LITALICO野口晃菜氏と中教審答申を読む 特別支援教育

中教審が1月に答申した「令和の日本型学校教育の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を両輪に、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿を描いている。中でも特別支援教育では、インクルーシブ教育の実現に向けた環境や条件の整備がうたわれ、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校などを通じた連続性のある多様な学びの場の充実を求めた。特別支援教育に関する内容の土台を作った、文科省の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の委員を務めたLITALICO研究所長の野口晃菜氏に、答申の意義と課題をインタビューした。


発達障害について教師が学びやすく
――まずは、答申に対する率直な評価を教えてください。
「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の委員を務めた野口氏(LITALICO提供)

今回の答申では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両方の観点を打ち出しています。一人一人に合わせるという、特別支援教育がこれまでやってきたことが、通常の教育の中でも大事にされていくことになります。特別支援教育の研究をしていく中で、通常の教育そのものが変わらないと難しいと、限界を感じていた部分があったので、通常の教育と特別支援教育の融合を考えてきた私としては、今のところ前向きに受け止めています。

また、GIGAスクール構想によって、学校のICT環境が整うことは大きな意味があります。障害の有無に関係なく、ICTが導入されることについては、これまでも非常に困っていた部分があったので、ありがたいです。ICTを活用した上で、その子に合った指導方法を考えるのはやはり教師なので、どのようにICTを活用していくか、試行錯誤が求められます。

子供のアセスメントや個別の教育支援計画・指導計画の情報を、本人の了承を得てどこまで共有するかも課題です。

――答申では、増加する発達障害への対応に関しても、かなり充実させたという印象です。
答申における特別支援教育のポイント

発達障害は障害種の中で最も人口が多いにもかかわらず、誰がちゃんと彼らの学びを保障するかはあいまいなままでした。

有識者会議でも新たな免許状の創設など、さまざまな議論が行われましたが、特に教員養成段階において、どの校種でも発達障害について学びやすくするという方向性は大きな前進です。

今、学校現場では特別支援学級や通級による指導を新たに担当する教員が増えています。学級担任を持てば、発達障害のある子も含めた多様な子供が過ごしやすい学級づくりを実践していく必要があります。

あらゆる教員が発達障害について理解を深めていけるようにするのと同時に、専門的な知見を踏まえてスーパーバイズできる人材も増やしていく必要があります。GIGAスクール構想によって、オンラインを活用して他の学校にいるベテラン教員に相談したり、関係機関とケース会議を開いたりするといった試みも増えるのではないでしょうか。

誰もが過ごしやすい学級づくり
――コロナ禍によって、少人数学級の議論も大きく前進しました。

やはり、個別最適な学びを考えたときに、40人学級は多すぎると思います。特に発達障害のある子にとって、今のクラスサイズは外からの刺激が多すぎて過酷な環境だと言えます。

しかし、単に学級が少人数になれば発達障害の子が過ごしやすくなるというわけではありません。発達障害がある子も、そうでない子も、それぞれに過ごしやすい環境というものがあります。誰もが過ごしやすくするには、どんな教室にしていくべきか。教師がトップダウンで決めるのではなく、子供が主体的に関わりながら、教師も一緒になって考えていくことが大切です。

そういう学級は、発達障害のある子にとって合理的配慮を求めやすくなるだけでなく、あらゆる子が自分の意見を伝えやすくなり、学級経営においてもプラスに働くと思います。

特別支援学校との垣根を低く
――特別支援学校の役割はどのように変わっていくでしょうか。

私は、通常の学校での体制が整ったら、ゆくゆくは特別支援学校ではなく、地域の学校で学べるようになることが良いと思っています。そこに向けた現状の課題としては、通常の学校との交流が挙げられます。

東京都では、特別支援学校に在籍する児童生徒が地域の公立小中学校に副次的な籍を置くことで、交流をしていますが、こうした取り組みには地域差があるのが現状です。しかし、特別支援学校に通っている子も、卒業すれば地域で生活します。そのときに、地域で知っている人が誰もいないという状況は問題です。

また、特別支援学校がセンターとしての役割を果たして、通常の学校にいる障害のある子への対応について、気軽に相談できる体制づくりも必要です。

通常の学校の教師も、特別支援学校の教師も、あまりお互いの学校のことをよく知りません。そこで、人事交流を活発に行っている地域もあります。こうした交流を進めながら、通常の学校と特別支援学校の垣根を低くしていければ、インクルーシブ教育への理解も広がると思います。

インクルーシブ教育を促す個別最適な学び
――インクルーシブ教育の実現は、学校現場の課題が依然として多いと感じます。

通常の教育で個別最適化が進んだら、インクルーシブ教育は非常にやりやすくなると思います。全員が同じペースで、同じやり方で、同じ内容を学ぶという前提があったわけですが、それをなくしていくというのが今回の答申のポイントです。その前提がなくなれば、特別支援教育を受けている子もそれぞれのペースで学べるようになります。もちろん、そのためにはICTを活用したり、学級の人数を減らしたりといったことは必要だと思いますが、これまでの前提がなくなれば、障害のある子が一緒に学べる場面は格段に増えるのではないかと思います。

特別支援学級の子供の交流と共同学習の時間を増やして、通常の学級の中で個別化した学びが可能な教科だったり、それができる授業であれば、一緒に学ぶ場面を増やせると思います。

今回の答申が、「一斉指導か個別指導か」「オンラインかオフラインか」という二元論的な考えではないと指摘していたように、インクルーシブ教育も「全ての時間一緒か全ての時間一緒ではないか」という話ではありません。一緒にいることだけが目的ではなく、一緒にいながら、かつ必要な学びにアクセスできること、その結果、共生社会を形成していくことが重要です。一緒にできる部分はなるべく一緒に、個別で学んだ方が良い部分は個別で学ぶという形になっていくといいと思っています。

これは、特別支援だけに当てはまる考えではありません。誰もが、みんなで学びたい場面と一人で学びたい場面があります。障害の有無にかかわらず選べるようにしていくことが大事です。教師は、決められたものを教えるという前提から脱却し、主体はあくまで子供であり、一人一人に合わせて学ぶ目標を立てて支援するという観点に転換しなければなりません。これまでも、特別支援教育は個別の教育支援計画と個別の指導計画を作ってきました。特別支援教育でできていたのだから、不可能ではないはずです。

これからは、そうした実践事例を横展開しながら意識を浸透させていき、共に過ごし共に学ぶ学校を少しずつ増やしていければと思います。インクルーシブ教育は決して新しい概念ではありません。一人一人の学びを保障して、社会の中で自分らしく生きるために何が必要か。明確に定まった答えなど出ない中で、教師が子供たちと一緒に考え、サポートしていくことが求められているのです。

(藤井孝良)

【プロフィール】

野口晃菜(のぐち・あきな) LITALICO研究所所長。インクルーシブ教育の実現を目指し、自治体などと連携して障害のある子供に合った支援を研究する。著書に『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』(SB新書、共著)、『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する:コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス』(中央法規出版、共著)などがある。

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