「津波を知って」 被災した大学生が小学生に防災授業

あの日、「津波を知らない私」が海で遊んでいたら、いま生きていないかもしれない――。岩手県釜石市で小学3年生の時に東日本大震災で被災した経験を持つ、静岡大学1年の髙橋奈那さんをゲストティーチャーに迎えて、「あの日から10年」をテーマにした防災授業が、静岡県富士宮市立富丘小学校(風間裕之校長、児童779人)でこのほど行われた。

被災当時のことを子供たちに話す髙橋さん(左)と中川教諭

昨年度まで釜石市に移り住んで防災教育を研究し、今年度から富丘小の教壇に立つ中川優芽(ゆめ)教諭が授業を企画。3年生5クラスの各教室をZoomでつなぎながら、特別活動の一環として行われた。

「釜石市はどこか分かるかな?」

中川教諭が子供たちに呼び掛け、釜石市の地図を見せると、子供たちからは「すぐに津波が来そう」「海側だから土地が低そうだね」「津波が来たら被害がすごいんじゃない?」と声が上がる。

震災当時、釜石市内でも山側の小学校に通っていた髙橋さんは「津波という言葉は知っていたけれど、メカニズムなどは知らず、津波の映像なども見たことがなかった」と当時の状況について語った。

「たまたま、あの地震の時に山側の小学校にいたから助かったけれども、休みの日にはよく海の方に遊びに行っていた。あの日、もしも津波を知らない私が海で遊んでいたら、生きていないかもしれない。どうやって逃げればいいのかも分からなかったから」と振り返る。

南海トラフ地震で被害が想定されている静岡県だが、富丘小も髙橋さんが被災した小学校のように、学校自体は山側にあり、津波の浸水区域ではない。それでも髙橋さんは「いつ、どこで何をしている時に地震や津波がくるか分からない。だから津波の存在を必ず知っていてほしい」と児童たちに訴え掛けた。

これまで中川教諭の学級では防災に関する授業を行ってきたが、津波の映像は見せたことがなかった。映像を見る前に、子供たちに津波のイメージを聞くと、「波が高い」「とても多い水が押し寄せて来るイメージ」「強い波がきて、家が飲み込まれる」「逃げても逃げられなさそう」「町がぐちゃぐちゃになる」などと考えを出し合った。

その後、見たくなかったり、気分が悪くなったりした場合は机に顔を伏せるよう、事前に呼び掛けた上で、震災当日に釜石市で撮影された津波の映像を児童らに見せた。

「みんなのイメージと同じだった?」と投げ掛けると、児童らは一同に「高い波ではなくて、実際は泥の壁のようだった」「思っていたよりすごかった……」と圧倒され、改めて津波の威力に驚いているようだった。

同じ釜石市で被災していても、髙橋さんが津波によって街が甚大な被害を受けていたことを知ったのは、その日の夜のラジオだった。さらに、実際にその映像を見たのは、1~2週間後。同じ釜石市に住んでいても、山側と海側では状況も大きく違っていたという。

「津波が来ないところに住んでいるからといって、津波に関する勉強をしなかったら、どうなるか? 津波について知っていたら、高いところに逃げようという判断ができるけれど、知らなければ何もできない。津波の被害がないとされる学校でも、津波を学ぶ意義をぜひ考えてほしい」と髙橋さんは訴えた。

子供たちは「いつも海に遊びに行っているけれど、あんなにきれいな海がこんなことになるなんて怖い」「自分の家は川に近いから、危ないと思った」と感想を述べ、授業前と意識が大きく変化したようだった。中には、「この授業は絶対に忘れない」という感想もあった。

中川教諭は「本校の学区には、狭い道やブロック塀などが多い。地震から命を守るために、地域の災害特性に合わせた防災教育も重要だと考えている」と話し、「来年度以降は下校時の避難訓練にも取り組んでいきたい」と力を込めた。

次のニュースを読む >

関連