【GIGA到来】本格運用までのステップ 藤川教授に聞く

GIGAスクール構想の1人1台端末が整備されるにあたり、文科省は全国の教育委員会に向けた本格運用時チェックリストを先月、通知した。管理・運用の基本から組織作りまで網羅された内容だが、端末が届いたばかりの教委や学校現場では、いきなり全てを整えることは難しいかもしれない。どこから着手し、軌道に乗せていけばよいのか。千葉大学教育学部で教育方法学・授業実践開発を専門とし、附属中学校の校長も務める本紙「オピニオン」執筆メンバーの藤川大祐教授に、本格運用に向けたステップを聞いた。

クラウド活用や持ち帰りにハードル
――文科省が3月12日、「GIGAスクール構想 本格運用時チェックリスト」=図表=を全国の教委に通知しました。
文科省が教委向けに通知した本格運用時チェックリスト(出所:3月12日文科省通知「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」)

よくできたチェックリストで、「きちんと運用するには、このくらいやらなければいけない」と分かります。ただ、この4月から全てをこなすことは厳しいでしょうから、このチェックリストを参考に、時間をかけて準備していくことになると思います。下手をすれば1~2年はかかるのではないでしょうか。

これは本格運用時のチェックリストなので、まずは試行的にやってみることが必要です。GIGAスクール構想で整備される端末は家庭への持ち帰りも想定されていますが、最初は持ち帰りをせず、学校で使うだけにすれば、確認すべきことは格段に減ります。導入後、しばらくは学校内だけで管理し、授業ごとに持ち出しては保管場所に戻すという運用なら、学校外でのトラブルもなく、すぐに活用することができます。

クラウド利用というGIGAスクール構想の原則も、学校現場にとっては一つのハードルになるかもしれません。クラウドサービスの利用には、IDやパスワードを一人一人に割り当てる必要がありますが、子供にとってIDやパスワードの管理は容易ではなく、管理のためのルールが必要になります。

例えば当面は端末を持ち帰らないこととして、誰が何番の端末を使うかを決め、端末にIDとパスワードを貼っておくという運用も考えられます。しかし誰もが見られる状態になってしまうとセキュリティー上、問題があるので、保管場所などの検討が必要です。

こうした課題があることを考えると、1学期はウェブの検索や写真撮影などのシンプルな機能から始めて、クラウドサービスについては夏休みにID・パスワードの発行準備をするという形でもよいと思いますし、難しければ1年かけてもよいと思います。1~2年をかけて段階的に、想定している活用に到達できるよう計画を立てて進めるのがよいでしょう。

まずは写真や動画の撮影など、シンプルな機能が使えるだけでも、これまで何もなかった状況と比べれば、授業の幅はかなり広がると思います。

――初めての取り組みで、どんなトラブルが起こるか想定できないという学校現場もありそうです。
1人1台環境の本格運用に向けたステップについて解説する藤川大祐・千葉大学教育学部教授・同学教育学部附属中学校校長(Zoomで取材)

私が校長になる前のことですが、千葉大教育学部附属中では5~7年ほど前、保護者負担で1人1台端末を整備し、実証実験を行いました。やはり1人1台の環境は、探究学習を行う上では理想的だと言えます。生徒が気になることを調べ、まとめて、発表するには必須のツールだと考えます。

数学ではグラフの描画ができるアプリを入れ、理科ではシミュレーションをするなど、教科ごとの工夫が可能でした。カメラ機能も便利で、体育では自分の運動の様子を撮影して確認する、理科では実験の写真を撮りながら結果をまとめ、発表するなどの活動ができました。

端末は5万円のタブレットでしたが、故障が多かったことが問題となりました。紛失については聞いていませんが、机からの落下や、自宅に持ち帰る途中での破損などが頻発しました。その場合は学校側で修理し、予備の端末を貸し出すなどしていましたが、今回のGIGAスクール構想では、そうした対応を取れる学校ばかりではないはずです。

