【国際女性デー】「校長の仕事は楽しい」 女性教員にエール

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の女性蔑視発言で、改めて日本のジェンダーギャップが問題視された。日本の学校における女性校長の割合は、公立小で20.6%、公立中で7.5%。国立女性教育会館が2018年に行った調査では、管理職になりたいと答えた女性教員の割合はたった7.0%で、「学校は教員の働く場であるとともに、次代を担う子供たちが男女共同参画を推進する意識を育む基盤となる、とても重要な場」と指摘された。教育新聞は3月8日の国際女性デーに合わせ、男女問わず活躍できる学校づくりについて、全国公立小・中学校女性校長会の会長を務める東京都墨田区立両国小学校の平林久美子校長に聞いた。


――平林校長は、日本の公立小で約2割に過ぎない女性校長のお一人です。これまでのキャリアをお聞かせください。
全国公立小・中学校女性校長会の会長を務める東京都墨田区立両国小学校の平林久美子校長

もともと学校の枠からはみ出してしまう子供たちに関心があり、大学では社会福祉を専攻、児童相談所で実習も行いました。その後、兵庫県西宮市の山間部にある児童養護施設で、児童指導員として住み込みで1年ほど働きました。子供たちの保護者として関わる中で、子供たちの負の連鎖を断ち切るには学力を身に付けさせることが大切だと実感し、通信教育で小学校の免許を取得しました。

東京都渋谷区、大田区の小学校で担任を務めた後、新宿区教委で4年間、指導主事を経験しました。指導主事になったのは42歳の時で、ここで「いずれは校長になる」という思いが決まりました。「こんな学校を作りたい」と思わせるような先生たちに出会う機会に恵まれたことが大きかったと思います。その後は墨田区の小学校で副校長、校長を務め、今年3月で定年退職を迎えます。

女性だという理由で苦労したことはさほどないですが、「女性でこの学校に(校長として)来るということは、よほど優秀なのでしょうね」という言葉をかけられ、困惑したことはあります。それでも、「女性でよかった」と思うことの方が多いですね。

私は子供を授からなかったので、子育てに奮闘するお母さんたちを本当にリスペクトしています。家事の大変さも分かるので、「母親たるもの、こうあるべき」といった考え方は持っていません。保護者と本音で話せたことも多かったと思います。

全国公立小・中学校女性校長会の会長は2018年から務めています。同会は今年70周年を迎えますが、かつては全国の数少ない女性校長たちが、「なぜこの学校に女の校長をよこした」という地域の反対運動にもめげず、力を合わせて研さんを積んでいたということです。1951年の発足時に80人だった会員は、今年度には4379人にまで増えました。

公立小教諭では女性が多いが、管理職では割合が低くなる(文科省「学校教員統計調査」2019年度、中間報告)

とはいえ女性校長の割合は、小学校で約2割、中学校は1割に満たない状況です。公立小学校では、女性教諭は6割を超えますが、管理職になると低下していきます。私たち女性校長がそれぞれの地区で、本当の意味でのリーダーシップを取れる立場になるためには、まだまだ地道な努力が必要です。

――とはいえ学校は、子供たちが初めて出会う「社会」でもあります。

数年前、2年生の女子児童に「女の子も校長先生になれるのか」と聞かれたことがありました。この学校で私は初めての女性校長。校長室には歴代の男性校長の写真がずらりと並んでいます。「児童もそんなふうに思うのだな」と感じました。

また1年生の男子児童が、私のことを何度も「園長先生」と呼ぶので「校長先生よ」と正すと、「女の人だから園長先生でしょ。校長先生は男の人でしょ」と。たしかに幼稚園や保育所には女性の園長が多いですが、この男の子はイメージだけで「女の人は園長、男の人は校長」と思い込んだのでしょう。

だから森元会長の女性を巡る発言が問題になった後すぐに、週に1度の全校放送で子供たちに呼び掛けました。「いつまでも森元会長を責めるだけではいけない。自分たちの心の中にも『女のくせに、男のくせに』という考えはありませんか」と。

「『男なのだから、泣くな』と言われても、男の子だって泣きたいときもある。五輪では、女性が参加できる競技も増えています。かけっこをして『男子に負けるならまだよいけど、女子に負けたら悔しい』なんて、心の中で思っていませんか」と伝えました。

――管理職を望む女性教員が少ない背景には、「担任を持って子供と接していたい」という事情もあるようです。
同小初の女性校長。校長室には歴代の男性校長の写真がずらりと並ぶ

校長が事務的な仕事ばかりで、子供と関わっていないように見えるとしたら、それは私たちが反省すべき点です。本来、みんなで学校づくりをしていて、そのチームのリーダーが校長なのだと思えば、それも悪くないと思いませんか。先生たちと一緒に授業や学校づくりを考えたりすることで、子供が成長していくのを見るのは、やりがいがあります。

