頭が検温や問診を行っていたが、これにより児童の体温や健康状態が把握でき、保健室での対応が必要な児童がすぐに分かるようになった。
また、これまでの体調不良の状況などもグラフで視覚的に把握でき、過去の体温変化や兄弟などでの状況も簡単に調べられるようになった。
同校の池田克美教頭は「担任はパソコンでクラスの児童一人一人の体温や体調の情報を確認しながら、話し掛けたり、表情を観察したりすることに時間を割けるようになった。特に低学年では効果的だった。慌ただしい朝の時間に、だいぶゆとりが持てるようになった」とメリットを話す。
昨年6月以降、アプリは改良が加えられ、現在では出欠や遅刻、早退の理由もテキスト入力できるようになっている。同校では、それまで電話連絡で行われていた欠席などもアプリに代替されるようになり、朝の時間帯に欠席連絡などで学校の電話が鳴ることも1日1~2件程度に減ったという。
また、アプリは児童だけでなく、教職員も使用しており、毎朝入力した「体温・体調チェック」を管理職が確認するようにしている。
藤井校長は「教職員の健康状態も把握できるので、風邪の症状だけでなく、メンタル面の変化にも早めに気付くことができる」と話す。
アプリによる健康管理がニューノーマルに
同アプリは現在、茨城県内の自治体をはじめ、学校単位での利用も広がっており、約5万人のユーザーが利用しているという。同社では3月末まで無料で利用できるようにし、4月からは1人当たり10円で提供する方針だという。

医師でもある同社の伊藤俊一郎代表取締役は「今後、GIGAスクール構想の実現で学校のICT化が加速すれば、こうした健康データを子供や保護者、学校が利用できるようになるだろう。インフルエンザやアデノウイルスなどの感染症の兆候だけでなく、そのさらに前の症状である鼻水や目の充血といった状態から情報をつかむこともできる」と語る。
その上で「ICTの活用で教員の負担を減らせれば、その分の時間を子供の成長や学びに充てられる。学校だけでなく、企業などでもこうしたアプリを利用した健康管理がニューノーマルとして求められるようになる」と話す。
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