コロナ禍で増える子供の自殺 学校現場は何ができるのか

コロナ禍に見舞われた2020年、警察庁が3月16日に公表した小学生から高校生までの児童生徒の自殺は499人と、過去最多となった。コロナ禍で居場所やゆとりを失い、追い詰められていく子供たちに、学校は何ができるのか。学年が上がるなどして新しい環境への不安や緊張が高まりやすい春休みを前に、子供の自殺を防ぐための手だてを専門家に聞いた。

小学校からのメンタルヘルス教育を
窪田由紀教授(本人提供)

「コロナ禍で大変だったこの1年、頑張ったことや成長したことを振り返る『棚卸ろし』をしてほしい」

そう呼び掛けるのは、文科省の児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者の一人で、臨床心理学が専門の窪田由紀九州産業大学教授だ。子供たちにとっては、楽しみにしていた学校行事が中止となった上に学習の遅れを取り戻すために授業ばかりとなり、感染を防ぐためにさまざまな制約下で学校生活を送らなければならなかった。こうしたストレスフルな環境で過ごした1年が終わり、また新たな1年が始まろうとしているこのタイミングで、少しでも自尊感情を高めて4月を迎えるためには、教員も含め、この困難を一緒に乗り越えてきた仲間同士でお互いの良いところをフィードバックする時間をつくる必要があるという。

窪田教授は、自殺予防には自分の心の状態に気付き、心が発する危険信号をキャッチできる力と、身近な人に援助を求められる力を身に付ける必要があるとし、そのためには、学級をはじめとする子供の居場所を、いかにサポーティブな環境にするかが重要だと指摘する。

「日本では他人に迷惑を掛けずに、自分で何とかしようとする意識が強いが、信頼できる人に相談して、問題解決できることも立派な力だ。お互いのことを思いやり、気持ちが前向きになるような言葉を意識していけば、全体の雰囲気が変わり、相談やSOSを出しやすくなる」と窪田教授。コロナ禍が続く中で、そうした下地を学校現場でしっかり作っていくことが、自殺予防だけでなく、いじめや不登校の予防にもつながると話す。

また、窪田教授は学校の授業の中で、小学生のうちからストレスや心の病について学ぶことを提言する。高校の新学習指導要領では「保健体育」の内容に、新たにうつ病などの精神疾患が加わったが、小中学生がこうした心の病について知り、薬やカウンセリングについて正しく理解する場があれば、自分の心の状態に気付きやすくなり、大人になってからも早期に支援を得やすくなる。

窪田教授は「早期からメンタルヘルス教育を行っておけば、生涯にわたる自殺予防になる」と説明する。

生徒理解に始まり、生徒理解に終わる
生徒同士のペアワーク(阪中さん提供)

同じく、文科省の調査研究協力者である元中学校教員の阪中順子さんは、長年、子供の心の危機についての授業やカウンセリングを実践してきた立場から、学校などに出向き、講演や教員へのアドバイスを行っている。出前授業では、日常生活の中で小さな幸せを感じる瞬間を探したり、心の危機がどんな状態か、また、どう対処するかをグループで出し合いながら考えたり、心の危機を支え合うロールプレイを行ったりする。「人に話すことで自分の考えを整理でき、友達と意見を交わすことで対処方法が豊かになる」と話す。

コロナ禍が続き、授業時数に余裕がない状況にもかかわらず、自殺予防教育に取り組み、子供が心の危機を乗り越える力を培おうとしている学校や教育委員会もあり、現場の努力を肌で感じているという。

また、「教育相談週間を年に1、2回でも設け、先生が子供の気持ちを分かろうとすることが、子供の安心につながる。まずは子供の話を聴くこと。分かろうとしていることが子供に伝われば、そこから関係が始まる。大人に甘えることができない子供こそがハイリスクだ。そういう子供が甘えられる場所の一つが学校だ」と阪中さん。

ここ最近で教員の意識も変わりつつあり、子供の問題行動に対して頭ごなしに叱責するといった従来の生徒指導観から、その子供がなぜ問題行動を起こしたのか、子供に寄り添う教育相談の視点で子供を理解し、信頼関係を築こうとしていると感じることが多いといい、「生徒指導は生徒理解に始まり、生徒理解に終わる。そういう意識を持った教員は確実に増えている」と話す。

一方で、学校現場のマンパワー不足は深刻だ。阪中さんは「スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門職を増やし、『チーム学校』として連携することはもちろん大事だが、子供と専門職をコーディネートする役割を担うのはやはり教員だ。非常勤講師を配置するなどして教育相談や生徒指導を担当する教員らの受け持つ授業を少なくし、子供と向き合う時間を確保することも不可欠だ」と指摘する。

「TALKの原則」で聴き役に徹する

子供の自殺の増加には、医療現場でも懸念の声が上がる。精神看護の専門看護師である田端恭兵さんは、「聴くこと」の大切さを強調する。自殺が起こる条件には①自殺を強く考えるようになっていたり、常に暴力にさらされていたりしている状態(自殺の潜在能力)②ストレスを感じたり、「自分は生きているだけで迷惑な存在だ」と思っていたりする(負担感の知覚)▽居場所がなく孤立している(所属感の減弱)――の3つが重なって起きるとされている。少しでも気になる子供がいれば、②や③につながることがないか聞いてみたり、「死にたくなる気持ちはありますか?」と、あえてストレートに尋ねたりすることもあるという。

その際に意識したいのが▽Tell=心配していることが伝わるように真剣に話しかける▽Ask=自殺についてはっきり聞く▽Listen=相手の訴えに耳を傾ける▽Keep safe=「一緒にいよう」「一人じゃないよ」と伝え、安全を確保する――の「TALKの原則」だ。さらに、心配していることを相手に伝えるには「『私は』とても心配なんだ」と、「アイメッセージ」で呼び掛けることが効果的だという。

「相手の話を真剣に聞き、相手が話したいことを質問する。そして、アドバイスをしないということが大切。アドバイスをすると、そこで話が終わってしまい、相手が望んでいないことを押し付けることになってしまいかねない」と田端さん。特に教師や大人が子供に話を聞くときは、どうしても助言や指導をしようとしてしまいがちになるので、気を付ける必要があると指摘する。

また、心配な子供と関係を築くときには「困っているときに気軽に相談できる人はいるの?」と聞いてみることも有効だという。もしその相手が誰かを教えてくれれば、その人と連携することができるし、たとえ教えてくれなくても、そういう存在がいるということは、他の人にも相談する可能性があるということであり、関係性を築けるかもしれないからだ。

田端さんは「日本でうつ病や不安障害など、何らかの精神疾患にかかる人の割合は18%と報告されており、5人に1人は精神的に苦しんでいると言える。教室の子供たちが、自分や友達、家族に対して、何らかの違和感や不安を覚えているかもしれない。それを早めにキャッチして、専門家につなげてもらえたら、重症化しないで済む可能性がそれだけ高くなる。教師が一人で抱え込むにはあまりに大きな問題だ」と、医療と教育の連携の必要性を強調。精神医療の専門家が学校で心の病について授業を行うことや、こうした専門家に教師や子供が気軽に相談できる体制をつくることを提案する。

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