また、学校内のそれぞれの教室で起こっている良い実践を知ることができるのは校長ならでは。担任の先生たちはみな謙虚で、どうしても課題ばかりに目が行きがちです。「成果が見えてこない」「うまくいかない」と言っているわりに、「学校全体としてこれほど成果が上がっている」ということに気付きにくい。複数の教室で見えた共通の成果を、それぞれの先生にフィードバックして、共有するのが校長の大切な役割だと感じています。

現場の若い先生たちは、校長に「やらされている」ことを嫌がります。私も校長になって日が浅いころは、大きな方針を伝えたらそこで任せて、自分は引けばよいのに、石橋を叩いて余計な確認をしたり、やり方にまで口を出したりしてしまうこともありました。

本来、ゴールとなる理想を伝えて理解を得たら、あとは現場に任せるべきです。「校長に言われたから、いやいややった」というのではなく、「自分たちでやった」と思えるようにしたほうがよいのです。

私は1カ月もたたず定年退職を迎えますが、学校づくりのリーダーとして若い教員たちと学び続け、一緒に考えていくことは本当にやりがいのある仕事で、本当に楽しかったと心から感じています。

――家庭との両立が難しいという声もあります。家庭内での分担だけでなく、学校の働き方改革も必要では。

家庭の中でも男女共同参画がなされることが大切だと、痛切に感じています。ただ、今の子育て世代は男女問わず家庭科を履修した人が多く、街中でも赤ちゃんを抱いたお父さんの姿をよく見かけるようになりました。夫婦で助け合うのが当たり前になりつつあるのではないでしょうか。私も男の先生たちには「もうやっていると思うけど、奥さんと助け合ってね」と声を掛けています。

働き方改革は「とにかく早く帰れ」となりがちですが、本校の先生たちが最近になって気が付き始めたのは、校内でいろいろなものを共有することが、一見遠回りに見えても働き方改革につながるということです。

本校では校内のフォルダを整理して、先生たちがそれぞれ作った教材や校務のデータなどを共有し、「誰かが作ったものはみんなのもの」という感覚で活用しています。例えば本校では、全クラスが同じフォーマットを使って学級だよりを作っています。私は一言も「やれ」と言っていないのですが、先生たちが気付いて使い始めたのですね。

その結果、保護者からの苦情が減りました。これまでは、きょうだいで本校に通う子供たちの保護者から「上の子はやっているのに、下の子はどうなっているのか」といった苦情がありましたが、全て同じフォーマットで情報が提供されるので、保護者が疑問に思うことが減ったのだと思います。

これはフォーマット共有の手間を惜しまないことで、かえって働きやすくなった例です。一方で本当に業務の量を減らした方がよい場合もあるでしょうから、見極めが大切です。

――男女問わず働きやすい現場を作るには、何が必要ですか。

現場の先生には何より、仕事を楽しんでほしいです。とはいえ、心の病気になったり子育てとの両立に苦しんだりと、大変な時期はあるものです。そうした時、組織として助け合えるシステムが必要です。例えば子育て中の先生が休暇を取っても、代わりの先生や、定年退職後の非常勤の先生などに授業に入ってもらうなど、最終的に子供が損をしないような補教体制を作らなければなりません。

その上で、誰かが大変な時期には快く助けてあげられる心のゆとりが大切です。誰かが失敗したとしても、「あいつが失敗した」と責めるのではなく、「職場で起きた、私たち全員の失敗」として再発防止をする。失敗した先生は「職場改善への気付きを与えてくれた」と考える。私自身、若い頃にこうしたゆとりが持てていたかというと、それは反省しきりですが、働いている中で同僚の先生たちが気付かせてくれたことです。

私は、子育て中の女性教員が肩身の狭い思いをしなくてもよいようにしたいとは思っていますが、特段、女性を優遇してほしいとは思っていないのです。とはいえ、女性が損をするような制度は見直してほしい。

例えば管理職になる際、フェアな試験ではなく、校長や教育長の推薦を求める自治体もあります。男性の校長や教育長の場合、同性の男性なら安心して推薦できるけれど、女性を推薦したら「ご主人から文句を言われる」など、推薦しづらいというケースを耳にしています。また、年次に応じた研修の時期がちょうど子育ての時期と重なり、同期の男性教員が管理職候補となる中、「自分は路線から外れた」と女性教員が感じるのも残念です。

学校管理職は、家庭内で助け合い、職場で助け合えば、女性ができない仕事ではありません。男女問わず普通に助け合って仕事ができる世の中は、もう目の前に来ているのではないでしょうか。現在20~30代の先生たちが、40~50代を迎えるころにはそうなっていてほしいし、私もそれを見届けたいと思っています。

【プロフィール】

平林久美子(ひらばやし・くみこ) 1961年、東京都千代田区生まれ。関西学院大学社会学部卒。児童指導員、東京都渋谷区・大田区立小教諭、新宿区教委指導主事を経て2006年度、墨田区立小副校長。11年度から墨田区立曳舟小校長、16年度から同両国小校長。18年度から全国公立小・中学校女性校長会会長も務める。

次のニュースを読む >

関連