大きな問題は生徒の机のサイズ。すでに教科書、ノートでいっぱいなのに、さらにタブレットを置くとなれば、落下が頻発します。デジタル教科書に移行していて、教科書とノートの両方の機能をタブレットで活用できればよいのですが、紙の教科書と併用している段階では、作業がしづらいことが予想されます。

もう一つの問題は、休み時間に端末を使ってゲームをしたり、YouTubeを見たりする生徒がいたことです。端末使用についてあまり厳しいルールは設けず、生徒の自主的な判断に任せていたのですが、やはりインターネット上のトラブルの懸念はありましたし、「学習のための道具を使って遊ぶことは望ましくない」という教員の声もあったようです。

今回のGIGAスクール構想の端末は先月に本校へ届き、5月に始まる総合的な学習の時間での探究活動に使えるよう準備しています。これまでの経験から、生徒たちに運用方法について考えてもらう時間を十分に確保し、急ぐことなく運用を進めていきます。

「お金」と安全に関する方針は教委で
――チェックリストでは「端末を家庭に持ち帰るときのルール」の作成・共有が求められていますが、端末の持ち帰りはハードルが高いという声もあります。

端末を家庭学習に活用できるならば、それに越したことはありません。ただ課題も多く、現実的にはかなり大変だと思います。まずはセキュリティーの問題。フィルタリングの方針は当然、考えなければいけないでしょう。また、家庭によってネットワークへの接続の仕方が違いますし、そもそもネット環境がない家庭も少なくありません。

さらにタブレットの持ち運びは、子供にとって大きな負担です。デジタル教科書ならよいのですが、紙の教科書やノートに加えてタブレットを持ち帰るとなると、子供たちのかばんは相当重くなります。もちろん、登下校中の破損リスクもあるでしょう。

そうなると現時点では、自主的な学習ならまだしも、宿題のために毎日の持ち帰りを必須とすることは難しいように思います。ただ発達段階によっても状況は異なるので、例えば小学1年生からではなく、小学3年生ぐらいから持ち帰りを検討するということもあってよいのではないでしょうか。

登下校中に端末を使う必要はないのですから、クラウドサービスが使える状況になれば、家庭のパソコンやスマホでログインして家庭学習をすることもできます。どうしても家庭の端末が使えない場合のみ持ち帰るという方法も考えられます。

――学校では、どのように活用を始めていけばよいでしょうか。

学校設置者である教育委員会が、最初の段階で大きな方針を決め、学校に伝達する必要があります。とりわけ故障した場合の予備機など「お金」に関わる部分と、フィルタリングなど児童生徒の安全に関わる部分は、教育委員会が決めるべきことです。こうした部分は厳密にルール化する一方で、実際の使い方には学校の裁量を認めていくことになります。

学校での使い方のルールは、児童生徒が話し合って決めるのが望ましいでしょう。写真や動画を撮る時やクラウド上でメッセージを送るときなどに、まず目的をはっきり示し、「してもよいこと」と「してはいけないこと」を決めていきます。意外と大変なのが毎日の充電。家庭に端末を持ち帰って充電するのか、学校で保管するなら一人一人が管理するのか、係を決めるのかなど、こうした運用上のルールはまさに学校で決めていく必要があります。

学校ではまた、児童生徒の健康面に配慮することも大切です。端末を長時間使い続けた場合の視力への影響が指摘されていますから、目を休ませる、台などを置いて端末の高さを調節する、良い姿勢を保つといった取り組みも行う方がよいでしょう。

授業以外にも、健康観察や家庭との連絡など、合理化のためにデジタル化できるところは、積極的に進めていけばよいと思います。例えば、児童生徒や保護者が直接話しにくいことを学校に伝えるための、相談フォームを作ってもよいかもしれません。

メールやSNSでは返事を期待されてしまいがちなので、フォームぐらいの距離感がよい。連絡をもらったら、電話したり、直接声を掛けたりというアクションもできます。こうした体制作りについても、現場の様子を見ながら考えていければよいと思います。

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