【GIGA到来】三田村・全日中会長に聞く「校長の役割」

全国各地の学校現場にGIGAスクール構想の1人1台端末が続々と届き始めている。先進事例の活用法は聞いていても、いざ手元に届いたらどうするか、戸惑う学校現場の声も聞こえてくる。全日本中学校長会(全日中)の三田村裕会長が校長を務める東京都八王子市立第七中学校は「決してICTの先進校ではない」と校長自身が認める、ごく普通の公立中学校の一つ。そんな同校で三田村校長は、最初からハードルを上げることなく、使いやすいところからどんどん使う方針を決めている。「教員たちはいったん良さを実感すれば、爆発的に取り組み始めるはず。とにかく教員たちに効果を実感させることを心掛けたい」。こう語る三田村校長に1人1台端末の導入方針と校長の役割を聞いた。

指導する教員も「何に使えるか分からない」
 ――1人1台端末の現状について教えてください。
東京都八王子市立第七中学校の三田村裕校長(2020年5月撮影)

つい先週、学校にタブレットが届いたばかりで、まだ生徒には渡していません。配布は新年度になるでしょう。来週、全ての教職員を対象に基本的な使い方などの研修の機会を持つ予定です。

使用上のルールについては市教委から保護者向けの方針が出されていますが、本校での細かいルール作りは正直、これから。春休みの宿題になると思います。通信環境の面でも、多くの端末を同時に接続できるかなど未知数のところはあり、いろいろと試しながら、手探りで進めていくことになりそうです。

本校はICTの先進校ではないので、まずは「ハードルを高くしないで、使えるものはどんどん使ってみよう」という方針です。いきなりハードルを上げてしまうと、ICTに慣れた若い教員はよいかもしれないけれど、40~50代の教員では乗り遅れる人も出てきます。

私自身は新しもの好きで、私生活でもインターネットやパソコンを使うので、抵抗感はさほどありません。全日中の会長として中教審などの議論に加わる中で、GIGAスクール構想の青写真が理解しやすい立場にいたことも、変化を前向きに受け止めている理由の一つかもしれません。

ただこれからは、どんな人でもICTを使えなければいけない。まずはこれまで生徒のノートに考えを書かせ、発表させて板書していたのを、タブレットを使って一気にシェアするといったレベルの使い方でよいと思っています。そして時間の面でも、指導の効果としても「効率がよいな」と一人一人の教員に実感してほしい。

ハードルを上げないという意味で、ICT先進校の事例はあえて、まだ校内では共有していません。いきなりすごい取り組みを見せられてしまうと、「うちにはできないね」で終わってしまうかもしれないからです。

 ――届いたタブレットを眠らせることなく、しっかり活用するには。

私の経験では、教員は一度良さが分かると、爆発的に取り組み始めます。だからハードルを低くして、まず良さを実感させる。そうすればおのずと浸透していくはずです。本校では、昨年のコロナ禍での臨時休校の経験は大きなものがありました。教員が自主的に動画作りを始め、学びの保障に取り組む上で、ICTの良さと必要性を痛感したようです。

また学校再開後には、遅れてしまった授業時数を確保するために、授業を効率化する必要に迫られました。「できるだけ短時間で、いかに生徒がギブアップしない授業をするか」と考えたことで、授業改善に大きな効果がありました。

これまで国語や社会などでは、教員が生徒に背中を向けて膨大な板書をして、生徒がそれを書き写していたのですが、「この時間をいかになくすか」と考えて、あらかじめ作成しておいたパワーポイントでスライドを映し、必要に応じてチョークで書くようにしました。ICT先進校のようにハイレベルではなく、原始的とも言えるやり方かもしれませんが、このような使い方をいろいろな場面で工夫するようになったのです。

こうした工夫だけで生徒が受け身で授業を受ける時間が減り、主体的に取り組む時間が増えました。それを経験した教員は、これまでピンときていなかった「主体的・対話的で深い学び」という方向性を肌で感じたようです。中教審の答申にあるような、未来の教育のあるべき姿を、意識し始めたとでもいうべきでしょうか。

その空気を察知したので、私も「旧態依然とした教員ではいけない」とハッパを掛けています。生徒からの学校評価で「もっとICTを活用してください」と言われる時代です。学校が変わらなければいけないと感じます。

地方の校長先生と意見交換する中でも、ICTの活用そのものに否定的な人は見当たりません。しかし現時点での課題は、端末が届いたばかりで指導にあたる教員側も「何に使えるのかわからない」「どんなトラブルが起こるかわからない」ということです。

例えば学習進度が早い子供が、先に課題を終えたからといってYouTubeの動画を自由に見てよいのか。休み時間に端末を使ってゲームをしてよいのか。世間はもっぱら「どう活用するか」に注目しますが、実際にはさまざまな場面でのルールや指導が必要で、そうした適切な使い方の土台ができていないことを不安に思う声があるのは確かです。

「GIGAスクール」という新しい言葉に尻込み
 ――学校にはさまざまな世代の先生がいます。校長として、どのようにICT活用を推進していますか。

20代から30代前半はICTを身近に体験してきた世代で、端末をいじりながら自然に使えるようになる人が多いですね。コンテンツ、アプリが変わるだけで、活用への抵抗感はまったくなく、効率化といったメリットにすぐに目が行きます。

50代でもICTが好きな人は少なくないのですが、若い世代と比べると抵抗感はあるようです。とはいえ、「食わず嫌い」があるのも確か。必要に迫られて、仕方なくパワーポイントを使ってみたら「なんだ、すごく楽じゃないか」と気付くケースもあります。

校長としては先に述べた通り、とにかく良さを実感してもらう、それだけです。学校現場は「GIGAスクール構想」といった新しい言葉に弱く、どうしても高尚なものと捉えてしり込みしてしまう傾向があります。「主体的・対話的で深い学び」だって決して新しいものではなく、これまで学校教育がずっと目指してきたものですが、新しい言い回しに変わっただけで、全く違う理念の教育が求められているかのように感じてしまう。

そうではないと理解するためにも、とにかくちょっとしたことでいいから、使ってみる。日常生活の中でも新しい家電が次々と出てきますが、私たちはそれに適応しているわけです。同じようにICTの利便性に気付くことができれば、自ら勉強しはじめる教員がたくさん出てくるでしょう。

 ――三田村校長が特に大きいと感じるICTのメリットは。

まずは、コンテンツをシェアしやすいこと。それから、数や場所に制限がないことです。離れた教室や他校とも共有ができ、距離の問題をクリアできるメリットは大きい。

あとは何より、自らを振り返るツールになることです。体育の授業で使う例を考えると分かりやすいかもしれません。しばしば「自分は意識して跳んでいるのに、先生にはできていないと言われてしまう」ということが起きますが、友達同士で確認しあっても、生徒ではよく分からないこともあります。

そうした時にタブレットのカメラを使って撮影すれば、外部の目で客観視できる。撮影した動画をスロー再生して、教員がポイントをチェックし、クラスで共有することができます。こうした振り返りができるツールは、例えば小学生から中学生にかけて長期的に自身の生き方を考える、キャリア教育でも使えると思います。

 ――軌道に乗るまでは、学校現場の負担も大きいのでは。

ICTに慣れるための準備の時間はどうしても必要なので、そこに時間をかけられるようになれば、もっともっとICTが使われるようになると思います。本校では学級通信や通知表の所見をなくすなど、校務の精選をはじめとした働き方改革を進め、その分、ICT研修などの時間を作るようにしています。

この1年はコロナ禍で、教員が長期休暇を自分の栄養補給に使えませんでした。感染状況が少し落ち着いて従来のスタイルに戻れば、長期休暇を利用して新たな教材作りなどを進めることもできるでしょう。

学校全体として「ICTアレルギー」は、ほとんどなくなってきました。この4月からは保護者からの欠席連絡はアプリを使って行うことにしています。「授業での活用以外にもいろいろな使い道がある」という理解が、本校にも共有されつつあります。

(秦さわみ)

【プロフィール】

三田村裕(みたむら・ひろし) 1960年生まれ。東京都出身。都の国語の教員として教職生活をスタート。府中市立府中第五小学校校長、府中市教育委員会教育部副参事兼指導室長などを経て、2016年から八王子市立第七中学校校長。信念は「公平・冷静」、座右の銘は「われ以外みなわが師」。趣味は鉄道のある風景の写真を撮ること。

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